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ワールドトリガーにおける「ボーダー入隊編」の細分化

◯はじめに

ワールドトリガーにはいくつかのエピソード(◯◯編)に分かれていますが、ジャンプSQにはこのように記載されています。

■①〜⑤ ボーダー入隊編
■⑥〜⑩ 近界民大規模侵攻編
■⑪〜⑭ B級ランク戦編 part.1
■⑭〜⑯ ガロプラ侵攻編
■⑯〜㉓ B級ランク戦編 part.2
■㉓〜  遠征選抜試験編

ジャンプSQ10月号

これがいわゆる「公式」のエピソード分けだと思いますが、私の中では時系列を分かりやすくするために「ボーダー入隊編」と「近界民大規模侵攻編」をさらに細分化して整理しています。

今回は「ボーダー入隊編」の細分化を紹介しながら、各エピソードで何が描かれているかをまとめていきたいと思います。

■①〜⑤ ボーダー入隊編

●第1話〜第11話 イレギュラー門編
●第12話〜第23話 玉狛支部入隊編
●第24話〜第32話 黒トリガー争奪戦編
●第33話〜第43話 ボーダー本部交流編

●第1話〜第11話 イレギュラー門編

ワールドトリガーの物語はボーダー隊員の三雲修と近界民の空閑遊真の邂逅から始まりますが、

『「もしオレが死んだら日本に行け」「オレの知り合いがボーダーっていう組織にいるはずだ」親父はいつもそう言ってた。だからおれは日本に来たのさ』

第1話

という台詞から遊真のセントラル・クエスチョンは「父親の知り合いに会う」になります。

しかし第3話で警戒区域の外であるはずの学校にモールモッドが出現したことで、遊真は三門市で起きている「イレギュラー門」の事件に巻き込まれることになり、しばらくはその対応に追われることになります。

「警戒区域の外に近界民が……!? どうなってるんだ!?」
「モールモッド2匹か」
「基地からこんな離れた場所に門が開くなんて……!」

第3話

「まだ詳しいけとはわかってないけど……どうやらボーダーの誘導装置が効かないイレギュラーな門が開き始めてるみたいなの。今本部の技術者たちが総出で原因をさぐってるわ」
「イレギュラーな門……!?」
「あなたたちの学校以外でも、警戒区域外に近界民が現れる事例が昨日から6件報告されているわ」

第7話

「空閑、おまえ今どこにいる?」
「え? 今? 学校」
「学校!? こんな時間に!?」
「レプリカがイレギュラー門の原因に心当たりあるって言うからちょっと調べてまわってる」

第11話

第11話でイレギュラー門の事件は解決するので、ここまでを「イレギュラー門編」としています。

「イレギュラー門編」は後の「近界民大規模侵攻編」の前振りとなっている重要なエピソードと言えます。

「玄界の戦力はほどよく散っている。ラービットが仕事をする舞台は整った。雛鳥のトリガーに脱出機能が付いていないことはラッドの調べでわかっている」

第52話

「先月の上旬、私立第三中学校に近界民が現れた事件がありましたよね。その際現場にいた訓練生がトリガーを使って戦ったという目撃談があります。そこで近界民に情報が漏れたという可能性は……?」

第84話

●第12話〜第23話 玉狛支部入隊編

このエピソードの中で遊真の「父親の知り合いに会う」というセントラル・クエスチョンが達成不可能と判明し、解消されます。

「この迅の黒トリガーが最上さんだ」
「……!? じゃあその人は……」
「最上さんは五年前に黒トリガーを残して死んだ」
「……そうか……このトリガーが……」

第19話

また修のセントラル・クエスチョンであるところの「雨取千佳を守る」も、千佳がボーダーに入隊する意志を示したため、ボーダーの保護下に入ることで間接的に解消されてしまいます。

「ボーダーに入りたい……!? おまえが……!?」
「……うん」
「防衛隊員になるってことか!? 危険だぞ!」

第21話

つまり主人公である遊真と修のセントラル・クエスチョンが解消されてしまうことになりますが、これは物語としてよくある手法であり、例えば『アナと雪の女王』でも

この映画もアナとエルサという二人の主人公はいるが、アナは「運命の人に出会いたい」、エルサは「閉じこもった自分を解放して、本当の私になる」というのが表面的なセントラル・クエスチョンになる。ところが序盤が過ぎたころ、アナは王子を見つけるし、エルサは城を出た後に雪山で「Let It Go 〜ありのままで〜」の歌を唄うシーンでセントラル・クエスチョンは解消している。

ストーリーのつくりかたとひろげかた

と物語の途中で最初に用意された表面的なセントラル・クエスチョンは解消されています。

ワールドトリガーの場合、表面的なセントラル・クエスチョンが解消された直後に物語の根本的なセントラル・クエスチョンである「遠征部隊選抜」が提示されます。

「たった今からお前たちはチームだ。このチームでA級昇格、そして遠征部隊選抜を目指す!」

第21話

いよいよ物語が本格的に動き出す訳ですが、この時点ではまだ読者は「遠征部隊選抜」というセントラル・クエスチョンの重大性を真に理解しているとは言えません。

遠征部隊に選ばれるA級隊員や遠征先で戦う人型近界民の強さを正確に把握していないからです。

それを理解するために用意されているのが、次のエピソードである「黒トリガー争奪戦編」です。

●第24話〜第32話 黒トリガー争奪戦編

ここでセントラル・クエスチョンである「遠征部隊選抜」をすでに達成している遠征部隊のA級部隊(太刀川隊・冬島隊・風間隊)が登場します。

「これが今回の遠征の成果です。お納めください、城戸指令」
「御苦労、無事の帰還なによりだ。ボーダー最精鋭部隊よ」

第24話

この遠征部隊が戦闘する描写を描くことでA級隊員の強さを読者に認識させるのが「黒トリガー争奪戦編」の意義であると言えます。

しかし「黒トリガー争奪戦編」ではそのA級隊員が黒トリガー「風刃」を有する迅に敗北します。

「勝負あり、だな」
「なるほどな……いずれ来る実戦に備えて手の内を隠していたというわけか……」
「悪いね。生粋の能ある鷹なもんで」
『……だが、「風刃」の性能は把握した。あと三週間……正式入隊日までの間に必ずおまえを倒して黒トリガーを回収する』
「残念だけど、そりゃ無理だ」

第31話

これは次の「近界民大規模侵攻編」で敵側に黒トリガー使いが登場するので、その前に黒トリガーの強さを読者に認識させる狙いもあると言えます(遊真が黒トリガーを使った三輪隊との戦いは「初見殺し」としての性質が強いためやや不十分)

●第33話〜第43話 ボーダー本部交流編

ついに正式にボーダーに入隊する遊真と千佳ですが、このエピソードでは今までほとんど玉狛支部だけの人間関係しかなかった修、遊真、千佳が本部での人間関係を形成することになります。

「訓練室に入れ、三雲。おまえの実力を見せてもらう」

第35話

「おれとも勝負しようぜミドリカワ、もしおまえが勝ったら……おれの点を全部やる、1508点」

第39話

「そうかそうか、千佳ちゃんと言うのか。すごいトリオンの才能だねえ、ご両親に感謝しなきゃいかんよ」
「? ? は、はい」

第37話

これにより修たちと本部の隊員、双方で認知度が上がり「近界民大規模侵攻編」がスムーズに進行する効果があります。

「風間が緊急脱出……!?」
「……!!」
(風間先輩が……!?)

第57話

「三雲先輩おまたせっす! 遊真先輩は?」
「空閑はむこうで黒トリガーと……」
「マジか! いいな―!」

第67話

「さっきのはぼくのトリオンじゃなくて、千佳のトリオンをぼくのトリガーで撃っただけです」
『あまとりちか……? 「玉狛のトリオン怪物」か!』

第67話

そのため「近界民大規模侵攻編」のプロローグとしての意味合いが強いかもしれません。

迅が三輪に接触しているのも「近界民大規模侵攻編」の重要な前振りですね。

「今回の大規模侵攻の流れのどこかで、うちのメガネくんがピンチになる。その時に助けてやってほしい」
(予知のサイドエフェクト……)
「三雲が……? なぜ俺に頼む。あんたなり玉狛の連中なり、お供の近界民にやらせるなりすればいい」
「そうしたいとこだけど、その時に駆けつけられそうな人間がおまえしかいないっぽいんだな」

第43話

◯終わりに

今回は「ボーダー入隊編」を細分化しましたが、次は「近界民大規模侵攻編」も細分化してみたいと思います。

【参考文献】

「ストーリーのつくりかたとひろげかた 大ヒット作品を生み出す物語の黄金律/イシイジロウ」

【関連考察】



















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