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纏うのは服ではなく自信


私は古着屋で働いている。
18からアパレルを始め、新品で働いてきたが心機一転古着屋で働き始めた。きっかけはまた別で話そう。

今日は久しぶりに感動的なお客様に出会えた。
久しぶりというのは、古着屋に買い物に来るお客様はいい意味で自分を持っていて自分が着たいように服を着ることに抵抗がない人達が多い。だからこそ、ただ服を買いに来る事が一般的だ。いちいち感動はしない。正直な話、嬉しいけど。


1人の女性が入店してきた。イヤホンをし、帽子を深く被りメガネにマスク。防御スタイルなのか1人で選びたいのかしばらく様子を見ていたら試着いいですかと声をかけられ試着室に案内した。どうですかと声を掛けるとこの首元にあるロゴ刺繍は何のマークなんですかと聞かれた。あ、なるほどラルフローレンを知らないのかなと思い、説明をすると顔がぱあっと明るくなり知らなかったですと。その女性はグレーのスウェットに膝丈のスカート、靴下にスニーカーを履いていて30代後半くらいだろうか。いつも通販で購入し、外に出ないと言っていた。

特に何故出ないのかは聞かなかった。生きてれば色々ある。表情が暗く元気がなさそうな印象だった。

せっかくならと思い、コーディネートを組み雰囲気に合わせて提案してみた。すぐ試着してくれ、一つ一つに感動して明るい顔を見せてくれた。入店された時の表情とはまるで真反対の自信に満ち溢れた顔をしていてとても魅力的だった。靴もスニーカーしか履かないと言っていて、夏もですか?と聞くとスニーカーしか持ってなくて、と。色々聞いていくと茨城に住んでいるそうでコロナ禍でずっと通販ばかりで購入していて店員とも話さず服を購入していたと。でもなんだか違うなと思っていて、自分に似合う服が分からない。自分がお洒落だと思う服がわからないと言っていた。

私にもそういう過去がある。自分に似合う服がわからなくなった時。ときめかなくなった時。自分に自信がなくなっていった。でも、お洋服で自分らしくなれる事を私は知っている。その女性はきっととても素直で純粋で常に探究心がある方なんだなと思った。こうして足を運んで来てくれたことに感動し、お店で流していたビートルズのレット・イット・ビーを聴きながら家に着いていっていいですかのエンドロールがその女性versionで頭に流れた。

女性は、私が提案したお洋服を全て購入してくれた。だが聞くと今日着てきた服にも納得がいってないようで。それならと思い、合うお洋服を着てもらった。試着室から出て来た彼女は別人で満たされている表情をしていた。全て購入していくと。着て帰るとまで言ってくれて、本当は泣きそうなくらい嬉しかった。我慢した。ビートルズの曲もあいまって、危なかった。


私はお姉さんに出会えてよかったと。
私もお客様に出会えてよかったですと。

販売ってこういう事なのではないかと、久しぶりにいや改めて思い知らされた時間だった。誰かを幸せにするために販売をする。服を売るのではなくトキメキをプレゼントする。

忘れていたかもしれない。
日々、人に疲れ目の前のやることに追われただただ疲労だけが溜まっていく。立ってるだけで体が重く買う気もない人たちの相手をして心がすり減っていくだけだった。

私は出来たのだろうか、彼女の心の壁をこじ開け奥底に眠っているもう1人の彼女を起こしもう一度あの頃の自分を取り戻してファッションというものを感じ自分を好きになれるお手伝いを。

出来てなくてもどちらでもいい。茨城からまた私を思い出して来てくれれば。きっと次は明るい顔でこんにちはと言ってくれるだろう。


彼女は自信を纏えたのだから。


「纏うのは服ではなく自信」
2023.4

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