糸
何本もの糸が絡み合い交差してぐちゃぐちゃになって気づけば勝手にほどけていく。それはとてつもなく空虚なもので私の中のそれは意図することもなく何本もの糸が溢れ出てしまうのだ。
その日は突然に。
思いもよらない時にやってくる。
真っ暗闇の中自分の影を追いかける
誰も追いかけては来ないのに私は何者かから逃げ回っている
自分ではない何かにとりつかれ憚れ縛られる
もう一人の自分なのか自分とはなんなのか。それすらも分からないまま、ただ捉われている。
あの日、まだ幼かった頃私は母の糸を理解できないままいた。
皆、色々な顔があって様々な表情があって無数の糸を抱えながら生きている
私はあの子にどんな顔をしてあの子にはどんな自分が写るのだろうか。
生きている限り悩む権利があっていいのだと誰かは言った。
悩みは生きている人が持てる特権なのであれば、私は生きている限り沢山の糸を混ぜ合わせ絡ませぐちゃぐちゃになるまで無数の糸を出したい。
だしきった先に何か見えるだろうか
一本の糸が綺麗に垂れ下がった時何が見えるのだろうか
少なくとも私はそれを楽しみにこれからも生きていく
時に糸を切って短くしたり、小さな毛糸玉のようにしながら。