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なぜ雨取千佳は第12話まで登場しないのか?

◯はじめに

雨取千佳はワールドトリガー第1話のトビラに描かれていますが、本編で(名前を含めて)登場するのは第12話です。

単行本8巻の質問コーナー⑦には

「1話のトビラに描いた4人はそれぞれ主人公と思って書いています」

第8巻

とあり、雨取千佳が主人公の1人であることは間違いありません。

にもかかわらず登場が第12話に持ち越された理由を考えたところ、葦原先生が担当したジャンプSQの「漫画道場」(第2回)の中にそのヒントがありました。

それを元に3つの理由を考えました。

◯千佳の設定を描く前の前振り

1つ目の理由は「千佳の設定を描く前に、読者がそれに興味をもてるように前振りをする」必要があったからです。

雨取千佳の設定を見てみると、かなりワールドトリガー独自の設定が使われていることが読み取れます。

第13話の内容だけで見ても

・「近界民」に狙われている
・「トリオン能力」が非常に高い
・「サイドエフェクト」を持っている
・「ボーダー」には頼りたくない

となっています。

これらの設定の中で、例えば「トリオン能力」は第5話で説明されています。

『トリオン』とはトリガーの動力源である生体エネルギーだ。トリオンは『トリオン器官』と呼ばれる見えない内臓で生み出される」

「こちらの世界では知られていないかもしれないが、人間ならば誰しも心臓の横にその『トリオン器官』をもっている」

「しかし、筋力や運動神経に個人差があるように『トリオン器官』の性能にも人によって優劣がある」

「トリオン器官の性能はトリガーの出力に直結する。同じトリガーを使っても威力に差が出るのは、ユーマとオサムのトリオン能力に差があるからだ」

第5話

この説明が前振りとしてあるからこそ、読者は第13話で千佳の「トリオン能力」が高いことの意味をスムーズに理解することができます。

もし千佳を最初の方で登場させていたら、葦原先生が漫画道場で言っている

今の展開に必要ない説明(設定)が、いきなり差し込まれる

ジャンプSQ/漫画道場

ことになってしまう危険性があり、読者は混乱してしまいます。

◯遊真と修の対比関係

千佳が登場するまでは遊真と修の2人が中心となって物語が展開されていきますが、ここで注目したいのは遊真と修の対比関係です。

ワールドトリガーの序盤は「ある状況に対する遊真と修の行動の対比」が意図的に描かれています。

2つ目の理由はこの「遊真と修の行動の対比」を描くためです。

例えば第1話では

不良が近界民(バムスター)に襲われる

という状況で

「おお、ラッキーあっちに行った。逃げようぜメガネくん」
(不良を助けない遊真)

「ぼくはあいつらを助ける! 空閑は避難しろ!」
(不良を助けに行く修)

第1話

と遊真と修の行動を対比させることで、2人のキャラクター設定を描いています。

これは漫画道場で葦原先生が言っている

世界設定だけでは物語は進まないし、キャラ設定だけではキャラクターは立ちません。主人公のキャラが立ちやすい「状況」、キャラクターが動きやすい「状況」のアイデアを出して、「主人公たちの行動・選択の結果」が物語になるように意識してみましょう

ジャンプSQ/漫画道場

が当てはまります。

他にも第4話の

学校の南館の生徒が近界民(モールモッド)に襲われる

という状況で

「おとなしく他のボーダーを待とうぜ、な?」(修を止める遊真)

「……空閑は避難しろ! ぼくは助けに行く!」(止まらない修)

第4話

と行動の対比が描かれていたり、第8話の

街が近界民(イルガー)に爆撃される

という状況で

『本人が「自分でやる」って言ってんだから放っといてもいいんじゃないの?』
(木虎1人に対処させようとする遊真)

「空閑は木虎に付いてくれ。木虎もはじめて見る近界民だ、いくらA級でも一人じゃ手に負えないかもしれない」
(木虎1人に対処させない修)

第8話

とやはり行動の対比が描かれています。

もし千佳を最初の方で登場させていたら、遊真と修の行動が

千佳を守る

で固定されてしまい、行動の対比を描くことができなくなる可能性があります。

そうなると遊真と修のキャラクター設定を読者は読み取りにくくなる危険性があります。

◯初心者・部外者のキャラクター

最後の理由は「千佳を初心者・部外者のキャラクターとして登場させ、読者のかわりに疑問をもたせる・質問させる」ためです。

例えば第13話で千佳は

「トリオン能力? ……って?」

第13話

と「トリオン能力」について質問し、

「近界民の武器を使うための特殊な力だ」

第13話

と修が答えています。

内容としては第5話ですでに説明されていますが、読者がそれを覚えているとは限りません。

そのため、初心者・部外者である千佳に質問させて他のキャラクターに答えさせることで、読者がワールドトリガーの設定を思い出せるようになっています。

他にも第18話で

「そういえば、遊真くんはどうしてこっちの世界にきたの?」

第18話

と遊真に質問し、

「『もしオレが死んたら日本に行け』『知り合いがボーダーっていう組織にいるはずだ』親父がよくそう言ってたから日本に来たんだ」

第18話

と、第1話で遊真が修に言った内容をほぼそのまま答えることで、読者はその状況設定を思い出すことが出来ます。

もし千佳を最初の方で登場させていたら、千佳に初心者・部外者のキャラクターとして質問させることが出来なくなり、読者が設定を思い出せなくなる危険性があります。

◯終わりに

いろいろ書きましたが、結論としては「葦原先生の漫画道場を読みましょう」ということですね。

Xで公開されているので、ぜひ読んでください。





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