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「虹獣(コウジュウ)」6章:タウォ 4話:女王(ジョウオウ)

 蜜蜂の女王からヒントを得たタウォは、自らが地球の女王として君臨すべく、より大きく成長する為に努力を費やす日々を過ごすのであった。努力と言ってもタウォの努力は愚直なまでに自身の力を増大させる為であり、他の生物を吸収する事に躍起になっていた。昆虫類を吸収する事により大きくなったタウォは次なる標的として小動物を対象としていくのであった。

 どのような小動物を吸収するのが良いだろうか?思案に明け暮れていた時に川へと何ものかが近付いてくる…。ドグマとなったリルトである。姿や発するオーラは違えど根底にあるのはリルトであった。タウォの気付きの早さは好意故のものであろうか?今後の事が決まっておらず暇をしていたタウォは、好意故のからかいを行いたい衝動に駆られ、水を飲もうとしたドグマに対し少しの水を飛び上がらせドグマを驚かせるのであった。咄嗟の事に驚き素早く後方へとジャンプし警戒態勢を取るドグマ。
「っ…なんだ?」
警戒心を高めたドグマは川の様子を強く観察し少しの時間を警戒したまま過ごしていたが、何事も無さそうな事を確認すると改めて川へと近付き水を飲み喉の渇きを潤すのであった。
「あぁ…、ドグマ…愛しい愛しいリルト…。そなたは何故そのようになってしまったのじゃ?それでも、そなたはそなたじゃ…」
ドグマが水を飲む姿をすぐ近くの川の中から眺めタウォは呟く。リルトがドグマへと豹変してしまった事を深く気にしつつも、根底にあるのはリルトに変わりは無いとリルトを肯定しつつ見守るタウォ。
「あぁぁ…ドグマよ!そなたとわらわの距離はこんなにも近いのに、どうして心の距離は遠いのであろう…」
物理的距離は近いのに精神的距離の遠さにもどかしさを感じるタウォ。
「今のわらわでは不甲斐ないのであろう…。ドグマよ…、いやリルトよ!わらわはそなたに相応しいだけの力を手に入れてみせる!相応しいだけの成長を遂げてみせるぞ!その時こそ、わらわとそなたは融合し一つになるのじゃ!」
タウォは水を飲むドグマを見詰めながら、独り善がりな妄想を抱き快楽に耽るのであった。

 ドグマと別れ再び今後の事を考えさせられるタウォ。ドグマは川沿いにある排水路を棲み処としていた。その事にヒントを得て、上流から下流へと排水路をくまなく偵察するタウォ。各々の排水路には虫が住み着いていたり、ネズミが住み着いていたり、昆虫や小動物が棲み処としていてタウォにとっては願ったり叶ったりの状況であった。そんな排水路の内、ネズミを多く認識した排水路をターゲットとして目標に定める。ネズミが多く棲む排水路へと上がり奥にいるネズミ達へと慎重に近付くタウォ。しかし、タウォの微かな気配を感じ取ったネズミ達は排水路の奥深くへと走って逃げて行くのであった。
「なんという…、折角わらわが可愛がって、わらわの一部にしてあげたものを…」
タウォはネズミ達に逃げられた事により、その悔しさを自らを尊大に扱う事によって慰めるのであった。
「ん~…、ネズミは逃げるか…。何かあのもの達を誘き出すような手があればいいのじゃがのぅ…」
そう思案していた頃、ドグマは再び形態を変えルフゥと成り果てていた。ルフゥとなったリルトは、自らの生存の為に同種の仲間達の為にペットフードを盗み出し、それを日々の食糧とし生を保っていた。そんな様子を眺めていたタウォは、
「ペットフード…か…。多少の差はあれど近しい生き物なら好んで食べるであろう…。んぅ…、そうか…、ペットフードを餌にしネズミ達を誘き寄せるとしよう」
タウォはそう決断するとルフゥの居ぬ間に備蓄されたペットフードの一部を奪い去るのであった。
「んふふっ…、これでネズミ達を誘き寄せる事が出来る」
そう呟きながらタウォはネズミを多く認識した排水路へと戻り、排水路の中ほど辺りに餌をばら撒き、その餌を包囲するように排水路の壁や天井へと自らの形態を薄く伸ばして待ち伏せるのであった。一時間くらい待っただろうか?排水路の奥よりネズミ達が壁際を一列に並びながら歩いて来た。途中途中で少し立ち止まっては顔を上げ、鼻をピクピクと動かしなら周囲の様子を伺いつつ、段々とタウォがばら撒いた餌へと近付いて来る。
「ネズミというものは、わらわをとことん焦らすものじゃのぅ…」
タウォは、ゆっくりゆっくりと警戒しながら近付いてくるネズミに対し、焦らされているような感覚を覚え、苛立ちを感じながらも慎重にネズミ達の動向を観察し続けるのであった。やがてネズミ達はタウォがばら撒いた餌へと到着し、周囲の様子を伺いながらその餌へと食らい付く。一匹…二匹…三匹…。ネズミ達は全部で六匹居た。早くに襲い掛かっては得るネズミが少なくなってしまうだろう。かと言って遅くに襲い掛かっては餌を確保して逃げられてしまうかも知れない。タイミングの問題だ。タウォはウズウズとした気持ちを抑制しながらタイミングを計っていた。四匹目が餌へと食らい付き五匹目六匹目が後へと続く。
「今じゃ!」
タウォは絶妙なタイミングを計って薄く伸ばした自身を餌に群がったネズミへと向けて包囲を狭めるのであった。急に何かが迫って来た事により驚くネズミ達、逃げようにも巧みに包囲された現状から逃れる術も無く、ただ一匹最後尾にいたネズミだけが逃げ果せたが他の五匹はタウォの体内へと包み込まれ溺れ出すのであった。
「あははっ!暴れる暴れる…。わらわの胎内で激しく暴れておる…」
「そう…、元気に暴れまくるがいい…。そなたらの生命力、わらわが活かしてやるぞ」
タウォは溺れてもがき苦しむネズミ達を見詰めながら、そう呟く。段々と抵抗する力が弱まり大人しくなってきたネズミ達は、ピクッ…ピクピクッ…と少し痙攣する程度までに弱り出していた。
「むふぅ…、ネズミと言うものは思ったよりあっけないものじゃのぅ…」
勝ち目が無いと解りながらも最期まで果敢に挑んできた蜜蜂と比べ、その蜜蜂達よりも大きい体をしているのに抵抗らしい抵抗も無く、反撃らしい反撃も無く、いとも簡単に事が済んでしまった事にタウォは拍子抜けをしていた。やがてネズミ達は動かなくなり、その生命をタウォの糧として吸収されていくのであった。
「おぉ…、そうじゃ!猫はネズミを好むと言う…。ネズミの一部を保存良く残しておくかのぅ?」
「そうすれば、リルトは喜んでわらわに懐いてくれるかも知れぬのぅ…」
「んふふっ…。わらわの糧にもなり愛しのリルトへの贈り物ともなる…。ネズミ達よ…、たくさんのネズミ達よ!わらわの胎内を味わいに謁見しに来るが良いぞ…。ほほほっ」
やや妄想染みた想いに囚われタウォは排水路の中で高笑いをするのであった。

 ルフゥとなったリルトを探し川沿いを移動するタウォ。少しの時間を経て川沿いへと排水路の穴から出てくるルフゥに遭遇する。
「わらわのルフゥ…。愛しい愛しいルフゥ…。わらわの贈り物を喜んでくれるだろうか?」
タウォは贈り物を喜んでくれるルフゥの姿を妄想し、恍惚とした気分に一時浸っていたが、改めてルフゥの姿をしっかりと見詰めると、シガールなる獣がルフゥを襲おうとしていた。
「危ない!!」
タウォは咄嗟に水を飲もうとしていたルフゥの顔へと飛沫を掛け、危うく噛まれるところであったルフゥを助けるのであった。
「なんじゃ、あの獣は!わらわの愛しのルフゥを攻撃しようとした。許せない……」
タウォは怒り何とかしてシガール達を倒そうと思ったが、
「あのもの達は犬か…、犬を倒せるだけの力はまだわらわにはない…、口惜しい…」
シガールの攻撃が続いていればタウォは無我夢中で倒そうとしたかも知れない。しかし、ルフゥとシガール達はどうやら話し合いをしている様子で、少し安心をしたタウォは暫く様子を伺う事にした。
「よくよく考えてみたら、まだわらわの力は弱い…。今の状態でルフゥに知られる事は恥ずかしい…。もっともっと力を付けてから、わらわをルフゥにお披露目するのじゃ」
「そうすれば…、ルフゥもわらわを愛してくれるのじゃ」
タウォは熟慮と妄想が入り混じった想いを抱き、目の前からシガール達が立ち去ったのを確認して、タウォ自身もルフゥの前から静かに立ち去るのであった。

 ネズミを吸収し続けていたタウォは、ある日排水路にてエティとルナ二匹の獣に遭遇した。
「んぅ…、猫はともかく大型犬は今のわらわには未だ分が悪いのぅ…」
そう呟くタウォと対峙するエティとルナは互いに警戒心を高め、どうしたものかと判断に迷っていた。そんな所に一匹の獣が訪れる、ルノアとなったリルトである。ルノアの気配に気付くタウォ、タウォの様子の変わりようを不可思議に思うエティとルナ。
「そなたか…」
タウォはそう呟くと排水路の出口を塞いでいた自身を退かせ、どこともなく消え去ってしまうのであった。
「リルト…、今やルノアか…。そなたはそなたで苦しんできたのであろう…。だが、その苦しみも、もう少しじゃ!わらわがもっともっと成長した時…わらわとそなたは一つになるのじゃ」
タウォは自らが一滴の水でしかなかった頃を思い浮かべ、一方的に憧れ恋をしたリルトへの想いを歪んだ気持ちで膨らませていくのであった。

 リルトへの想いを膨らませつつも抑制し、ひたすらネズミ達を吸収するタウォは狂気染みた性格が露わになり出していた。
「ちっちっちっ…、そうじゃないのさ…。もっともっと…ギリギリまで抗ってみせるのじゃ」
ネズミ達を糧とし吸収し続けていたタウォは、ネズミ達のあっけなさに退屈さを感じており、敢えてネズミ達に多少の呼吸を可能にした上で、より長時間弄ぶような行動をし続けるのであった。それでも耐久力の低いネズミであるし、逃がすつもりなど無いタウォの意向によって全てのネズミ達はタウォの糧とし吸収されていくのであった。
「ふぅん…、そろそろ…ネズミも終いかのぅ?」
ネズミ達を吸収する事に躍起になっていたタウォは、次なるステージを考え出す時期が到来し出していたのであった。そんな転換期の最中、川辺でルノア一行と遭遇する。いや、正確にはタウォが一方的にルノア達を見付けた状況であった。タウォは今までの自身の経験と、獣が置かれている現状を照らし合わせ、ルノアの脳に直接語り掛けるのであった。
「人間を滅ぼしなさい。人間は全ての生物にとって悪だ…。生きる事は常に競争、人間を滅ぼさずして獣の繁栄はない…」
脳に響き渡るメッセージに困惑しているルノア。そんなルノアを心配するパラとのやり取りを眺めつつ、ルノアの研ぎ澄まされた感受性に感動を覚えるのであった。
「んふふっ…、ルノアは才能の高い子だ…。それでこそわらわが認めた獣じゃ。それでこそわらわと融合する意義がある…」
「ルノアよ…、リルトよ!わらわと一つになるまで壮健であれ!わらわとそなたが一つになる時、その時こそ人類に対し大きな革命を果たす時なのじゃ!」



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