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cali≠gari "16"

Jun 20, 2023 / Victor Entertainment

オリジナルフルレンスとしては1年半ぶりとなる新作。

インタビューの中では「原点回帰」「(音的には)ノーコンセプト」といったキーワードがメンバー自身によって語られている。そもそもカリガリというバンドは昔から音楽性の主幹があるようなないような人達で、一番の出自である初期 BUCK-TICK や D'ERLANGER などに代表される原初的 V-ROCK から、シンセポップ、ジャズ、昭和歌謡、フォーク、パンク、メタル等々、とにかく節操のない雑多さが一番の特徴だった。その雑多さが加速しすぎてアルバムやライブの整合性が取れなくなってきたのが2003年に活動を停止した要因のひとつでもあったわけだが、2009年に復活を果たしてからはバンド内のイニシアチブも変化し、メンバー間で「カリガリとはこういうもの」という大体のバンド像が共有できるようになって、相変わらず雑多ではあるものの、その上で聴き手に何となく中心の軸を感じさせる、ある種のバランス感覚が作品を重ねるごとに成熟、完成されてきたように思う。それこそ今作内で "ENGAGING UNIVERSE" をカバーしている SOFT BALLET と同様に、個々のメンバーが自分の持ち味を存分に打ち出して、統一感に縛られることなく同じ盤に共存し、ひとつのバンドの個性として成立させてしまう強引さ。

今作もまさしくそんな感じで、"狂う鐫る芥" のダンサブルで芯の太いインダストリアル/ポストパンクから、"脱兎さん" の忙しないパンク/ロックンロール、"紫陽花の午後" の微睡むサイケデリア、"夜陰に乗じて" の妖しいベースラインが主導する実験的ジャズ、そしてエモーショナルな終曲 "銀河鉄道の夜" に至るまで、あちこちに寄り道しまくり、だけど聴き終えた後にはしっかり「カリガリらしい」といった印象に落ち着くという、彼らの妙技が冴え渡った仕上がりになっている。

ただそれに加えて今作が強烈なのは、ボーカリスト石井秀仁が2000年に加入する以前、すなわち「奇形メルヘン音楽隊」なるキャッチコピーを掲げていた時期の、いわゆる密室系/地下室系に通じる雰囲気がそこかしこに嗅ぎ取れる点なのだ。まさかそこまで原点回帰するとは予想外で、当時からのファンをやっている自分としてはなかなか目鼻にツンと来るものがあった。

リードトラック "狂う鐫る芥" が一番わかりやすいのだが、猟奇的な歌詞に加えて、かつての "嘔吐" を連想させるシュールでヒステリックなギターサウンド(確か空間系エフェクターのツマミをフルテンにして作っていた覚えがあるのだが…)や、ビシバシとスラップを連発するベースプレイにしても、かなりストレートに「あの頃」が脳裏によぎる。それから "銀河鉄道の夜" の歌詞中にある「紙飛行機」「僕は君のことが大好きでした」のライン、これは明らかに "リンチ" の世界観と直結するものだ。主人公の後日談と捉えるべきか、同じ「死」を題材としたものでも哀愁とおどろおどろしさが纏わりついていた "リンチ" から長い年月が経ち、ここでは決して避けられない死をいかに受け入れるべきかという、ある意味でポジティブな方向へと意識が変化している。また "紫陽花の午後" の冒頭に挿入されている雨の音。同様の演出は過去にも "冷たい雨" などで用いられてきたが、あちらが具体的に作者の心情を吐露していたのに対し、こちらは抽象的な情景描写で留まっており、言わば写実主義から印象主義に移行したような筆致で、現在のカリガリならではの深い味わいを感じさせる。実質的なオープナーが "切腹" なる端的で強い曲名なのも、いかにも桜井青らしいセンスと言える(今の時代に三島由紀夫や大西瀧治郎の辞世の句を引用するのは少々際どすぎると言うか、あまり良くない意味でハラハラしてしまうところがあるのだが、それはさておき…)。

さらに言えば、ギタリスト桜井青は今作でビットクラッシャーを多用しているともインタビューで述べている。ファミコンの BGM を模したようなコミカルでチープな音を作るエフェクターなのだが、実際に楽曲を聴くと飛び道具的な使い方ではなく、むしろ歪み系の一番のメインとして使用しているのがわかる。輪郭のくっきりした重さ/鋭さのある歪みではなく、音の粒がひしゃげてベタついた質感があり、アンサンブル全体にも平面的でのっぺりした印象を付け加える、はっきり言えば劣悪な音質のものだ。だが彼はあえてそのローファイなサウンドにこだわる。整理整頓よりもカオスを志向し、広がりよりも閉塞感を重んじる、密室系の開祖たる彼ならではのヘンテコに捻れたこだわりが、元来からカリガリが持ち合わせていたイメージをここに来て改めて強調している。

だいたい、"禁断の高鳴り" や "燃えろよ燃えろ" のような、快活なエイトビートにガシャガシャとギターのカッティングを噛ませる、これだけ律儀にビートロックらしいビートロックをやっているバンドが果たして今どれだけいるだろうか。あえて今 SOFT BALLET を取り上げるのも含めて、これまでに発表してきた作品の中でも今作は特に、故きを温ねて新しきを知るという姿勢が前面に表れていると思う。最新型にアップデートされたカリガリの音、それは30~40年に渡るヴィジュアル系の歴史の一断面を映したものでもあり、もちろん他所では決して味わえない特有のエグみが満載されている。あまり周囲には表立って薦めにくい、俗に言う「ベッドの下に隠しておきたい」タイプの格好良さ。結成から30年を迎えた彼らは今なお、そんな鋭さを衰えさせずにいる。

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