10マインドフル・ステップス仏陀の次第説法②戒の話:前編

皆さんこんにちは。

前回の10マインドフル・ステップス 仏陀の次第説法①布施:後編では、仏陀の次第説法の布施についての説明をさせていただきました。

今回は、仏陀の次第説法の二番目のステップである戒について解説していきたいと思います。

前編と後編に分けて解説したいと思います。


戒は仏教の重要な修行の一つ

戒は仏教では重要な修行の一つで、上座部仏教の十波羅蜜でも大乗仏教の六波羅蜜でも二番目は戒の項目になっています。

また、八正道を簡略化して戒(戒と律)・定(瞑想や禅定)・慧(智慧)に分類した三学でも戒はその一角である戒学として語られています。

仏教では幅広い意味で戒律という言葉を使いますが、在家・出家に共通の基本的な戒めについては戒として、その基本的な戒めに加えて出家者を対象に僧団の行動規範や規則として説かれた律としての性質を持つ倶足戒があります。

ここでは仏陀の次第説法として説いたであろう戒の話がテーマなので、一般の人々を対象として解説したいと思いますので出家の律である倶足戒については特に詳しく解説することはしない予定です。

これから、戒と律の違いなどの簡単な説明をしてから仏陀の説かれた戒の話について五戒をベースにして解説して行きたいと思います。


戒とはなにか

仏教の戒(シーラ:sīla)とは、宗教的な戒律という意味ではなくて心を清らかにするために必要な訓練や生き方や道徳などという意味で理解した方が適切だと思います。

仏教では、外部の権威者による指令や伝授や洗礼などの儀式儀礼などによって清浄になるという宗教的な救済は説いていません。

身(身体)口(言葉)意(心)でおこなう行為を非常に重要視するのですが、いきなり心の管理を行うのは難しいので身体と言葉を管理する訓練から始められるように戒を説いたのです。

仏教での戒は、基本的には仏陀による指令ではありませんので教えを聴いた各自が心がける自発的な訓練なので罰則規定などはありません。


僧団のルールとして律

出家の倶足戒の場合は、僧団の規則としての性質があるので戒とは少々事情が異なります。

諸説ありますが、仏陀は初期の十数年程は戒を項目として明文化したり罰則規定を設ける律としての形で説くことを避けて伝道していたようです。

しかし、僧団の規模が大きくなるにつれて様々なトラブルが起きたり不祥事を起こす出家が出てきたのでそれに対処するために戒律項目を制定したり僧団の規定としての律が作られるようになったと言われています。

律(ヴィナヤ:Vinaya)の場合は、僧団に所属する出家者を対象に僧団内部の秩序を守ったり外部との摩擦を避ける目的で設けられた僧団の行動規範や規則なので戒とは違って罰則が設けられていて違反した場合は処罰や追放を受ける場合もあります。

それをまとめたものが律蔵です。

仏教での戒と律の違いについては簡単に説明したので、次は基本的な五戒などの項目を一通り紹介したいと思います。


五戒

仏教の基本的な戒には五戒と呼ばれる五つの戒があります。

①不殺生戒(ふせっしょうかい) - 殺生をしない

②不偸盗戒(ふちゅうとうかい) - 与えられていないものを取らない

③不邪淫戒(ふじゃいんかい) - 不倫などの道徳に反する性行為をしない

④不妄語戒(ふもうごかい) - 偽りを語らない

⑤不飲酒戒(ふおんじゅかい) -判断能力を失わせる原因になる酒や麻薬などを避ける

以上の五項目が五戒です。

また、毎月上記の五戒に代えて月に何度か八戒を守る仏教徒もいます。


八戒

在家の仏教徒が修行者に習って、月に数回普段の五戒に変わって八項目の戒を守る場合もあります。

八戒には、伝統的なものと五戒に言葉の戒めを三つ足した簡易的なものの二種類があります。

伝統的な八戒は、五戒の不邪淫戒を不淫戒(性行為をしないこと)に変えた五項目に以下の3つの項目を足したものです。

①正午以降は食事をしないこと

②歌や舞や演劇などの娯楽を鑑賞したり、装飾品、化粧・香水などで身を飾らないこと

③贅沢な寝具や座具でくつろがないこと


簡易的な八戒は、五戒に以下の言葉の戒めを三種類加えたものです。

①不綺語(ふきご) 無駄話をしないこと

②不悪口(ふあっく) 乱暴な言葉を使わないこと

③不両舌(ふりょうぜつ) 他人を仲違いさせるようなことを言わないこと

これらの八戒は、通常の在家生活では常に守ることは難しいので月に数回程度決めた日に守るか、お寺や道場などで集中的に修行する人がその期間に限定的に守る戒なのです。

戒の各項目の内容の説明は長くなるので、各項目については後編で詳しく掘り下げて解説したいと思います。

もう一度、仏教の戒についての説明に戻りたいと思います。

戒についてはいくつかの視点からそれぞれ説明することができます。


個人の修行としての戒

仏教を学んで実践する個人が、自らの心を清らかにするために身体と言葉の行為を管理する行動療法や瞑想修行が問題なく進捗するための環境を整備する目的で行うのが個人の修行としての戒です。

このような個人が自発的に取り組む訓練としての戒の場合は、誰かに命じられて守る規則ではないので基本的には監視や罰則はありません。


他の生命との関わり方としての戒

五戒を例にして戒を分析してみると、不飲酒戒以外の四項目は他の生命との関わり方について説かれているということができます。

不飲酒戒の場合も、酔って判断能力が麻痺すれば他の生命とトラブルを起こす可能性が高まりますので間接的には関係していると捉えることも可能です。

他の生命との関わり方としての戒は、理性的に考えて戒の意義を理解して実践すれば慈悲や布施の実践としてより高度な形で行うことも可能です。

例えば不殺生戒は、殺生をしないという戒を文字通り守るレベルから生命に対する慈しみを育てる実践に昇華することもできます。

不偸盗戒は、与えられていないものを取らないという意味に留まらず自分の財物や知識に対する執着を減らして他の生命にも分け与える布施の実践として行うことも可能です。

戒はただ単に文字通り「○○をしない」という表面的な理解や実践に留まらず、実践を通して理解を深めれば柔軟に解釈して幅広く深く実践することができます。

戒には項目をただ守るという初歩的な修行の段階から、聖なる戒と呼ばれる悟りに達した聖者の生き方としての戒の段階までかなり深遠で幅広い意味で説明することができます。


戒が否定形で説かれてる理由

仏教の戒が「○○しないこと」という否定形で説かれている理由についても少し考察してみる必要があります。

不殺生戒を例に考えてみると、「生きものを殺さない」は明確で分かりやすいし実践することも可能ですが、「生きものを慈しむ」と言い換えて説いてしまうと意味が不明瞭で一般の人々には実践することが難しくなる可能性もあります。

理解能力の乏しい人の場合は、慈しみとは俗世間的な愛のことだと誤解して自分の好みの狭い範囲での特定の生きものに対しての愛着を強化する方向に向かってしまったりする可能性があります。

仏教を学んで瞑想などをすると途端に偏った菜食主義や動物愛護…(大抵の場合は植物や虫や肉食をする人などはその慈しみの範疇には含まれない)…に目覚めて偏屈な性格に豹変して「お前たちには生きものに対する慈しみが足りないんだ」と他人を激しく非難するようになる人も珍しくないのです。

不邪淫戒を「正しい恋愛や性行為をすること」などと言い換えてしまうと、愛を実践するためにはパートナーが必要だと考えてナンパに出掛けたり恋愛や性行為に耽ってしまう危険もあります。

実際にそのような解釈をして、瞑想に性の修行を組み込んで不特定多数と性的関係を持つことや特別なパートナーとの性行為でスピリチュアルな徳が高まるなどと主張して愛着を強化する方向に向かってしまったり性的な不祥事を起こしてしまう人は仏教の世界でも度々現れます。

このように、基本的には人々は自分の理解能力の範囲や好みで教えを聴いて都合よく解釈して誤解するということはよく起こることなので、仏教の戒は「○○しないこと」という否定形で明確に説くことで教えを聴く人々が誤解しないよう配慮しているのです。


迷惑行為をすると社会的な非難は受ける

仏教の戒は個人が自発的に取り組むことなので罰則規定はないことは説明しましたが、戒は他の生命との関わり方としての側面もありますから社会の迷惑になる行為をすると在家の仏教集団でもトラブルが起きたり社会的な非難や処分を受けることは当然あります。

例えば、法話会の途中でスマホをマナーモードにしないで鳴らすことや通話に出ることや私語や持論を主張して法話を妨害したり、瞑想合宿や坐禅会に場にそぐわない不適切な格好で参加したり、沈黙行を守らないで音楽を流して瞑想したり読経をしはじめたり、指導者の指示に従わないで勝手に振る舞うことなどの集団行動を妨害する迷惑行為を行うと現実問題としてその集団のメンバーからは非難されたり排除されたりします。

自宅などで独りでやる分にはある程度は個人の自由なのですが、集団で活動する場合は在家の仏教団体でも迷惑行為をして注意されても従わない場合は帰らされたり、悪質な場合や常習犯の場合は出入り禁止にされるということは普通に起こります。


大事なポイント

・仏教の戒は宗教的な権威者から指令されるものではなく、個人が自発的に取り組む課題なので罰則規定はありません。

・出家の律の場合は、在家の戒とは違って出家の僧団の行動規範なので罰則規定があります。

・基本的な戒である五戒は、①不殺生戒( 殺生をしない)、②不偸盗戒( 与えられていないものを取らない)、③不邪淫戒( 不倫などの道徳に反する性行為をしない)、④不妄語戒(偽りを語らない)、⑤不飲酒戒(判断能力を失わせる原因になる酒や麻薬などを避ける)の五項目です。

・戒は単に項目を守るレベルから、聖者の生き方としてのレベルまで幅広く深い実践です。

・戒には罰則はありませんが、迷惑行為をすると社会的な非難や処罰は受けます。


終わり

今回は、仏陀の次第説法の二番目のステップである戒について説明させていただきました。

次回は、10マインドフル・ステップス 仏陀の次第説法②戒の話:後編で五戒の各項目の具体的な説明などをしたいと予定しています。

ここまで読んで下さった方々に智慧の光が現れますようにと御祈念申し上げます。