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2020年度:インパクト投資消費者調査結果発表 【後編】

ナレッジ・デベロップメント・オフィサー 織田 聡

インパクト投資消費者調査結果のご紹介 2/2 

SIIFではインパクト投資の個人市場の活性化に必要な基礎情報を調査するため、全国の個人を対象に『インパクト投資消費者意識調査』を実施しました。今回はPart2をお届けします。前編はこちら

前回は、インパクト投資の「潜在顧客層」を赤マルで囲んだところで終わりました(図7)。

図7


今回は、今後のインパクト投資の商品組成やマーケティング寄与するよう、潜在顧客の投入金額意向、価値観や、投資したい分野を探っていきます。


世帯年収630万円、世帯金融資産1,400万円がインパクト投資の閾(しきい)値

全回答者3,098人のうち591人が潜在顧客層となっています。この591人を、
・インパクト投資に割いてもよい金額と、世帯年収の二次元図(図8)
・インパクト投資に割いてもよい金額と、世帯金融資産の二次元図(図9)
に展開します。

図8

まず年収レンジごとに、「インパクト投資に割いてもよい金額」別の人数を縦方向に集計しました。縦方向の帯の長さが比率になりますね。
年収レンジが高くなればなるほど、つまり右側に行けば行くほど、「インパクト投資に割いてもよい金額」の上位3つの層の縦幅が広がることが分かります。例えば、世帯年収が600万円以上になると、「インパクト投資に割いてもよい金額」の上位3層の比率(縦幅)が急速に上昇することが分かります。

図9

同様に、金融資産レンジごとでも「インパクト投資に割いてもよい金額」別の人数を縦方向に集計しました。同じく金融資産のレンジが高くなればなるほど、つまり右側に行けば行くほど、「インパクト投資に割いてもよい金額」の上位3つの層の縦幅が広がっています。 
世帯金融資産が2,000万円以上の層になると、「インパクト投資に割いてもよい金額」の上位3層の比率(縦幅)が急速に上昇することが分かります。

そして(詳細なプロセスは省きますが)年収レンジごとに、潜在顧客一人が「どれくらいの金額をインパクト投資に割いてくれそうか」の期待値(年収レンジごとの縦方向の加重平均値)をグラフにしたのが図10です。

図10


このグラフは年収レンジごとに階段状になっていますが、世帯年収とインパクト投資金額期待値の関係を直線グラフとして推計しました。
この推計によれば、世帯年収が630万円を超えると潜在顧客一人当たりインパクト投資額の期待値が50万円を超えることになります。

同じように世帯年収レンジごとに、潜在顧客一人が「どれくらいの金額をインパクト投資に割いてくれそうか」の期待値(年収レンジごとの縦方向の加重平均値)をグラフにしました(図11)。

図11


ここでも世帯金融資産とインパクト投資金額期待値の直線グラフを推計しており、世帯金融資産が1,400万円を超えると潜在顧客一人当たりインパクト投資額の期待値が50万円を超えることになります。
推計なので前後のズレは当然起こりえますが、潜在顧客開拓における一つの目安になるのではないでしょうか。


インパクト投資でも、他の投資商品と同等かそれ以上のリターンを求めている

インパクト投資の潜在顧客は、大きな金額を投じようとしている人も、小さい金額しか投じない人も、経済的なリターンはきっちり求めています。
潜在顧客にどの程度のリターンを求めるかを尋ねた結果が図12です。

図12


この棒グラフの右端部分をご覧ください。ほぼすべての層で、「社会課題解決に貢献するならある程度経済的な利益が低そうでも投資する」への回答は1割台に過ぎません。
インパクト投資はフィランソロピーではなくあくまでも「投資」であって、社会的な意義があるからという理由で低いリターンを受け入れる人は少ないというのが実情です。今後の商品設計で留意する点だと思います。


インパクト投資に「500万円以上割いてもよい」という人は資産長者

潜在顧客層の中でも最上位の、「500万円以上割いてもよい」という人たちはどんなペルソナなのでしょうか? ピンポイントで見てみましょう。
11人のうち8人(約7割)は、40代以上で、東京都居住者はいません。そしてその40代の世帯金融資産は全員2,000万円以上です。さらに11人中10人が投資経験者であり、その10人全員が株式投資を行っています。一方、世帯年収はばらついており、フローよりもストックが投資金額意向と強い相関関係があるといえます。

図13


インパクト投資の潜在顧客層はイノベーション志向で環境志向

潜在顧客層は、そうでない人たちと比較してどんな価値観、志向性を持っているのか? このことが分かると潜在顧客にリーチするチャネルや訴求メッセージの選定に寄与します。
そこでSIIFでは今回の調査から新たに、デモグラフィック要因に加えて価値観の設問を用意しました。

図14


個々の設問への回答は詳細レポートをご覧いただくとして、インパクト投資の潜在顧客層は、
・イノベーション志向
・上昇志向
・環境志向
・快適・快楽志向
が強いことが判明しました。
一方、
・絆志向
・規範・伝統志向
・健康・安全志向
は強くありません。
今後のコミュニケーションチャネル、訴求メッセージを考える際、新しいことに積極的でエコ志向の消費者を狙うことが重要ではないでしょうか。

SIIFインパクト投資消費者調査レポート

図15

潜在顧客層は、環境、再生可能エネルギー、医療などへの投資に関心
潜在顧客層に、『社会課題解決のためどのような企業への投資に関心があるか』を尋ねたところ、
・環境
・再生可能エネルギー、
・医療
・介護
・子育て
に関連する投資への関心度が高いことが分かりました。

図16


先ほど見たように潜在顧客層の価値観調査で「環境志向」が高いことが判明しており、環境関連のインパクト投資商品が有望であることが窺えます。

まとめ
ここまでお読み頂きありがとうございました。前号、本号を合わせて要点をまとめてみます。
<投資経験者>
・預貯金以外の、投資を行っている人は45.2%と半数を下回ります。
<インパクト投資の認知度>
・意味まで知る認知度は6.1%であり、昨年と同水準です。
・世代別では、投資経験のあるミレニアル世代の認知度が高くなっています。
<インパクト投資を実行することの関心度>
・インパクト投資を実際に行ってみることに約2割 (19.1%) の消費者が関心を持っています。
・これは認知度より高く、社会課題解決の機会があれば活用してみたい層が一定規模いることが分かります。
・認知度と同様、投資経験のあるミレニアル世代でインパクト投資への関心度が高くなっています。
・世帯年収が630万円、または世帯金融資産が1,400万円を上回ると、潜在顧客1人あたりの「インパクト投資に割いてもよい金額」の期待値が50万円を超えると推計されます。
・潜在顧客にとってインパクト投資はフィランソロピーではなく「投資」であり、他の投資商品と同等かそれ以上のリターンを求めています。

<潜在顧客層のパーソナリティ>

・潜在顧客層の価値観の特徴は、環境志向、イノベーション志向、上昇志向、快適・快楽志向が強いことが挙げられます。
・反面、絆志向、規範・伝統志向、健康・安全志向は強くありません。

<潜在顧客層が関心を持つ投資分野>
・「投資によって社会課題解決を支援したい」と考える分野は、環境、再生可能エネルギー、医療、介護、子育てです。

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インパクト投資に関する消費者調査のブログを最後までお読み頂きありがとうございました。内容はいかがでしたでしょうか? インパクト投資の消費者調査は日本ではまだSIIFの本調査が唯一ですが、インパクト投資への関心度や潜在投資金額などのデータが着実に積み上がっています。
インパクト投資は社会課題解決のための手段として今後ますます重要となっていくと捉えており、これらの調査データやブログがインパクト投資商品の設計、普及に少しでも貢献できれば執筆者として嬉しく思います。
 

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