見出し画像

2020年間ベスト大阪スパイスカレー5選

今年は新型コロナウィルスのせいでロクなことがなかった。当たり前だった日常が当たり前ではなくなった。変化を余儀なくされた。様々な淘汰や分断が起こった。しかしそれでも、カレーは失われない。カレー作りとは一種の表現であり、表現とは生理的欲求である。"やるべきかやらざるべきか" ではなく "やるしかない" のである。以下に羅列した5つのカレーは、そういった本能、やるしかないのやっていきに突き動かされたであろう表現衝動の成果であり、決してこの現状を好転させたりはしないものの、少なくとも自分の生活を豊かにするエネルギーとなってくれた、とても貴重な5皿である。これらがあなたのエネルギーにもなることを願う。

なお、自分の Instagram ではその日に食べたカレーを逐一記録し続けているので、カレー好きの方はこちらもぜひチェックを。




5. pimer(肥後橋)

画像5

一応最寄り駅は肥後橋ということになるが、微妙にどの駅からも遠く、若干わかりにくい場所にあるこの店。しかしながら味の方は間違いない。写真は南瓜イエローポタージュカリー、キャベツと豆 MIX キーマ、牡蠣オイル漬けの3種盛り。週によって使用される具材は異なるが、基本的にはこういったポタージュ×キーマ×おかずというコンビネーションのメニューが1種類のみ提供されている。濃厚でほくほくした甘味のポタージュカリーと、肉々しい野性味のあるキーマ。この質感の違う両者が絶妙なバランスで釣り合っており、単体ではもちろん、混ぜて食べても格別の味わい。全体的にフレンチを思わせるような上品さがあり、主張の強い旨味を綺麗に洗練させていて、その完成度の高さに思わず唸らされる。そして BGM はチルな雰囲気。この時は Khruangbin が流れていた。カレーの芳醇さを引き立てるにはピッタリのセレクトで、食べている間はちょっとした贅沢をしている気分になれる。あとなぜか食後にヤクルトが一本ついてくるのがユニーク。

HP / Instagram


4. アマゾネス・ブッチャー(十三)

画像2

ある意味で大阪という街のパブリックイメージをそのまま体現している下町歓楽街であるところの十三。なのでこの店もまあ結構なパンチが効いているのである。写真は不死鳥チキンカレー、セロリ葉マトンキーマ、マスタードダルカレーの3種盛り。体を内側からほてらせるスパイスの豊かな風味と刺激、そこに酸味もバシッと効いており、エスニックな旨味を独自の感性でアレンジした末の猥雑さがインパクト大だが、口当たりはサラサラしていて意外と食べやすかったりする。十三で呑んだ後なんかにはピッタリかもしれない。あと店構えも強烈で、店内には黒夢や SADS の様々な時期のポスターがズラリと並び、テレビには "1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT" の DVD がフルで流れ、ご丁寧にオブジェとして首吊りロープまで飾ってあるという重度の清春信者っぷり。なるほどグラムやパンクや歌謡曲の影響が混在した清春の魅力と、この店が打ち出すアクの強い趣向は密接にリンクしていると言えるだろう。ついつい贔屓にしたくなるクレイジーさである。

Instagram / Twitter


3. SPICE CURRY 43(阿波座)

画像5

個人的に今年最も訪れた回数が多かったのがこちら。写真は瀬戸内レモンスプラッシュとカリカリ梅スプラッシュの2種盛り。これがこの店一番の看板メニューである。チキンの旨味とレモンのフレッシュな酸味をバランス良く引き立てた前者と、梅の酸味からえぐみを抜き、和風出汁でさっぱり上品に仕上げた後者。基本にあるのはネパールカレーのスタイルだが、掟破りにも思えるこれらの食材活用法により、完全にオリジナルのカレーを生み出すことに成功している。最近のスパイスカレーブームならではと言うべきか、非常にポップに彩られたエスニック感で、ネパール系に抵抗のある人でもこれは取っつきやすいのではないかと思う。他には丸みを帯びた優しい味わいのポークカレー、鮮やかなトマト感が印象的なチキンキーマ、また期間限定のスペシャルメニューとしてスープカレー、ポタージュカレー、ダルバートなどが出てくることもあり、これら豊かなアイディアの数々をチェックするのも楽しい。BGM はサルサやクンビアといった軽快なラテン音楽。食べながら小躍りしたくなること必至。

Facebook / Instagram / Twitter


2. あきらカレー(肥後橋)

画像5

居酒屋「日本酒のめるとこ」の店主が火・木・土曜の昼間のみ二毛作的に始めたこちらのカレー。写真はローストポーク・牡蠣・菊菜のジェノベーゼ乗せスパイス炒飯と、牛スジ・イカ下足・長芋のカレー。メニューを読んで意味がわかるだろうか。自分は全くわからなかった。けれど実際に食べてみればわかる。上記の具材全てが手を取り合って共存し、カレー内におけるダイバーシティが見事に実現されているのだ。しっとりした食感の炒飯と、ほとんど出汁スープ状態なシャバシャバのカレー。ここに加わる具材は週ごとにガラリと入れ替わるのだが、だいたいいつもこんな調子で発想が凄まじいことになっている。麻婆や炒飯といった中華の要素を融合させる手法は、スパイスカレー界隈ではここ数年のトレンドになっていて、それ自体はそこまで珍しいものではない。しかしこの店の手法はいくらなんでもブッ飛びすぎている。いったいどういう計算でこの結論に達しているのか見当すらつかないが、まさしく一切の禁じ手なし、食べているうちに目が回ってくる突然変異カレーである。こういった自由奔放さも最近のスパイスカレーブームらしさを象徴していると言えるだろう。BGM は普通に日本のヒット曲

Instagram / Twitter


1. ガンジーカレー(天神橋筋六丁目)

画像5

写真はカレー全種類(キーマ、チキン、フィッシュ、ヤサイ)を盛ったガンジープレート。見た目は今回のリストの中で最も地味ではあるものの、味は最も強いスパイス力(ちから)を感じる。水分少なめのキーマは特に濃厚さが際立ち、チキンは対照的に柔らかな味わい。そしてフィッシュは鯖のエキスがこれでもかと浸出し、ヤサイはカレーと言うよりもスパイス野菜炒め的なドライさで、ナスやオクラなどの食感がそのまま活かされている。いずれのカレーにしても具材の旨味がガッツリ凝縮されており、辛さも塩味も非常にシャープ。余計な要素を極力排除し、奥深さのみをストイックに追求した果ての、極めて武骨で潔いインドカレーである。スナックの居抜き物件をほぼそのまま使用したであろう佇まいだったり、店主ガンジー松本氏のいかにも職人気質といった人柄だったりで、人によっては少しハードルを高く感じてしまうかもしれないが、一度はぜひ食べてみてほしい。4種のカレーを交互に食べ続けていくうちに、個性豊かな滋味とスパイスの波状攻撃で味蕾という味蕾がカッと開き、脳内物質が噴出し、次第にニルヴァナが見えてくるのがわかる。インドを超えたインド、そんな秘境のような空間が大阪の静かな路地にひっそりと佇んでいるのである。BGM は当然インド歌謡

Instagram / Twitter



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?