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仕事はできるのに自分のお金の管理が下手な人に伝えたい ~企業経営から学ぶ、個人がお金を貯める7の方法~

はじめまして。筆者のマツキです。

現在、私は某大手上場企業の経理業務(連結⇒開示プロセス)を担当しながら、複数の会社の会計・税務業務および経営コンサルティングをしています。

いずれも会社も優良な営業会社ですので、たくさんの優秀な営業マンと一緒に仕事をしています。

「営業」の仕事は、お金を稼ぐことはもちろんですが、「コストを管理する」という面でもスキルや知識が必要です。「売上げを上げつつ、コストを抑え、有効な投資を行う」というのが、営業会社の基本スタイルですよね。

私がコンサルティングをしている会社の営業マンは、常にPL(損益計算書)・CF(キャッシュフロー)を意識しながら営業に取り組む、優秀な営業マンです。


しかし、お酒の席で彼らのプライベートを聞くと、意外な声が聞かれます。

「結婚したいんですけど、貯金がなくてできないんですよ…」

「うちはお小遣い制なので、全然飲みに行けなくて…」

「今月飲み会続きで、親からお金借りちゃいました…」

普段、仕事の場ではあれだけお金を稼ぎ、お金を有効に使っている彼らが、プライベートになると急にお金に弱くなるのです。

「仕事とプライベートは別」とは言いますが、根底は同じです。

効果的にお金を稼ぎ、有効な投資をする。

それができないのは、なぜか。

それは、仕事には先人から受け継がれてきたノウハウがあるが、自分のお金のノウハウは自分でしか作れないと思っているからではないでしょうか。

いえいえ、繰り返しになりますが根本は同じです。

仕事でのノウハウを、プライベートでも使えばいいのです。


今回は、そんな基本的な考え方を、サラリーマン二人のお話でまとめてみました。

仕事ができる人にとっては、ちょっとしたことで、すぐにでも実践できる思考法です。最後まで読んで、ぜひ活用していただけると幸いです。


0.プロローグ

0-1.経理の田崎

仕事帰り、駅前のラーメン屋の前で立ち止まった。こってり豚骨醤油ラーメンは俺の大好物だ。
「並みで850円かぁ…」
最近のラーメンは手が込んでいて、価格が高騰している。
俺が子供のころに連れて行ってもらっていた、赤い暖簾のあるラーメン屋はせいぜい一杯500円かそこらだった。と言っても、シンプルな醤油ラーメンで、味もいまの袋麺と変わらないだろう。それに郊外の車で行くような場所だから家賃も全然違う。
「今日も牛丼だなぁ。」
ハンバーガーチェーンも一食700円を超える現代において、牛丼だけが俺の味方だ。

ラーメン屋をあきらめて、隣の通りにある牛丼屋へ向かった。

「あれ?佐藤さん、いま帰りですか」
「…ん?」

駅の方から歩いてきたのは、2つ下の後輩・田崎だ
彼は俺が新卒3年目の時に、いま所属する法人営業部に配属された直属の後輩だった。
だった、というのも田崎は営業部を4年経験した後、経営管理部に異動になった。経理・経営管理をして早5年になる。

違う部署になって5年経ったが、勤務地は変わらないし、何より最寄り駅が同じで3歳になる娘がいるという共通点もあって、たまに飲んだりする関係は続いている。

「おう、田崎か。」
「どっか行くんですか?今日、家にご飯ないのでご一緒してもいいですか?」
「あー…ちょっと今月サイフが厳しくて、牛丼なんだけど…いい?」
「牛丼!いいじゃないですかー。サクッと食べられて安くて旨い!行きましょう!」

1コマ目

田崎は仕事はとても慎重派で入念に分析を繰り返す勉強家なのだが、普段のノリはとても軽く、いつもこんな感じだ。

牛丼チェーンのドアをくぐり券売機の前に立った。
「期間原点メニューの煮込みハンバーグ定食、めっちゃ美味いですよ!おとといの昼に食べたばっかりですけど」
と、田崎は言いながら煮込みハンバーグ定食のボタンを押した。
――780円…、確かに美味そうだけど、これだと850円のラーメンを我慢した意味が薄れてしまう。

「俺はこれにするよ」
牛丼並盛り、生卵、サラダがセットになった480円のボタンを押した。
生卵とサラダを付けたのが、俺の最後のプライドだ。

サイフから500円玉を取り出し、20円のお釣りが出てきた。
決して広くない駅前の牛丼チェーン店なので、ほとんどがカウンター席だが、2つだけテーブル席が備わっている。
幸いテーブル席が2つとも空いていたので、入り口から遠い側の席に着いた。

「保育園どうした?」
3歳の娘がいるサラリーマン二人が揃えば、まずこの話題は避けられない。

「4月から通わせてますよー。嫁が早く働きたがってたんで、無事入れてよかったですよ。佐藤さんとこも?」
「うん、うちも4月から。認可保育園には入れたけど、それでも結構痛い支出だよなぁ。」
「そうなんですよね、しかも僕は営業部と違って給料が全然上がらないので大変ですよ。」
「あれ、そうなんだ?やっぱり違うの?」

田崎は営業部にいた4年間の営業成績は平凡で、正直言って俺の方がずっと成績が良かった。
しかし経営管理部に異動後、営業部にも噂が轟くほど、優秀な経理マンになっていた。今年で9年目だから、ようやく中堅と言えるくらいで、社内ではまだまだ若い方なのだが、実質的に経営管理部を仕切っているらしい。

「全然違いますね。まず異動してすぐ年収100万近く下がりましたし、営業の同期に比べてもずっと低いですよ。まぁ営業の会社だから仕方ないんですけどねぇ。」

「そうか、それは気の毒だな。去年家も買ったんだって?貯金も全然できないよなぁ。」
僕は2年前にマンションを買い、去年車を買った。駐車場付きのマンションだったから、駐車場代はそれほど負担ではないが、それでも貯金は200万程度しかない。マンションも車もローンだったが、頭金やら初期費用やらでかなり持っていかれた。
おかげでいまは月3万の小遣い制を強いられている。
田崎より2年先輩で、年収もおそらく100万以上は高いであろう俺がこんな状況なんだから、田崎はもっと苦しいに違いない。

「そうなんですよ、貯金も8ケタやっと超えたくらいですかねぇ…。」

8ケタ…?
200万は”2,000,000”だから7ケタ。

「1,000万!?うそだろ!?副業とか投資でもやってんの??」
「やってますけど、どちらも月数千円程度にしかなってないですよ。」
月数千円ということは、年間よくて5万円程度。
とても200万と1,000万の差が生まれるとは思えない。

「じゃあなんで…?」
「なんでと言われても…特に意識して貯めようとしてるわけではないですよ。」
「・・・。」
「あー、でも経理とか経営管理やってるから、お金の管理には自信ありますね。」

牛丼セットと煮込みハンバーグ定食が運ばれてきた。が、いまはそれどころではない。
「お金の管理…家計簿付けたりとかってことか?」
「いえ、そういう物理的な管理ではなく、『お金』というものに対する思考法っていうんですかね。といっても、会社の経営管理を応用してるだけですけど。」

たしかに田崎の経営管理能力は社内でも噂になるほどだ。
社会人生活のすべてを営業に費やしてきた僕にとって、「経理」や「経営管理」が具体的に何をやっているのかはよくわからない。経費精算のおばちゃんのイメージか、せいぜい「数字で会社を見ている」という程度だ。

しかし、だからこそ自分の知らない領域で働いてるやつが、「同じような家庭」でこんなにも差をつけていることに興味が湧いた。

「牛丼屋で申し訳ないが、その管理とか思考法を教えてくれないかな?」
「もちろんいいですよ。でも娘をお風呂に入れないといけないので、今日はこれ食べ終わるまでにしますね。」
時計を見ると19時半を回っていた。
「あ、うちもだ。とりあえず走りだけでも聞かせてくれ!」

0-2.個人のお金の管理は企業経営と同じ?

「お金の管理かぁ…。でも俺もお小遣い制だし、飲み会も嫁さんに申告して許可が下りないとお金貰えないんだぞ。ちゃんとしてると思うけどなぁ。」
牛丼に紅しょうがを乗せ、サラダにドレッシングをかけながら奥さんの顔を思い浮かべた。

「…それは”管理してる”のではなく”管理されてる”んです。別に奥さんも管理が得意なわけではないですよね?」
「いやいや、うちの奥さんの管理は厳しいぞ。飲み会は原則週1回までだし、仕事帰りに買い物を頼まれた時も、駅前のスーパーは高いからわざわざ駅の反対側のスーパーまで行かされるんだ。あ、でも代わりに、奢ってくれる上司との飲み会はウェルカムだそうだ。」
田崎は額に人差し指を当て、苦笑いを堪えた顔をしていた。そして言葉を選ぶように言った。
「たとえば、社長が突然『どんな大切な取引先でも接待はNG!』とか、『時間がかかっても古いシステムを使って残業しろ!』とか言ったらどうします?」
「それは経営者としてどうかと思うな。」
「ですよね?家庭も同じですよ。企業経営では、いかに有効な投資をして、いかに収益を上げるかを考えます。そこで重要なのが以下の点です。」
田崎は三本の指を折りながら話を続けた。

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営業経験しかない俺にだって、企業活動においてこれらが大事なことくらいは理解できる。
「ほんとに基本的なことだけを挙げましたが、大切なことですよね。」
フォークでサラダをつつくながらうなずいた。
「個人や家庭よりずっと大きな組織である”企業”がやっていることです。個人や家庭でも応用できるはずだと僕は思っています。」


1.その①お金を生む自己投資にはどんどんお金をかけていい

1-1.企業の投資活動とコスト削減

「お金を貯めるために大切な思考法、まず一つ目が『有効な自己投資にはお金をかけてもいい』ということです。」
ハンバーグを箸で割りながらだったが、田崎の目は真剣だった。

「ほう…お金を貯める目的なのに、いきなり『お金をかけてもいい』って話なんだ?」
「そうです。そしてこれが、いくつもある思考法のベースとなる思考法なので、しっかり頭に入れておいてくださいね。」
「なるほど、分かった。で、どういうこと?」
「『企業の投資』といったら何を思い浮かべますか?」
「うーん、余剰資金を使った株式運用とか?」
「えぇ、それも投資ですね。ですが、ここで言う投資は、企業が収益を上げるために必要な支出全般を指しています。」

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「企業活動において、コスト削減は非常に重要な要素です。経営コンサルタントもまずはコスト削減から提案するのが基本です。ですから、これらの投資は、まっさきにコスト削減の対象となりがちです。」
「うん、それくらいは俺にも分かるな。」

「ですが、目先の利益や資金に目がくらんで、必要な投資をやめてしまうことは、『今後得られたはずの収益』を失うことになります。」
「なるほど、確かにこれはついついやってしまいがちだな。3年前にうちの部が手掛けようとしたプロジェクトも、当時会社の業績が悪いからって中止にされたことがあったよ。」
田崎の話を聞いて、まっさきに思い出した。個人的にも自信があったプロジェクトだったのに、社長命令で泣く泣く中止になったのだ。

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「もちろん、そのプロジェクトの成功可能性や資金の状況などを見て、総合的に判断する必要があるので、一概には言えません。ですが、『なんでもかんでもコスト削減すればいいものではない』ということが重要です。」

1-2.自己投資は将来お金を生むものにしよう!

「そうか、つまり個人のお金も同じで、闇雲に節約しちゃダメってことだな?」
「そういうことです!お金の管理を始める前に、まずこの前提を頭に入れておかないと、ただの『貧しい生活』で終わってしまいますので…」
「それは避けたいよなぁ。」

「ちなみに佐藤さんは何か自己投資していますか?」
「うーんと、資格は結構取ってるな。ファイナンシャルプランナーとか宅建とか。あと英会話もちょっとやってたな。最近続いてないけど…。」
「うち国内向けのメーカーなのにですか?」
「うん、なんかどっちも人気の資格だったからさ。」
「今後ファイナンシャルプランナーや不動産業界に転職する予定はあります?」
「いやーないかなぁ。どうせこれから転職するならIT業界とか外資系がいいよ。」

「…すると残念ながら、『無駄な投資』ということになりますね。」
「なんで!?」

2コマ目

申し訳なさそうに言った割に、ストレートに言われて俺は動揺した。

その投資が将来収益を生まないからですよ。企業に置き換えてみると分かりやすいです。企業が広告費を投下するときに、誰も見ないような広告は『無駄な投資』ですよね?誰も使わないようなシステム開発も『無駄な投資』ですよね?」
「おっしゃるとおりです…。」
畳みかけるように言われて何も反論ができない。

「じゃあどういうのが『有効な投資』になるんだ?」
時代とその人によります。
「時代というのは、その資格に関する仕事の将来とかってこと?」
「まぁ大体そんな感じですね。ファイナンシャルプランナーは、個人の知識としてはとても有効な資格だと思うんですが、いまはネットに情報があふれているので、どんどんファイナンシャルプランナーの需要が落ちています。ですから、『稼ぐ』という観点では不向きです。宅建も、不動産業界に転職するなら必須ですが、その予定がなければ無意味ですよ。」

1-3.付加価値としての知識は後回し!

「でもさぁ、専門分野以外の知識を持っておくことって大切じゃないのか?」
一応、どちらの資格も合格するのにそれなりの努力はしたし、そこまでハッキリ言われるとちょっとは反論してみたくなった。

「それは、『稼げる専門分野』を極めたうえで、さらに差別化を図るために『付加価値』として持てばいいんですよ。例えば…」

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あくまでも最初に身に付けるべきはお金に直結するものという訳だ。

「なるほどなぁ、すると俺にまず必要な投資は『英語』とか?」
「そうですね、英語は外資系企業に転職したいのであれば必須ですし、グローバル社会が続く限りは有効なスキルです。あとは中国語なんかもいいですね。」
「やっぱり語学は役に立つよなー。」
「もちろん言語によっては『お金を生まない言語』もあるので注意は必要ですよ。」

「それはそうだな。語学以外には何があるかな?」
「さっきIT業界って言ってましたけど、IT業界に関するスキルは有効ですよ。プログラミング、Webマーケティング、Webデザイン…」
「やっぱりまだまだこれから伸びる業界がいいってことかぁ。」
「そういうことです。基本的な思考法はこちらです。」

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そういえばFPや宅建を受験しようと思った時も、今後伸びる業界なんて考えてなかったなぁ。

「…とまぁ、以上が『お金を貯める思考法』の一つ目であり『ベースとなる思考法』です。少し長くなってしまいましたが、ここがしっかり理解できていないと、ただの貧しい節約家になってしまいますので。」
「よく分かったよ、ありがとう。じゃあ二つ目を聞かせて…あっ」
気が付いたら時計の針は20時を過ぎていた。

「ごめんごめん、もうこんな時間だ。」
「おーまずい、奥さんから連絡来てました!」
二人の前には、空になった丼や皿が並んでいる。店内には2組しかお客さんは残っていなかった。
「うーん、まだまだ聞きたいないけど、続きはまた今度にして、今日は帰ろうか。」
「そうですね、またいつでも行きましょう!」


2.その②少額な買い物に時間をかけない

2-1.遠くのスーパーに行く労力はコスパが悪い?

牛丼屋を出て、二人の家へと続く道を歩き始めた。田崎のマンションは駅から5分、さらに3分ほど歩いたところに僕のマンションがある。

「最近帰りは遅いの?」
「うーん、繁忙期は遅いですけど、そうでないときは定時で帰れてますね。佐藤さんは?」
「うちは相変わらず、帰りはそうでもないけど接待とか同僚で飲みに行ったりが多いからなぁ。」
自分のサイフからお金を出す飲み会は週1回の制限があるが、会社の接待や飲み会はもちろん対象外だ。

「あぁ、確かにそうでしたね…。じゃあ夜ご飯もなかなか家族で食べられないんじゃないですか?」
「そうなんだよ、だから俺のご飯は作らなくていいって言ってるんだ。すると外食が多くなっちゃう。でも、買い物は俺の仕事でさぁ、さっきも言ったように、わざわざ駅の反対側のスーパーまで買いに行ってるんだぜ。」
「あー、言ってましたね。そんなに値段違うんですか?」
「うーん、確かにキャベツも1玉100円くらい安い時もあるし、肉もグラム50円くらい安い気がするよ。すると1回でトータル300円は違ってくるかな。」

俺が言い終わると、田崎は何かを見つけたような顔をして言った。
「なるほど。では家に着くまでの間、お金の貯まる思考法の2つ目をお話ししましょう!」
「突然ッ!」
「はい、タイムリーですし簡単なことなので。ずばり『少額の買い物で時間をかけない』ということです。」
「おいおい、俺の努力を真っ向否定しているじゃないかよ。」
「すいません…でも真っ向否定します。」
相変わらずハッキリした男だ。

「うん…まぁいいや、詳しく聞かせてよ。」

2-2.企業の社内決裁フローは何のため?

「はい、まずは例によって企業経営のケースで考えてみましょう。うちの会社でもお金を使いたい時には、必ず『社内決裁』が必要になりますよね?」
「あぁ、決裁者の部長や社長がいなかったりすると面倒なんだよなぁ。」

「そうですそうです、でもモノによって決裁者が部長だったり社長だったりしますよね?どういう違いかはご存知ですか?」
「えっと確か…50万円未満は課長、500万円未満は部長、2000万未満は社長、それ以上は取締役会だっけ?」

「さすがです!」

「では、なんでそんな基準があると思いますか?全部社長が判断すればいいじゃないですか?」
「そりゃ、社長もそんな暇じゃないからだろ。部長だってそうだし。」

「うんうん、大体合ってます。大前提として『時間はコスト』なんです。」
「ほう、『時間はコスト』か。」
『時間はコスト』という端的で分かりやすい言葉に、俺はちょっと惹かれた。

「さらに詳しく説明すると、決裁者が判断するために掛ける時間(コスト)と、決裁者が判断することによって生み出されるコストを天秤にかけたときに、後者の方が大きくないと意味がないわけです。」

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「なるほどなぁ、決裁者になるような人は給料も高いから、1時間取られるだけで相当なコストになるわけだな。」
「それだけじゃないですよ。そういう人は『1時間で生み出す収益』も大きいはずですから、それも加味しないといけません。逸失利益とか言われますが、これも『コスト』のようなものですね。」

「なるほどなぁ、社長や部長に秘書がついてのスケジュールを厳格に管理されてるのは、そういう意味もあるのかね。」
「そういうことですね。」

2-3.15分300円節約 VS 15分の自己投資

「そっか、なるべく偉い人との会議は短くすることを心掛けなきゃだな。で、俺のスーパーの話に戻るけど、俺の買い物の決裁者は『奥さん』だから、奥さんの時間を取っちゃダメってこと?」
「いえいえ違いますよ、佐藤さんの決裁者は『佐藤さん』です。」
「???どういうこと…?」
「だって、遠くのスーパーに行くことによって、時間が奪われるのは佐藤さんですから。」
「あ、確かに。」
「佐藤さんは、1回の買い物で300円くらい安く済ましている、と言っていましたね。駅の反対側のスーパーまで往復15分くらい多く掛かります。すると、単純計算で時給1,200円のバイトをしているのと同じです。大学生のバイトとさほど変わりませんよね?」
「まぁそうだけどさ、どうせ15分早く帰ってもダラダラするだけだし、それだったら時給1,200円でもあった方が良くない?」
「それは『お金が貯まらない思考法』ですよ☺さっき牛丼屋で話した一つ目の思考法を思い出してください。

 ――その①お金を生む自己投資にはどんどんお金をかけていい

この場合、300円で15分を買ったと考えてください。そして、その買った15分で将来お金を生み出す自己投資をしましょう。さっき言った、英語でもITスキルでもいいです。」
「つまり、15分を積み重ねていくことで、将来的には時給1,200円を超える収益を生むように努力する、ということだな。」
「そういうことです!」
「よく分かったよ。」

「この思考ができてる人にとって、10分・15分の積み重ねって本当に大事なんですよ。」
「なるほどなぁ、社長や部長の時間を無駄にしちゃいけないのと同じように、自分の時間も無駄にしちゃいけないし、そこで生まれた時間で自己投資する必要があるってことだ。」

「おぉ素晴らしい理解ですね!あとスーパーの他にも、ネットショッピングなんかで色んなサイトをネットサーフィンして、時間を必要以上に掛けちゃうこともありますよね。」
「あー、それやっちゃうわー…。でもどれくらいなら時間をかけてもいいんだろ?ちょっと時間をかけるだけで安くなるなら、そっちの方がいいよな?」

「意思決定にかかる時間も考慮に入れた方がいいですね。遠くのスーパーといっても、1分しか変わらなくて毎回300円トクするのであれば、そっちの方がいいですから。

① 15分かけて300円安いスーパーに行く ⇒ 時給1,200円相当
② 1分かけて300円安いスーパーに行く ⇒ 時給18,000円相当

あくまで単純計算によるシミュレーションなので参考程度ですが、判断材料としてはこういう考え方ができます。」
「確かに、15分を積み重ねて時給1,200円稼げるくらいの自己投資ならできるかもしれないけど、1分を積み重ねて時給18,000円稼げるような自己投資は難しそうだな。」

「そういうことです。ですから、大して値段も変わらないのに、何件も何件もお店をハシゴしたり、ネットサーフィンを繰り返すようなことは避けるべきですね。そんな暇があったら自己投資に時間を割いて、ゆくゆく回収しましょう!
「うん分かった、おかげで今後の時間を有効活用できる気がするよ。ありがとう。」
「いえいえ、とんでもない。」
ちょうど田崎のマンションの前に着いたところだった。
「では、続きはまた今度ゆっくりお話ししましょう!」
「あぁ、ぜひお願いするよ。」
田崎は軽く会釈すると、マンションの中に入っていった。

3コマ目

(数年前までは一営業マンだった田崎が、あんなにもお金について考えるようになっていたとは本当に驚いた。
何より、企業経営と個人のお金を結び付けるという発想が斬新だ。

ただ、確かに『お金を稼ぐこと』の根底にある発想は、企業も個人も変わらないのかな。)

なんてことを考えていたら、うちに着いた。
今日は金曜日だし、土日で何に自己投資するか考えようかな。


3.その③固定費・高額な支出は時間をかける

3-1.やっぱり時間がかかる…

田崎から牛丼屋でお金を貯める思考法のレクチャーを受けて影響された俺は、土日を使って自己投資について考えた。
しかし、とりあえず『プログラミングの勉強』を始めようというところまでは考えたのだが、オンラインスクールや学習教材の高額さに尻込みして、結局購入を決断できずにいた。

週明け、12時の昼休みになるやいなや、田崎のいる経営管理部のフロアへ向かった。

「田崎ィ~…。」
「ど、どうしました佐藤さん!?」
「俺はダメだ…やっぱり貧乏性が抜けなくて、買い物にどうしても時間がかかってしまう。こんな俺を叱ってくれ…。」
「何を買おうと思ったんですか?」
「自己投資にプログラミングでも始めようと思ってさぁ、そのオンラインスクールとか学習教材とかだよ。」
「おぉ早速、素晴らしいですね!」
プログラミングというワードに田崎は目を光らせて言った。

「なんだけど、50万とか100万とかするとこもあれば、数万円程度のところもあるんだ。ただ安いところは個人とかがやってたりで信用できるか分からないし…。」
いままでFPや宅建など、昔からある資格の勉強してこなかった俺は、正直ここまでプログラミング教材が世に出回ってるとは想像もしていなかった。
パソコン教室といえばアビバ…という10年以上前の情報のままだ。

「あ、もしかしてどのオンラインスクールにするか決められなくて時間がかかってしまう、ってことですか?」
「そうなんだよ。この前、田崎から『時間をかけるな』って言われたばかりなのに。」
「それでいいんですよ!…危ないところでしたね。」
「え?どうなの?」
「この前、お話ししたのは『少額な買い物』の話です。企業でいうところの『社長や部長が判断するほどでもない支出』ですね。高額な買い物には時間をかけていいんです!」
「あ、そういえばそうだったかも…。」
「では、お金を貯める3つ目の思考法『固定費・高額な支出には時間をかける』についてお話ししましょう。」
「おー…!」

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