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デザインと遊び心(『日本タイポグラフィ年鑑』を読んで)

 都内の出版社で音楽系のトピックを扱う編集者をしているMizukiです。元々は月刊の音楽誌で3年編集者をして、現在はWebサイトのディレクターを2年してます。

 今日も今日とて、ぼぅっと考えごとをしていて、先日六本木の21_21 DESIGN SIGHTで読んだ『日本タイポグラフィ年鑑』のことを思い出しました。

初めて手にした『日本タイポグラフィ年鑑』

 そもそも『日本タイポグラフィ年鑑』という存在を私は全く知らず……、同美術館の企画展『もじ イメージ Graphic 展』へ伺い、初めて発見しました。

 1970年代から現在2020年代まで、約50年分の年鑑が展示室前の棚に勢揃いしているのを見た私は、テンション爆上がり!

 気付けば展示を見る前に1時間近くそこに居座っていて、大変迷惑な観客になってしまいました。※実際は開館時間に伺いましたので、さほど他の方へご迷惑をかけずに済んだと思っています

 一番最近の物(確か2022年)から順番に拝読していくと、やはり私のような素人目にもしっかり時代のトレンドが見えてくるもので!とても面白かったです。

 最近は、ニューレトロ的な(古のニュアンスを現代向けに生かしたアプローチの)デザインのタイポグラフィや、柔らかくしなやかで透明感や抜け感を際立たせたものなどが多く掲載されていました。

 後者のニュアンスについて、私個人的な感想を言うと、「洗練されているけどつまらない」と思ってしまうことも正直多く、広告とかでも全く印象に残らないことは多々。

 もちろん一部のものは、「バランス感があまりに良過ぎて見ていて気持ち良いから」というような理由で、つまらないを飛び越えてきたりすることもあります。ただ、大体次の日には忘れている。

 決して胸を張って言えることではありませんが、デザインに対して基本的にお気楽な立場の私には、洗練され過ぎているものには「すごいですね」以外何も思えないみたいなところも多分あり……やっぱり本音では「つまらないな」と思ってしまうんです。

1982年のタイポグラフィが素敵だった

 そんな私が、各年のタイポグラフィ年鑑を見ていて「本当に面白い!」と思った年は、1982年でした。

 ちなみに、この表紙からめちゃくちゃ格好良くないですか? サーモグラフィー画像をそのまま貼っているだけで「タイポグラフィー年鑑の表紙として意味あるの?どうなの」とも言えるかもしれませんが、なんか遊び心みたいなのが見えて、まず可愛い。

 中を開くと、見返しではじゃんけんをしていました。「だから何」と言われたら、私には何も答えられませんが、やっぱり可愛い。

 肝心の中身の写真はさすがに撮っちゃいかんので撮影を控えましたが、本当に一言で言うと「元気で、遊び心がある」タイポグラフィばかりだったんです!

 「言葉にある喜怒哀楽」がデザインの中にものすごく詰まっていて、「何これ?」みたいな違和感が見ていて飽きないし、読んでいて気持ち良いんです。

 1990年代の無駄を削ぎ落としたデザインに人々が行き着く前の、デザイナーが持っていた「ワクワク感」や適度な「思い付き感」が香るデザインは、一周回って「今っぽい」とすら思いました。

 個性を前面に出して「とにかく気を引きたい!」みたいな映え重視の2020年代の若者の気持ちや、ネットで際立つ違和感の演出を頑張るYouTuberの精神みたいなのにも、どこか通じた感覚のような気がします。

 そういう現代のネットが産んだ承認欲求の精神が、意外と現代のデザインには反映されていない感じがするのは不思議で、面白い。

 やっぱりデザインは、きっと、すっきりしていてなんぼの世界なのでしょう。でも私は1982年のタイポグラフィを見て、「文字が澄まし顔ばかりしているのに飽きている」のかもしれないと自覚しました。

 無駄がない見た目というのはもちろん機能性が高まったり、本来の目的を確実に果たすために、とても重要なことだというのは理解していますし、文字は読みやすい方がいいと私も思います。

 でも、文字が過剰に感情的だったり、なぜか不思議な方向を向いて生き生きしているのも、ラブリーで素敵だったなと。この発見は、私の中で大事にしたいなと思うのです。

 突然ですが元々雑誌で働いてたときを振り返ると、自分なりにページに個性を与えたくてデザイナーさんと相談したり悪戦苦闘したつもりでした。しかしながら、今思えば実はあまり大した戦いができていなかったなと。工夫はしてたけど、読者に遊び心を伝えることは多分できていませんでした。

 私は基本的にWebサイトに載せる記事の取材編集をするのが本業の編集者ではあるんですが、いつの日にか会社に「本を作ってもいいよ」と言われるときが来るかもしれないので……。

 デザインと遊び心についてはたまに考えたり、学んでみたいなと思う今日この頃です。


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