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「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」〜インパクト投資のエコシステム構築に向けて〜

先日、SIIFは、日本財団と一般社団法人ImpacTech Japanが推進する社会起業家支援プログラム「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」(以下SCM)の第一期生3社に、総額7千万円超の資金支援を行うことを発表しました。

そこで、今回は、日本財団でSCMの事業を担当されている花岡隼人さんをお招きし、SCMへの設立の背景や想い、今後の展望を伺いました。

画像1左)日本財団 ソーシャル・イノベーション推進チーム 花岡 隼人さん(以下、花岡)
右)SIIF 常務理事 工藤 七子(以下、工藤)


工藤:まず最初に、SCMの立ち上げの背景や、花岡さんのSCMへの想いをお聞かせください。

花岡:もともと工藤さんとはソーシャルイノベーター支援制度という社会起業家支援のプロジェクトを一緒に推進していましたよね。その後SCMを構想したのは、3年前のことです。日本財団は、長年にわたって社会課題解決の実績がある一方、新たに起きているソーシャルビジネスの支援までは十分にカバー出来ておらず、ソーシャルセクターの方々との事業作りに特化していました。常々、もっと大きな枠組みで事業ができないかと考えており、ビジネスセクターの方とどうやって連携していくかが課題でした。より広く社会課題解決の担い手を見つけ、課題解決に取り組みたい。そのために、社会起業家に4ヶ月に渡るプログラムを通して、自らのビジネスをブラッシュアップするご支援を提供するというのが、SCMの趣旨です。いわば社会課題解決の担い手のための伴走支援です。
日本財団はこれまでソーシャルセクターの方々に限定した支援を行ってきましたが、助成金申請数は年々減っています。営利団体を含む多くのソーシャルビジネスの担い手の方に、日本財団にもっと期待を寄せてもらい、頼ってもらいたいのです。社会課題解決の担い手が非営利組織だけではなくなっている中で、これまで高かった敷居を下げ、裾野を広げるという意味で、SCMを立ち上げました。

工藤:実際に、第一期SCMを実施してみての手応えはどうでしたか?

花岡:「日本財団に認められることは、社会課題解決を目指すスタートアップ企業にとってありがたいこと、選ばれたことに価値がある」と言う言葉をいただきました。実際に、SCMに参加するだけでも、縁やネットワークが広がり、お金以外の部分で力をつけることで、さらに魅力的なビジネスとなります。
支援する我々にとっても、参加団体とは1年以上の長い付き合いになり、プログラムだけでも4ヶ月付き合うことになります。飲食を共にし、時間を共にすることで絆が深まります。支援する側としてはその会社に転職したい(笑)と思うぐらい、惚れ込むことが大切です。信頼関係を結び、参加者のやる気を引き出すことで、ビジネスモデルが大きくブラッシュアップされた例が幾つもあります。
日本財団はこれからもっと「開いていく」ことが大切だと思っていて、私自身もそれをミッションとして携わっています。SCMを通じて、上流から下流まで、法人格を問わず、広く情報や支援が行き渡ることによる社会的インパクトは大きいですね。

工藤:そういう意味ではこれまで非営利団体のみを支援対象としていた日本財団が今回SCMを通じて株式会社にも支援対象を広げ、入り口を「開いた」というのは大きな意義がありますよね。最近では事業立ち上げの際に株式会社の形式を選択する社会起業家のほうが多いのではないかと感じています。一方、資金調達の選択肢が少ないのが実状です。IPOでもなく、従来型の助成金でもない資金調達の新たな入り口を用意する意義は大きいと思います。もともと株式会社への投融資を行うことができるSIIFとして今回一緒に取り組めたのはとても嬉しいです。SCMでは特にどういった点を評価して企業を選出していますか。

花岡:社会起業家の定義というのが、非常に難しいところでしたが、日本財団としては「社会コストの負担を軽減する仕組みに貢献している」ことがポイントとなりました。例えば、今回SIIFが資金支援を決めた「エーテンラボ株式会社」は、日本において重要な社会課題である医療コストを下げることに寄与します。「株式会社ヘラルボニー」は、障害者の方がビジネスを通じて自ら稼ぎ、自立するという新しい世界観を醸成しています。「株式会社Aster」は、世界には、災害により建物が壊れたら建て直せばいいという文化がまだありますが、地震対策の技術が広まることで失われる命を救うことができます。
社会コストを削減することが、社会起業家の一つの役割になります。それには、スケール、プロフィット、コスト削減意識が大事ですが、株式会社は、効率重視のため、社会コスト削減に寄与しやすいという印象があります。SIIFとしては今回3社への支援の意義をどのように位置づけていますか?


工藤:今回SCMを卒業した社会起業家にSIIFが出資する意義は、インパクト投資のエコシステム形成にあります。起業家にとってもっとも重要なスタートアップの支援にきちんと入っていき、次の支援に繋いでいくことが必要です。創業期の社会起業家が資金調達を考えるとき、今は助成金か、IPOを前提として出資を受けるかの、2者択一になってしまう。社会課題解決にコミットしながらビジネスの持続性を追求したい社会起業家に最適な資金提供手法を開発したり、そういった資金の出し手を増やしていくことは大きな意味があります。
今回、J-KISSによる出資をしましたが、社会的なミッションをぶらさずにビジネスとしての成長も追及するために新株予約権の手法がどう活かせるか、金融手法の研究開発の貴重な機会でもあります。もともと、SIIFには、起業家との接点が少ないという課題意識がありました。起業家のニーズがわからない中、インパクト投資のエコシステムを作っても的外れのものかもしれません。起業家へのネットワークをつくることで、投資家への提供価値もあがると考えています。


花岡:社会起業家のビジョンやミッションを十分に理解した投資家、金融セクターの方を増やさなければいけないですよね。仮にVCから資金調達できても数年で経済的なリターンのみを求められ、起業家がもうこれ以上一緒にやりたくないとなると、お互いにとって不幸な出会いになってしまう。

工藤:仰る通りですね。今回のSIIFの支援の先に、どこか別の資金提供者に繋いでいくことが必要だと考えています。SIIFの支援を卒業した起業家が、IPOしないという選択肢を選んだ場合、どうその後の成長を財務的に支えるかが今後の課題になります。投資家を巻き込みながら資金調達の選択肢を広げるなどのインパクト投資のエコシステムを、一緒に作っていきたいですね。

花岡:コロナ禍でスタートアップの市場も影響を受けていると思いますが、一方でコロナによる様々な社会的課題も顕在化しており、社会起業家にとっては新たな機会になり得ます。
SCMには技術、スキルを持っている起業家が集まっていますが、創業期の社会起業家にお金を投入する投資家が少ないのが現状です。われわれはこれを好機と捉えており、向こう2、3年で新たな仕組みを作っていきたいですね。日本財団には、60年の歴史、実績に基づく信頼感や発信力があります。一方SIIFは、社会的投資分野を開拓してきましたので、株式出資、株式会社への経営支援、社会的インパクト評価などの得意分野があります。お互いの強みを活かしながら今後も協働していきたいです。

工藤:そうですね。日本財団の得意とする企画力・プロデュース力と、SIIFのインパクト投資分野での専門性を組み合わせて今後良い形でコラボできればいいなと考えています。

本日はありがとうございました。


<SCM 1期生3社への資金支援について>
SIIFは、新株予約権の手法をとるJ-KISSによる出資など、シード期の社会的企業の特性を踏まえた資金支援に加え、これまでの経験・知見を蓄積してきた社会的インパクトの最大化を図る伴走支援も行う予定です。
支援先3社
「株式会社Aster」
組積構造建物の外壁強化による耐震補強で世界の地震被害による犠牲者を減らす。
「エーテンラボ株式会社」
オンライン上で5人1組のコミュニティを形成し、生活習慣病の治療継続などの行動変容をサポートする
「株式会社ヘラルボニー」
知的障がいのあるアーティストをプロデュースするエージェンシー。


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