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日本におけるインパクト投資残高は昨年度から1.6倍に成長  ―「インパクト投資とは何か?」を考えるために算出した3つの数値―

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インパクト・オフィサー 戸田満

日本におけるインパクト投資残高は5,126億円(アンケート調査)

インパクト投資は今、成長フェーズにあると言われています。今回、SIIFがGSG国内諮問委員会の監督のもとにまとめた「日本におけるインパクト投資の現状と課題 ―2020年度調査―」報告書によると、日本国内のインパクト投資残高は5,126億円(※2019年度末時点)。2019年度調査の3,179億円(※2018年度末時点)に比べ約1.6倍に成長しました。

社会課題の解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的・環境的なインパクト創出を同時に実現するインパクト投資は、民間資金を使ってSDGsの達成に寄与する投資手法として世界で注目されています。とはいえ、インパクト投資の実践はまだ発展途上で、今後ベストプラクティスの集約や各種促進施策が整備されていくことが期待されています。

新たな試みとして算出した2種類の数値

2016年度から毎年継続して実施している本調査における上記の数値(5,126億円)は、国内の機関投資家や金融機関を対象にアンケート調査を行い、得られた回答から算出したものです。調査票でインパクト投資の定義を明示したうえで、回答内容からインパクト投資に該当する取り組みをスクリーニングして算出していますが、あくまでアンケート調査の結果を分析したもので、国内における全てのインパクト投資の取り組みを網羅的に把握できてはおらず、課題として認識してきました。

そこで今回の調査では、日本におけるインパクト投資市場をより正確に捉える上で、従来のアンケート調査に基づく投資残高に加えて、新たな試みとして2種類の数値を算出しました。いずれも試行的に算出した数値で、今後インパクト投資の範疇(スコープ)が整理される中で算出方法も見直される可能性がありますが、インパクト投資とはなにかといった本質的な議論の活性化を期待しています。

1)最終投資家の「インパクト創出の意図」が汲まれているか1つは国際的に広く参照されている、GIIN(the Global Impact Investing Network)のインパクト投資の定義における、『投資家のインパクト創出の意図(Intentionality)』を重視した数値です。

この数値は、アンケート調査に基づく投資残高のうち、最終投資家に至るまで社会的インパクト評価の内容が共有されたものを抽出したもので、総額は3,287億円でした。

算出の背景として、最終投資家に至るまで投資家に「インパクトを創出する意図」があったと推定するためには前提条件として仲介機関等から最終投資家に社会的インパクト評価の内容が共有されている必要があると考えているためです。社会的インパクト評価の情報提供がなされていないのであれば、最終投資家にとっては、投資判断に際して手元にある情報は従来の財務的リターンを追求する投資と変わらないためです。

2)インパクト投資「商品」として社会的インパクト評価の要素を備えているかもう一つの数値は、インパクト投資の「商品性」に着目して算出したものです。近年、インパクト投資と銘打ってはいないものの、社会的インパクト評価の要素であるインパクト指標の設定やインパクトに基づく投資前後の評価が設計されている商品群が出現してきています(例えば、サステナビリティ・リンク・ボンド)。

今回は公開情報に基づくデスクリサーチによって抽出したこれらの商品の組成金額の総和を市場の最大推計値(ポテンシャル)として、アンケート調査で把握できた残高と足し合わせて、参考値ながら総額2兆6,400億円と算出しました。

算出の背景として、従来のアンケート調査でリーチできる機関投資家・金融機関の限界と、上記の社会的インパクト評価の要素を備えた商品群の出現があります。一方で、(1)で算出した「(最終)投資家の意図」を重視して算出した数字と異なり、(2)の数値は必ずしもインパクト投資として商品が購入(投資)されているかどうかはわかりません。

インパクト投資における範疇(スコープ)として、最終投資家も含めた投資家の「意図」を絶対的な要件としていくのか、それとも商品設計においてインパクト創出・可視化のための仕組み(社会的インパクト評価)がなされていればその商品を購入することを以てインパクト投資とみなせるのかは、今後、インパクト投資市場が拡大していく中で、「インパクト投資とは何か」を議論していく上で整理が進んでいくと思います。

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出典『日本におけるインパクト投資の現状と課題 ―2020年度調査―』(出版:GSG国内諮問委員会 事務局:SIIF)

日本のインパクト投資市場はこれから成長していく段階
またその他に今回のアンケート調査により分かったこととして、日本のインパクト投資市場の発展がグローバルより遅れていることです。GIINにおけるグローバル調査においてはインパクト投資家の約7割が「(市場は)順調な成長に入っている」と回答しているのに対して、日本のインパクト投資家の約8割が「これから成長していく段階」と一段階成長が遅れているとの認識が顕著でした。これをネガティブに捉えれば後塵を拝しているということになりますが、ポジティブに捉えれば日本はまだ成長していける可能性があるということを示しています。実際に、インパクト投資取り組み機関の4分の3が「今後もインパクト投資を増やしていく」と回答していて、新規参入も期待できるため、今後も市場の成長が期待できるでしょう。

そのための課題として、多くの関係者が共通に指摘したのが「社会的インパクト評価・マネジメントのアプローチが断片的で体系化されていない」という点です。今後は、インパクト投資についての議論を深めていくとともに、社会的インパクト評価・マネジメント手法の体系化・精緻化をしていくことがインパクト投資を発展させるカギになっていくと考えています。

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メディア向け説明会の実施と所感
また、本日4月6日の本報告書の公開にあたって、メディア向け説明会を実施しました。オンライン参加も含めて20名超のメディア関係者が集まり、インパクト投資への関心の高まりを感じました。質疑応答の場面では、インパクトの測定やインパクト投資推進における行政の役割などが質問としてあがりました。今後、本報告書をきっかけにインパクト投資をめぐる議論が活性化すれば幸いです。


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日本にインパクト投資が根付いていない2013年頃より調査研究に着手し、GSG国内諮問委員会設立や賛同メンバーの招集を皮切りに、インパクト投資における提言書や現状を記した報告書の発行。金融庁共催のインパクト投資における勉強会の開催などインパクト投資の推進のための活動をしています。