笑って近づく(短歌なし)


部屋の片づけをしていたら、大学で受講していた授業の冊子が出てきた。学生に小説を書かせてそれらを一冊の本にするという内容の授業で、そこには全35編の作品が収められていた。
代返とかしないでもっと真面目に受けとけばよかったなあ。金曜の4限なんて、友だちとお酒飲みに行っちゃう。浮ついた居酒屋が呼びつけるので、そんな本は棚に入れたまま忘れちゃった。開いてみると、教授、友人、自分、顔も知らない人たちの特殊な言葉、とりどりの物語が載せられていた。1日1編ずつ読み進めていこう。
 
わたしは部屋に虹を招くことが出来ます。お気軽に見に来てね。

 
 
 
 
人間なんかは嫌いだと思っていた。あの子たちすぐに怖い事言うし、頭悪いもん。でもどうやら嫌いではないらしい。正解が無いからぬるぬると掴みどころがなくて苦手で、自分でもちょっとだけ驚くほど興味がある。

優しさ、怒り、話し方、目つき、傘の色、髪の毛、服の皺、歩く速度とか、人間が持っている色々なもの全てが手作りなのをわたしは知っています。真水の中でどんどん異物を取り込んで、それぞれがいびつな真珠を作る貝。
ひとつずつ違う真珠を手に取って、ずっと見つめてみたい。好奇心から目に映った人に無責任に話しかけては、どんな人なんだろうって悦んでいます。迷惑がられるし、たまに面倒ごとに巻き込まれるのに止められない悪い癖です。
これをご覧になっている方とどこかでお会いしたら、初対面の知らない奴から声を掛けられ続けるという恐怖を味わわせます。
 
真珠は無限の色で反射するので、それに取り囲まれているわたしの背景画はやたらチカチカする水玉模様です。うんざりするほど厄介で楽しい。これを目に見える形にして教えてあげられたら良いのに。
チカるのを色々な角度から見ると疑問が生まれ続けるけど、分からないのもおもしろいからいいの。持てる限りの言葉で話してくれる時も、揺れていて何も言えない時も、ノイズまみれの時も、そこに横たわってじっくりと光り方を見てやろうと思っている。
 
人間、嫌いになりきれれば楽だったかもしれないけど仕方がない。会う人全員を恨み倒すと決めていた時に助けてくれたのが人間だったので。しかも優しく助けてもらっちゃって、その人の優しさはどん詰まりの過去から出来てるって気づいてしまい、それならその人を形成する多くのことがその人由来って事かと思ったら、その人も斜視だったところを誰かに助けてもらってて…。引用に引用を重ねるというか、循環しているのか?
ゆるやかにバトンは渡されて大きな流れを構成する要素になってしまい、わたしの絶望もいつか役に立つかもしれないと信じたら人間にめちゃめちゃ話しかけたがる人間になっていた。
 
「あなたは誰?」って問いかけ遊びをずっとひとりでしている。頬杖ついてうっとり喜んでたと思えば、そのうち勝手に落ち込んで「人間のバカ、もう知らない!」って腹を立てたりするんだろうね。気楽なものです。

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