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打倒!貧困ビジネス 住宅困窮者のための健全な賃貸住宅市場を作りたい

2019年度休眠預金通常枠事業の資金分配団体としてSIIFが採択した「地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業」の6実行団体。今回はそのうちの一社、住宅確保困難者を対象に、住宅を提供するRennovater(リノベータ―)株式会社代表取締役の松本知之さんと、同社に対して資本出資を行っている一般財団法人KIBOWのKIBOWインパクト・インベストメント・チーム ディレクター山中礼二さんをお招きし、SIIF専務理事青柳とともに、今後のビジネスの展望を語ります。

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左から
一般財団法人KIBOWインパクト・インベストメント・チーム ディレクター 山中礼二氏
リノベーター株式会社 代表取締役社長 松本知之氏
社会変革推進財団 専務理事 青柳光昌

松本社長に惚れて出資を決めた

青柳 今回、休眠預金活用制度の実行団体に採択させていただいた理由は2つあります。今回のSIIFの休眠預金事業では「地域活性化ソーシャルビジネスの形成支援」というテーマで応募をかけていますが、リノベ―タ社さんの事業が地域の活性化につながっていくと思った点です。具体的にいうと、住宅をリノベーションして住宅確保困難者に提供する事業をされていますが、それだけではなく、実体としてソーシャルワーカー的な動きをされている。これまで松本さんがニーズ対応型で個人でやってきたことを、地元の支援機関につなげていくような仕組みまでつくっていけると、住居提供にとどまらない地域活性化ができるという期待があります。もう一つはソーシャルビジネス形成支援として、これまで松本さん1人で約50軒の住居を提供してきた実績から、今後はビジネスとして成長していく可能性も見てとれました。松本さんの魅力的な人物像も含めて公募のテーマにぴったりだと考えました。支援のしがいがあります。
松本 面と向かって持ち上げられると恐縮しますね(笑)。地域活性化という部分は今までできてなかったところなので、SIIFさんのお力を借りながら2年半、より良い形にしていければと思っています。
青柳 KIBOWの山中さんはすでにリノベーター社さんに出資されていてお付き合いも長いと思いますが、出資を決めた理由を教えてください。
山中 松本さんとの最初の出会いは僕がアドバイザーとして関わっていた日経ソーシャルビジネスコンテストでした。その出会いから出資に至った理由を一言でいうと、「松本社長に惚れた!」からです。すべての人に心休まる住まいを提供したいという松本さんの痛切な思い、大家さんがひるむような顧客にも住まいを提供しながら、経済的にもリターンが確実に出るビジネスモデルをご自分で確立したこと。しかも、何を質問しても飾ることなく率直に答える姿勢が終始一貫していた。まとめると、人として信頼できて、社会的インパクトと経済的リターンを期待できる――ということで投資に至りました。
青柳 なるほど。松本さんお一人で実績を出されているのは本当にすごいですね。いろいろとお話をさせていただいて、私も同じ印象を持っています。


稼働率が低い公営住宅の活用にも役立てるチャンスがある

青柳 今回、休眠預金に申請いただいたきっかけはどんなことですか?
松本 京都信用金庫さんからのご紹介がきっかけですね。その募集要項を見たら、勝手にですけど、すごくフィットしているなと感じて、1週間後には応募していました。うちの事業の価値は、行政だけでは解決できていない住宅確保困難者の問題を、利益を確保しながら、きちんとした賃貸物件を提供することで、解決すること。従来行政の仕事と思われていた課題を、民間事業として、税金を使わずに解決する、というところにあります。それが、今回の「ソーシャルビジネス成長支援事業」の、社会的インパクトを創出しながら、ビジネスとしても自立する、という募集条件とフィットしていると思いました。
青柳 私も同じように感じました。公的な住宅の家賃補助や住宅供給はさまざまありますが、それでも漏れてしまう方がこんなにいらっしゃるということは、私も勉強不足で知らなかった。申請書を拝見して、すごいところを掘り起こしているなと思いました。将来的に実績を積んで、行政との連携も提案していける可能性も感じましたね。
山中 私たちが投資したときは行政との連携はあまり意識していませんでしたが、実際にはリノベーター社の活動に関心を持っている行政担当者からのコンタクトも来ています。行政が対応できていないところを、民間の力で解決することができることを、私もリノベーター社さんから学びました。
松本 京都市では公営住宅でも6、7割しか稼働していないところがあるらしいんです。それについて京都市役所からヒアリングを受けたので、「行政にもうちにもプラスになるようなスキームができるので、ぜひ委託しませんか」というアプローチはかけています。
青柳 恐らく、家族構成や収入などで家賃も条件も一律に設計されているので、なかなかはまらない方が多いのだと思います。松本さんのようにどういうニーズがあるか、どのくらいの家賃設定ならいいのかといったヒアリングができてない。行政はそこをもっと柔軟にしないと公営住宅の稼働率は低いままです。リノベーター社さんの入居者の人物像やそのニーズを具体的に行政に提示してあげると、行政はより柔軟な入居条件を考慮することができ、もっと公営住宅の利用者は増えると思いますよね。
松本 行政側のシステムへの提案ですね。「うちだったらできます」といった行政の代替の提案しか考えてなかったのですが、そういうアプローチもあるかもしれないですね。
青柳 PFS(成果連動型)という手もありますね。稼働率を目標まで高めたら、いくらもらうといったスキームも考えられます。一つの自治体だけではなく近隣自治体とも連携できれば、そういう提案を視野にいれてもいいですね。エリアをある程度絞って、成果連動型のスキームの提案も一緒にできると、われわれも事業の意義がさらに深まります。
山中 エリアをある程度フォーカスするというのは、動きを効率的にする上で有効なことですが、特定のエリアで成功を確立してから全国に広げていけるといいですね。

ソーシャルIPOも視野にいれていきたい

青柳 今は社会的インパクト評価の設計の部分をご一緒させていただいていますが、松本さんから我々にはどんな期待や要望がありますか。
松本 SIIFさんには僕が想像していた以上に伴走支援に力を割いていただいているなという印象があります。そんな中でも、この2年で形にしていきたいのは社会的インパクト評価のところです。地域や行政に対して、うちが重視していくことは何かを明らかにして、それを計測していく仕組みを作り、さらに対外的に公表するという枠組みまできちんと作りたいなと思っています。それを継続的にステークホルダーに説明することで、次の資金や人材といったリソースを呼び込む。そういう形にできればな、と思っています。2年数カ月ですけど、もっとご一緒したいなというくらい助かっています。
KIBOWの山中さんからは、僕が思っている以上にソーシャルビジネスとして高い目線でアドバイスをいただいています。今後も僕の視座を高めてIPOまでリードしてほしいなと思っています。
山中 いや~、松本さんは素晴らしく高い視座をお持ちなので、僕が足をひっぱらないようにしないと(笑)。幸いKIBOWから指名して、大嶋博英さんという元ゴールドマンサックスのグロービス教員に社外取締役として入ってもらっています。ファイナンス面でリノベーター社がイノベーションを起こしていくお手伝いができればと考えています。
青柳 「ソーシャルIPO」*も視野に入れているのですね。
松本 はい。今は50~100物件でビジネスモデルが成り立つことを確認している段階だと捉えています。エリアを広げても、うまくファイナンスと物件取得が回っていけば、IPOはできるんじゃないかと思っています。ただ、それはあくまで手段でしかない。住宅確保困難者のニーズがそこまで強くないのであれば、する必要はないです。でも、IPOが可能だと思えるぐらいの会社を作る気持ちでいます。収益性や透明性、ガバナンスという意味でもそうです。
*「ソーシャルIPO」:社会課題解決を意図し、さらなる事業拡大に向けてより大規模な資金調達をすること。出典:GSG国内諮問委員会 ソーシャル・エクイティファイナンス分科会発行「社会的インパクト時代の資本主義の在り方」 

「普通に暮らしたい」だけなのに…それが叶わない社会って

青柳 肌感覚では、中低所得者の住宅ニーズは今後どうなると思っていますか?
松本 減ることはないと思っています。今は市場がない。市場がないので需要をみんなが分かっていない。事業の最終的な目標の一つとして、きちんとした中低所得者向けの民間賃貸市場を作りたいと思っています。実はうちの事業が関西テレビの番組で取り上げられてから、いろいろな問い合わせが入っていますが、その多くは想定ターゲットよりさらに困窮度の高い人たちでした。「家がないから自殺したいです」とか、「不動産屋を50軒回っても断られた」とか。僕も知らないぐらい、困っている人たちがいる。そういう人たちは不動産屋とも接点がなく、インターネットで物件を探すこともない。そのための市場をつくることは社会にとってもいいことだと思っていますね。だから市場を掘り起こすことで、需要はあると見ています。
青柳 潜在ニーズはまだまだあるんですね。リノベーター社だけじゃなくても、第2第3の賃貸紹介事業者が出てきたほうが健全になりますね。
松本 健全な競合であればウエルカムです。
山中 その50軒断られた人はどういうバックグラウンドの人でしたか?
松本 母親と2 人暮らしで、どちらも生活保護を受けていますが、36歳の息子は母親との折り合いが悪く、精神障害の2級を受けています。だから転居を考えているのですが、精神障害2級で生活保護だと、どこからも断られる…というようなケースです。ケースワーカーさんに住宅のことを相談しても、「物件の紹介はできません」と杓子定規な対応をされるそうです。
青柳 そういうケースは氷山の一角ですよね。問い合わせがあれば動けるけれど、何もなければ見えてこない。声を上げられない方のほうが圧倒的に多いんでしょうね。この状況をもっと見える状態にすることも考えたほうがいいかなと思い始めました。現場のケースワーカーさんは把握されていると思いますが、うまく対応できてない。住宅は人が生活する上での基本であるにも拘わらず、公的サービスの閉じたところで置き去りにされたままで解決が見えない。今回の枠組みですぐに何かできるわけではありませんが、すごく重要な社会問題ですね。
松本 その方の言葉で印象的だったのは「特別なことは何も望んでいない。一人で家を借りて、生活したいだけなのに、なぜそれが実現できないのか」と。それが、僕には刺さりましたね。


将来的にはエリアを広げてニーズに対応していきたい

青柳 今後の展望としてはどんなことを考えていますか。
松本 規模の拡大とサービスの向上がまず、目先の課題ですね。僕一人では時間的にも限られますが、他のメンバーを加えて、サービスの質を保っていけるかというのがカギだと思っています。システム化すればするほど味気ないものになっていきます。また、問い合わせがあってもエリアが違えば何も解決できない。今回もテレビで紹介されたことをきっかけに20数件問い合わせがありましたが、実際に入居してもらえるのは 1、2件だと思います。今の状態ではニーズに応えられていないので、早く数を拡大し、エリアも拡げていきたい。経営を考えると満室は嬉しいですが、問い合わせがあったときに対応できるように各地域でプラス1の空室を準備できたらいいと思っています。最終的にはこの住宅確保困難者の課題がなくなり、低所得者向けの健全な賃貸住宅市場をつくり、その代表としてリノベーターがあることが理想です。その過程にIPOがあるということも考えてやっていきたいと思っています。
山中 それはすごく強く共感しますね。そして、その結果として、松本さんが社会起業家のロールモデルになってくれればと思います。ソーシャル副業から始められているので、そこから成功するという新しい例になるのではないかと期待しています。


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