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老朽化した空き家問題を解決しながら貧困家庭を支援する仕組み

2020年度の休眠預金等活用事業の「コレクティブインパクトによる地域課題解決事業」をテーマに掲げています。今年度も、資金分配団体として採択されたSIIFは、実行団体として採択したNPO法人 空家・空地活用サポートSAGAの、空き家を活用して一人親家庭に居住や食事、就労を支援し、食料品の受け渡しを行う拠点の整備などを目指す事業を支援しています。同NPO法人代表理事の塚原功さん、副代表理事の内川実佐子さんをお迎えし、その取り組みと目指す社会的インパクトについて伺いました。

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NPO法人 空家・空地活用サポートSAGA
(左)代表理事 塚原功氏
(右)副代表理事 内川実佐子氏
(中)SIIF専務理事 青柳光昌
(本文中、敬称略)

「建物」をコアにしたユニークな取り組み

青柳 今回の休眠預金等活用事業は「コレクティブインパクト」がテーマなので、複数の団体が同じ目標に向かっていることが確認できる事業というのが採択の条件でした。採択した4団体の中で、この条件が一番イメージしやすかったのがNPO法人空家・空地活用サポートSAGAさんです。貧困問題に取り組み、それぞれの分野で専門知識がある方が佐賀に集結してシステムづくりを計画している。まだ日本でも成功例が少ないと思いますが、これだけの仕組みを構築しようとされていることに大きな期待を持ちました。塚原さんはどういう思いから休眠預金等活用事業に応募したのですか?

塚原 もともと私どもは空き家問題を解決したいと思ってスタートした団体です。さまざまな手法で空き家利活用を提案していく中で、4年ほど前から要配慮者の方の住居支援を始めました。私どもができるのは、いわゆる「箱もの」。空き家を利活用してもらうことです。要配慮者の9割以上は貧困状態にある方々です。彼らは社会的に孤立していることが多く、身内などに保証人を頼めないし、初期費用もないことが多い。そういう方になんとか住居を提供する活動をしてきました。その中で、昨年来増えてきたのがひとり親家庭の相談です。これらの方々はこのコロナ禍で仕事や家庭がうまくいかなくなった方も大変多い。一人暮らしであれば1DKでも良いのですが、お子さんがいるとそういうわけにもいかず、低価格での住居の確保がより難しくなります。福祉系の団体からは、箱もの(住まい)をどう調達するかという壁にあたって先に進まないという相談を常々受けていました。幸い私どもは「箱ものの提供」が得意で、空き家を利活用した提案ができる。これを貧困問題にうまく当てはめたら解決していけることがあるんではないか、と考えて休眠預金等活用事業に応募したわけです。

内川 問題を解決するために、誰とどうつないでいくかの連携を私が担当させてもらっています。いろいろな方がそれぞれの目標を達成するために、この事業を利用してもらえたらいいなと思っています。

青柳 コレクティブインパクトでは、内川さんの言う「つなぐ」が非常に重要ですよね。関わっている方々が目標を言葉にして明示するプロセスが大事になってくると思います。そしてこの事業ではハード面も重要な役割をしています。「箱もの」には「箱だけ作っても運営時点で有効に活用されない」とネガティブなイメージを持つ方がいるかもしれませんが、その建物で何ができるかを考えて設計されていると、利用される方の生活も変わってきます。「箱ものづくり」に詳しい塚原さんたちが事業の中核的な存在となっているのもユニークだなと思いました。

年内完成を目指すコミュニティフリッジ

青柳 今はどんな活動状況ですか?

塚原 フードバンクさがさんや、こども宅食応援団さんと連携してコミュニティフリッジの運営を予定しています。この二つの団体は企業等と連携しているので、食料品の寄付を集められるのですが、それを貯蔵する場所が不足している。我々は不要になった建物を使いやすくして提供することができるので、お互いの得意なところを生かしたコレクティブインパクトを考えています。在庫はオンラインで管理し、郊外につくるフードパントリーと連携して在庫切れがない仕組みも考えています。コミュニティフリッジは年内に使えるようにしたいですね。

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空きスペースをリノベーションして、街中にコミュニティフリッジをオープンする予定。食料品・日用品の支援を必要とされる方が、人目を気にせず、都合が良い時に食料品・日用品を取りに行けるように、立地やリノベーション方法を工夫している。

内川 食料などの支援を受けたい方達の中には、手渡しでの支援がハードルとなり、声をあげられないケースもあると聞いています。無人で利用できるコミュニティフリッジであれば、そういう悩みの解消にもつながりますし、表通りから少し入った今回の場所は、人目につきにくい立地なので、尚更利用しやすいと思います。今、「生理の貧困」なども問題化しているので、いずれは生理用品もおけるようにしたいですね。

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郊外の築40年超の空き家を利活用してフードパントリーとシェアハウスを併設予定


老朽化した空き家もアイデア次第で7割以上は利活用できる

塚原 私たちが空き家活用の相談を受けたときには、常にフラットな目線をもつようにしています。一般的な不動産業者さんや工務店さんに相談すると、商売目線での答えしかでてきません。例えば今回、シェアハウスにする予定の木造の建物(写真上)の場合、郊外にあるので土地の資産価値は高くありませんし、築40年超なので、不動産業者の答えは「法定耐用年数は過ぎているので、解体して更地で売りましょう」となりやすい。しかし、この建物は、高知の土佐杉等、材料にも拘った貴重な建築で、造りもしっかりしており、オーナーさんも解体を望んでいません。ですから、建物をどう利活用するかの方法をいくつか考え、今回の提案に至った次第です。私の感覚で言えば、相談を受けた空き家の7割以上は利活用できる印象なので、使えるものは再利用する事を旨とし、相談者に寄り添い、利用者等すべての方が「良かった」と思える提案を心掛けています。

内川 以前の例ですが、私も「これは難しい」と思った古い空き家に対して、塚原代表は「大学が近いから留学生のシェアハウスにできる」と提案されたんです。築年数も古くて若い学生が住みたい家にはならないのではと思っていましたが、実際にリノベーションしたら、「私が住みたい!」と思うぐらい素敵になりました(笑)。私ではとても考えが及ばない視点で利活用を考えられるので、いつもびっくりしています。

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シェアハウスのbefore / after

青柳 不動産的な金銭価値だけでみたらゼロでも、オーナーさんの思いと塚原さんのアイデアで素晴らしいものに甦るんですね。

3年間の支援期間を利用して中長期的に考えていきたい

青柳 塚原さんはどういうことをSIIFに期待されていますか?

塚原 NPOを起ち上げて6年になります。もともとはガチガチのビジネスマンでしたが、副代表理事の内川と知り合い、いい意味でソーシャルの世界に引きずりこまれました(笑)。当初はほかの仕事もこなしながらNPOを運営していましたが、認知度が上がり、相談が増えてくると片手間ではできなくなり、今はNPO活動1本でやっています。そうなったとき、問題は活動資金ですよね。国の事業をよくやらせてもらっていますが、どうしても人件費が不足する。NPOとしては、助成事業と収益事業、寄付のバランスが大事ですよね。今後は企業と共同したり、寄付を受けたり、ということも増やしていきたいので、そこを一緒に考えていただけるとありがたいですね。

青柳 資金調達は、いろいろな手法や事例は持っているのでぜひ協力していきたいですね。休眠預金等活用事業の助成は3年間ですが、その後、どういう形でどういう資金を調達していくかは課題ですよね。

塚原 行政の事業は単年度なのでどうしても目の前の課題に追われて、なかなか中長期的な目線で考えられません。そういう意味でも、3年という支援期間があるので、その先のことを考えながら、事業を推進できる。これは非常にありがたいですね。それも応募動機の一つでした。

内川 資金調達もそうですが、SIIFさんが関わっている団体の成功事例を知ることで事業のイメージができやすい。ヒントをもらいながら事業の形成をしていきたいですね。今度、ほかの団体も研修でご一緒できるので、一緒にステップアップしていきたいですね。

青柳 4団体が集まる研修は11月に予定しています。取り組むテーマは違っても、そこから学び取ることは大事ですよね。ぜひ横につながっていってください。

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