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「虹獣(コウジュウ)」6章:タウォ 5話:風獣(フウジュウ)

 ネズミ達の吸収に飽きてきたタウォは更なるステージへと進むべく次なる獲物は何が良いかと思案するのであった。そんな折、ルノア達が人間達と対立している事に気付く。
「ん…、ルノア達の意思に関わらず必然的にそうなったか…」
タウォはそう呟きながらルノア達がどう人間達に対処していくのか興味深く見守る事にした。
「それにしても…、あのパラという獣…。ルノアに近付き過ぎではないか?わらわのルノアに…」
タウォはルノア達を見守りながら、ルノアの傍に居続け時にルノアと触れ合うパラに嫉妬を抱くのであった。
「その位置はわらわのものじゃ…。わらわのルノアを奪いおって…。わらわもルノアと触れ合いたい…、ルノアと交わりたい…」
タウォは陰からルノアを眺めながら段々と欲求を肥大化させていくのであった。
「憎い…憎い、憎い!わらわの方が先にルノアと、リルトと知り合ったのに!後から来てルノアの心をたぶらかす!」
タウォのルノアへの一方的な想いは、嫉妬から憎悪の感情を生み出しタウォの心を暗く染めていくのであった。そんな感情に染まりながらもルノア達を見守り続けるタウォは、人間達に追い詰められ危機に陥ったルノア達を目の当たりにする。そしてその危機はルナやエティの犠牲によって脱するのであった。
「ルノア達は人間に抗い切れなかったか…。しかし…、ルナやエティが犠牲になっているのに、どうしてパラが生き延びているのか?あのような売女が真っ先に犠牲になって然るべきものを…」
タウォのパラに対する憎悪は増すばかりで、その憎悪は確固たる殺意へと気持ちを昂らせていくのであった。やがてタウォはルナやエティの亡骸を食し交わり合うルノアとパラを目の当たりにする。
「ルノアの…、リルトの!純潔を売女如きが交わり穢しおって!掃いて捨てる獣風情が!プライド無き雌猫風情が!」
タウォの怒りは頂点へと達しパラを殺害する意思を固めるのであった。
「ルノアもルノアじゃ…。あんな売女に惑わされおって…。わらわというものがおるのに…。そうさ、ルノアは惑わされておるのじゃ。ルノアの目を覚ましてやらねばならぬ…」
タウォはルノアを一方的に好くあまりにルノアの意思を尊重する事もせず、タウォ自身の正しさをルノアへと押し付ける気持ちが増大していくのであった。パラを殺害するにあたってルノアとパラの動向を観察するタウォ。ルノア達はルナとエティの遺骨を皆が暮らした排水路へと運び出していた。
「排水路か…。水辺が近くわらわの力を活かしやすい領域。そして奥は狭く逃げ場が無い。殺すならここだろう…」
タウォはそう決意すると排水路の外でパラを待ち構える態勢を取るのであった。
「さて…、どう殺してやろう…。わらわが感じた屈辱をタップリと味わってもらわねばな…」
憎悪が脳の隅々まで浸透していたタウォは、パラを簡単には殺さず、なぶり殺しにしたい気持ちで溢れかえっていた。
「しかし…、ルノアに妨害されるか…。ルノアはパラを護るであろう。口惜しい!」
憎悪に染まりながらも、どこか冷静さを保つタウォは、愛しのルノアがタウォから見て利敵行為を行う事や、パラがルノアの愛情を独占している事に強い嫉妬を憶えるのであった。そんな感情を抱きつつ、ふと地面に目を向けると手頃な木の棒が落ちていた。
「んぅ…、この棒、使えるな。わらわが接近してパラを殺そうとすればルノアに妨害されやすくなるだろう。妨害を招かないように殺害または致命傷を与えるには遠距離からの攻撃がいい」
「後はタイミングか…。排水路の穴の中にいては狙いが定め難くなる。かと言って近寄れば感づかれてしまう…。このまま川の水に擬態をして、排水路から出て来るのを待つのじゃ…」
そう呟きタウォは逸る気持ちを抑えながら、まだかまだかとパラが出て来るのを待ち構えるのであった。

 タウォにしては長い時間、客観的には短い時間の経過を経て、パラとルノアが排水路の出口付近へと姿を現した。
「ルノアはわらわのものさ!畜生風情が独占するではない!」
タウォはそう叫びながら、鋭利に尖った木の棒をポンプのように撃ち出し、パラへと向けて発射するのであった。
 狙いも速度も良く仕留めたと思うタウォであったが、獣の敏捷性を侮っており一瞬ルノアに庇われたパラを見て愕然とする。このままではルノアが死んでしまうと…。それも束の間、それを更に庇おうとするパラによって、発射した木の棒はパラへと突き刺さるのであった。
「はっぁ…あぁ……。結果的には善しじゃ…」
一瞬、自分のミスで愛するルノアを殺しそうになったタウォであったが、結果的には当初の目的を果たした事で、動揺しつつも安堵するのであった。
 興奮を落ち着かせるようにしながら、ルノアとパラの成り行きを眺めるタウォ。
「これでルノアの目を覚ます事が出来るのじゃ…。これでルノアは独りぼっちじゃ…。わらわと結ばれるしか選択肢は残っていないのじゃ……」
タウォは穢れたパラからルノアを救った達成感。愛しのルノアにもう頼る相手はいないとの思い違い。自分の愛の深さは絶対に通じるという独善的な思い込みによって、恍惚としながらルノアとの融合を待ちわびるのであった。
 しかし、パラが殺された事によって激高し襲い掛かって来るルノア。タウォは激しく驚きながらも本能的に身を守るのであった。
「水と土を融合させ…」
タウォはそう呟きながら、大きな土の盾を作りルノアの攻撃を弾き返す。
「ルノア…どうしてじゃ…。わらわはこんなにも愛しているのじゃ……」
タウォは身を守りながらも、愛するルノアの攻撃に戸惑いそう呟くのであった。そんなタウォにお構いなく攻撃の手を緩めないルノア、タウォは仕方が無くルノアを傷つけないように拘束する手段に出る。
「水と木を融合させ…」
タウォはそう呟きながらツルを過剰育成し、そのツルを使ってルノアの手足や体を縛り付け拘束するのであった。拘束されたルノアは戦意を失わないどころか、より激しく猛り戦意を露わにしてくる。ルノアを拘束しながらタウォは戸惑い考え続ける。
「何故じゃ…?わらわはこんなにもルノアを愛している。その愛が通じない訳はない…。」
「そうじゃ…!ルノアはまだ惑わされたままなのじゃ。落ち着いて冷静になれば、わらわの愛に感謝するであろう。一時の時間が必要なのじゃ…」
そう呟きつつ、潔い死を覚悟しているルノアを見つめる。そして少しの間を置き、
「うふふっ…、わらわはそなたを殺すつもりはない…。同志として迎えたいのじゃ。共に人間に穢されたものとしてな…」
そう言うや否やルノアを縛り付けていたツルを戻し、タウォはルノアに冷静さを取り戻す猶予を与える為に、大人しく引き去るのであった。
 タウォは川沿いを遡り上流にある池へと辿り着く。途中にすれ違った一滴達や池の一滴達によるタウォへの罵詈雑言、誹謗中傷、そんなものには気を留めず、タウォはもうすぐ訪れるルノアとの融合を夢見て妄想し、自覚無きまま独裁的な女王の性格を強めていくのであった。

 七三一の下で優しく抱かれ撫でられ介抱されるルノア。深い眠りに入っていたルノアであるが、タウォのヘドロのように歪んだ気を繊細に感じ取り眠りから目覚めるのであった。
「行かなきゃ…」
そうルノアは淡々と七三一へ向けて伝えた。憔悴し切ったルノアを内心で心配しつつも、この子はそれが性分なのであろうと、ともすれば自分が出来る事は優しく見送り温かく迎える事くらいであろうと思い、再び優しくルノアを送り出すのであった。



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