2020年度:インパクト投資消費者調査結果発表 ~インパクト投資の認知度は6.1%。関心度は2割程度~【前編】
ナレッジ・デベロップメント・オフィサー 織田 聡
SIIFでは、インパクト投資の個人市場の活性化に必要な基礎情報を調査するため、全国の個人を対象に『インパクト投資消費者意識調査』を実施しました。
ご存じのように日本は世界有数の個人金融資産を持っており、また機関投資家からのインパクト投資額が順調に推移しています。その資産の一部がインパクト投資に向かうことで社会課題解決が進むと期待されていますが、個人が投資できるインパクト投資商品はまだ少なく個人市場はまだテイクオフ(離陸)していない状態です。
本調査もインパクト投資の個人市場活性化の一助となることを志し、実施しました。
2019年度は初回ということもあり、まだ誰も調べたことのなかったインパクト投資の認知度や実際にインパクト投資を行うことへの関心度を重点に調査しましたが、2年目になる今年度は、認知度や投資実行関心度に加えて、インパクト投資の潜在顧客層の属性、価値観や関心投資分野に関する設問を拡充しました。
【投資経験】
インパクト投資の設問に入る前に、まず消費者に預貯金以外に投資をしているかどうかを尋ねました。すると投資経験があると回答した人は45.2%であり(昨年は44.8%)、この一年間ほぼ変化がなかったことが分かります。あれだけ「年金だけでは2,000万円足りない」とニュースで騒がれたのに新たに投資を始めた人は少なかったことが分かります。
実際に投資を行ったことのある45.2%の方々のうち9割にあたる39.8%(ほぼ4割ですね)は、株式か投資信託の少なくとも一つはやったことがあると回答しています。今後金融機関がリテール向けのインパクト投資商品を組成する場合、株式か投資信託として売り出すことが、既に投資を行っている消費者にとって馴染みやすい形態かも知れません。
なお他の機関が実施する消費者調査でも、投資経験率が低いことが指摘されています。私も本調査を二回連続して担当してつくづく「日本の消費者は“資産運用”に関心はあっても“投資”には抵抗感がある」と感じます。投資Investmentと投機Speculationは非なるものですが、同じ「投」を共有しているため、どうも日本人は投資を危ういものとして遠ざけているのでは?と思うことがあります。今後、インパクト投資のリテール顧客のすそ野を広げるうえで、「投資」以外の言葉も考える必要あるかも知れませんね。
【インパクト投資の認知度】
「インパクト投資を聞いたことがあり意味もよく知っている」というコア認知層は1.7%。このコア認知層に、「意味も少し知っている」(4.4%)層まで含めると、意味を多少なりとも理解している認知者の割合は6.1%となります。2019年の数値である6.8%と比較すると、統計上の誤差を勘案すると横ばいといえます。(なお本稿では、「意味をよく知っている」、「意味も少し知っている」という2つの選択肢までを認知度と定義します。)
【インパクト投資の認知層はどんな人たちか?】
このインパクト投資の認知度を、他の属性(性別、世代、年収など)でクロス分析すると興味深いことが分かります。
まず、株式や投資信託など既に投資経験がある人は、投資経験がない人に比べて認知度が高く出ています(11.1% vs 1.9%)。
そして投資経験がある人のなかで、男性の20代、30代(いわゆるミレニアル世代)が高い認知度を示していますが、40代からは認知度が急減します。同じく投資経験ある20代から40代までの女性も10%前後の認知度を記録しているものの、50代以降は急減します。これは世代による接触メディアの違いによるものなのかどうか、今後インタビューなどで理由を探りたいと思います。
投資経験と世帯年収によるクロス分析でも面白い傾向が表れています。投資経験がある場合、世帯年収があがると認知度が高くなるという相関関係がありますが、投資経験がないと世帯年収が上がっても認知度は高くなりません。投資経験の有無は、情報感度や知的好奇心と強い関係があることがうかがえます。
【インパクト投資への関心度と、インパクト投資に割いてもよい金額】
インパクト投資を実際に自分で行ってみることに「大いに関心がある」、「やや関心がある」の合計は19.1%(3,098人中591人)。多少なりとも意味まで知る認知度が6.1%なのに比べ、インパクト投資の潜在顧客層が2割近くあるというのは特筆すべきだと思います。「インパクト投資」という言葉をまだ知らなくても、投資を通じて社会に貢献したいという人が一定程度いることが分かり、SIIFとしても非常に心強く感じています。このインパクト投資に関心ある層に「いくらくらいまでならインパクト投資に資金を割いてもいと思いますか?」と尋ねたところ、約4割は20万円以上投じてもよいと回答しています。今後のうねりに大いに期待したいと思います。
このインパクト投資関心度の回答と、投入意向金額の回答を組み合わせ、ピラミッド図のように赤いマルで囲ったセグメントを本調査ではインパクト投資の「潜在顧客層」と定義します。
そして潜在顧客層を「インパクト投資に割いてもよい」という金額の大小で分析したところ、パーソナリティや価値観に大きな違いが出てきました。
この分析は次号にてご紹介したいと思います。ぜひご期待ください。
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【2020年度インパクト投資 消費者意識調査】
・調査目的 : 日本における①インパクト投資に対する消費者の認知などの現状把握、②個人によるインパクト投資活性化のための潜在顧客層の分析
・委託先: 株式会社マクロミル
・対象: 全国の20歳から69歳までの男女3,098人(昨年より約1,000人増大)
・調査形態: インターネット調査
・調査期間: 2019年7月30日~31日
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