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日本のフィランソロピーにもっと戦略と課題解決の視点を

SIIFインパクトオフィサー:小柴優子

■シリーズ:ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から■

「フィランソロピー」という言葉から何をイメージしますか?

私がフィランソロピーに強く興味を持ったのは、NYの大学院に通いロックフェラー・フィランソロピー・アドバイザー(Rockefeller Philanthropy Advisors)でインターンをしたことがきっかけです。同団体のメイン業務はアメリカの富裕層にフィランソロピーのコンサルティングをすること。まず財団設立から、どういった分野の活動にフォーカスして取り組むべきか、解決したい社会課題にマッチした助成先はどこか、といった財団運営までをサポートします。アメリカはこうした富裕層からの依頼が多く、「フィランソロピー・アドバイザー」という職業の人たちが活躍しています。そこで解決する社会課題も多岐に渡り、そのダイナミックさに驚きと新鮮さを感じました。

次にインターンをしたのは、投資家であり慈善家でもあるジョージ・ソロス氏率いるオープン・ソサエティー財団。ここは民主主義や人権のために活動する団体などに資金を幅広く提供しています。たとえば汚職がはびこる途上国で財政を健全化し、ガバナンスを整えていく活動など、ほかにはあまり見かけないニッチでユニークなテーマにフォーカスしていますが、そこにはソロス自身の哲学があります。私財を投じて財団を作り、社会貢献活動をするフィランソロピストには、それぞれの解決したい課題についての強い思いがあるのです。

翻って、日本のフィランソロピーはどうでしょうか。日本の財団の40%は奨学金の提供、30%が研究開発で、社会課題の解決のために活動している財団は約15%にとどまっています。お金をあげることだけに終始して、テーマを深掘りするプロセスや課題解決のための戦略が不足しているケースが多々あるのではないかと考えています。

フィランソロピーの定義として私が共感する部分は、「持てる者が先陣を切って社会実験をする」ということ。前例がないことに対して自分のお金を投じてプロトタイプをつくるのがフィランソロピーの醍醐味であり、日本でもそうした活動が広がってほしいと願っています。

財団が資金を提供した後、どういう活動がなされたかというレポーティングはされていますが、そこに資金提供者の意思はどのくらい反映されているでしょうか。例えば子供の貧困や児童虐待、自然環境の破壊など、解決したい課題があるのならば、応急処置的なアプローチだけではなく、戦略的に取り組んで3年後、5年後にどう解決するかを描くアプローチが必要だと感じています。

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米国出張時の訪問先の「21/64」。ファミリー財団を受け継ぐ次世代メンバーへのトレーニングに特化した米国のフィランソロピーアドバイザー。(左からSIIF事業本部長代理藤田 、21/64のAndine Sutarjadiさん、 SIIFインパクトオフィサー小柴) 

昨年11月のアメリカ出張では、フィランソロピー・アドバイザーなど約15の団体にヒアリングしました。それぞれ特定の専門分野をもっていたり、ジェネラリスト的に幅広くリサーチしていたり。中にはコンサルティングをするだけでなく、富裕層を集めてピアグループを作り、対話や内省を通じて、なぜその課題を解決したいのかを掘り下げていく活動をしている団体もありました。個人の人生を振り返って、なぜその課題を解決したいかを深掘りすることは活動を持続する大きな原動力となるからです。

では、なぜ日本で富裕層の社会貢献活動に深みや幅が生まれにくいのか。

まず日本で財団を立ち上げる場合、節税という観点から会計士や税理士が窓口となることが一般的です。そこでは財団法人というハコを作ることはできてもプログラムを運営するノウハウはありません。フィランソロピー・アドバイザーのような財団の運営をカウンセリングする機能が足りません。

この状況を打開するキーとなるのは、富裕層の方々のフィランソロピー活動をサポートするエコシステムを日本に作ることだと思います。エコシステムなので一つの団体で完結することはなく、既存の企業や団体があらゆる方面から社会変革に資するプログラムやプロジェクトの実行、そしてそれを志す個人やそのサポートを提供することが必要だと考えます。

SIIFでは現在、どうすればもっと富裕層がフィランソロピー活動に参画できるようになるかリサーチを進めており、夏にその成果を皆様に公開する予定です。また、新型コロナウイルス感染拡大のために延期になってしまいましたが、6月にアメリカからロックフェラー財団の関係者を招き、日本の富裕層を対象にしたラウンドテーブルを開催予定でした。この企画は来年に延期になってしまいますが、今後、日本のフィランソロピーがもっと多様で戦略的な取り組みができるエコシステムを少しずつ構築していきたいと考えています。

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