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プロダクトデザイナーが漁師になるという、最強の転職【岡山八朗兵衛商店 代表 岡山拓也 / Clubhouse ゲストスピーカー】

 音声SNSのクラブハウスにて、毎週日曜日の夜21時より、異業種交流や雑談などを行うオープンなルームを運営しています。

 第2回(2021年3月7日)のゲストスピーカーとして来てくれたのは、大学時代の同級生で、現在は故郷の京都・舞鶴で家業の漁業・農業を営む「岡山八朗兵衛商店」代表の岡山拓也さんです。

 大学卒業後の2008年、福井県鯖江市を拠点とする木地加工メーカーの山口工芸(現在は木製雑貨ブランド Hacoa に社名も変更)にプロダクトデザイナーとして入社。2010年からは、Hacoa 東京支店出店時の支店長に就任し、マネジメントも手がけることとなります。

 2016年、東京で出会った奥さんとともに、故郷の京都・舞鶴へUターン。牡蠣の養殖業を中心に、漁業や農業という一次産業の分野で、ほぼ一から経営を始めますが、そのアプローチ方法は非常に興味深いです。

 以下、クラブハウスでお話しした内容をふまえ、自分が特に興味深く感じた点を書いていきたいと思います。

▶︎Product Design / 漁業を「ブランディング」する

 「商品が美味しいことが一番大事。その上で、プラスアルファの価値をどう生み出していくかが重要」と話す岡山さん。

 祖父母から家業を引き継いで、新たなに手がけたことは、会社名ネーミング、ロゴデザインの作成、ホームページやSNSアカウントの開設、加工商品の企画開発など、多岐に渡ります。
 これらの仕事は、前職のプロダクトデザイナーをしていた時と同様、「ブランディング」の観点から、デザインやマーケティングの要素を取り入れることができます。

 また、多種多様に普及している便利なアプリケーションソフトを積極的に活用し、伝票処理などの庶務作業もデジタル化して、仕事の効率化を図っているとのこと。
 こうした工夫をすれば、ほとんどの仕事は効率化できる社会環境に変化してきたことで、地方で仕事をしていくハードルが随分と低くなってきたと感じているそうです。

 こうして、代々受け継がれていたものを現代的な視点で刷新していきつつも、祖父の「岡山八朗兵衛」という名前はそのまま活かしてお店の名前としているところに、岡山さんの粋な計らいを感じます。

▶︎SNS / 漁業を「D2C」化する

 これまでの漁業のイメージといえば、水揚げされた魚介類などが、漁港で競りにかけられ、仲卸業者を介して、全国各地の小売店舗で店頭に並んだ商品を購入する、といったものでした。

 一方、岡山八朗兵衛商店の販路は、EC(ネットショップ)を通じた顧客からの商品購入のみで、商売が成り立っています。
 直接販売とすることで、生産者は顧客への「知らせる」と「買ってもらう」を、ワンストップで行うことができ、また、万が一商品に問題があった場合などのアフターフォローも、速やかに行うことができるメリットもあるそうです。

 このように、生産者と消費者が中間流通業者を通さず、直接商品をやりとりするビジネスモデルは「D2C(消費者直接取引)」とも呼ばれ、近年注目を集めていますが、漁業の分野でもこれが可能になるとは驚きました。

 また、商品のプロモーションは、InstagramやTwitterなどのSNSを使った情報発信を主軸としつつ、たまに東京などの大都市圏でポップアップ・ストアとして出店することもあるそうです。

 「今の時代は、モノが良いだけでは、お客さんは買ってくれない。売り手の顔を見せ、雰囲気やパーソナルな部分を感覚的に気に入ってもらえて、はじめて購入に繋がる」と話す岡山さん。

 従来から、農業などの一部の業界では、トレーサビリティの観点からも、生産者の顔が見えることの重要性が指摘されていました。
 世の中にSNSが広く浸透したことにより、さらにその流れが加速し、日常の購買行動にとっても、売り手の情報発信は「必要不可欠」なものになってきたんだなと、あらためて痛感させられました。

▶︎DIY, and Renovation / 漁業の仕事の波(養殖期間)を埋める「副業」

 自然を相手にする漁業の世界では、仕事の波というものがあります。岡山さんの牡蠣養殖でいうと、牡蠣の出荷が終わる春から夏頃にかけては養殖期間となり、比較的時間の余裕があるそうです。

 その期間を有効活用し手がけているのが、古民家のセルフリノベーションです。また、YouTubeチャンネル「Okahachi Renovation(オカハチリノベーション)」をつくり、セルフリノベーションの一連の過程を詳しい解説とともに配信しており、チャンネル登録者数1.15万人、動画再生回数115万人(2021年7月5日 現在)と、大変好評のようです。

Okahachi Renovation(オカハチリノベーション)【夫 / セルフリノベーション、DIY】

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 岡山さん一家は東京から舞鶴へ移住をする際、築100年の古民家をセルフリノベーションして、暮らすことを選びました。 
 そうした話を知ったお客さんからの、「セルフリノベーションの過程を詳しく知りたい」という声に応えるかたちで、動画配信も始めるにいたったそうです。

 現在配信中の動画では、自宅の近くの築38年の中古住宅を購入し、リノベーションプランを立てるところからスタートしており、視聴者はいちからセルフリノベーションの過程を学び楽しむことができます。

 「カッコつけているだけではダメで、失敗を見せることも大切」と話す岡山さん。実際に、岡山さんのチャンネルでは、建物解体中にアスベストが含まれていることが発覚して落ち込んだ配信があった後に、次の配信ではアスベストの処理方法について学んだことを詳しく解説するだけの回があったりします。

 セルフリノベーションの現場で起こるリアルな過程を、失敗も含めて詳しく見せることによって、視聴者としてはむしろ誠実さを感じたり、親近感が湧いてくるようにも思えます。

 ビジネスモデルとしては、セルフリノベーション後の物件を賃貸して得られる家賃収入と、YouTubeチャンネルの動画再生回数に応じて得られる広告収入で、およそ8年程度で初期投資費用を回収できる見通しとのこと。
 利回りについてもしっかりとしたシミュレーションがなされつつも、基本的には、岡山さん個人の趣味の要素が大きいとして、まずは自身が楽しむことを第一に考えているところが、とても素敵だなと感じました。

 大学での私たちの専攻は建築学科だったので、当然建物に関する興味や知識は多少ありはしましたが、YouTuberになって家一棟まるごとDIYしちゃうとは、片手間でやるにはスケールが大きいです。笑

 余談ですが、現在、筆者は豊田市の足助町という歴史ある町並みで、古民家修理を支援する業務に携わっています。そこでは、手つかずで放置された空き家も多く、いちから古民家の修理をしようとしてくれる建物所有者さんは、まだまだ少ないのが現状…。
 岡山さんの話を聞きながら、「岡山さんみたい人が一人でもいたら、まちは随分と良くなっていくだろうな…」と、つい想像してしまいました。それぐらいに、地元舞鶴にとっても、岡山さんは貴重な人材なのではないかと思います。

▶︎Partner, and Family / 「夫婦」で支えあう仕事のしかた、そして「家族」

 新たなチャレンジに果敢に取り組む岡山さんですが、奥様もとても面白い方だということを知りました。

まりげ【妻 / コミックエッセイスト】

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 コミックエッセイストとして、書籍の出版をはじめ、さまざまなメディアや企業でのイラスト制作やコラム連載など、多方面で活躍されている奥様のまりげさん。
 元々は、東京から地方への移住を機に、友人への近況報告のつもりでInstagramにイラストを投稿し始めたことが、現在のお仕事に繋がっているそうです。

 著書『たのしいことを拾って生きる。 〜まいにちいろいろ、家族ドロップス〜』では、こどもとの日常生活でのやりとりを中心としつつ、旦那の話や古民家をリノベーションした時の話も描かれています。
 同級生としては、「岡山さんが言いそうなセリフだな」とか、「奥様の立場からは、岡山さんはこうやって思われているんだな」など、旦那の人となりを知っているからこそ、余計に味わい深く読ませてもらえました。笑

 岡山さんいわく、SNSでの発信はまりげさんに任せている部分が多いとのこと。肉体労働の多い漁業の仕事においても、岡山さんの作業風景の写真がとてもカッコ良く感じるのは、「妻のまりげさんの目に映る旦那の姿」と考えると、とても合点がいきました。
 「妻には本当に感謝している」と話す岡山さん(多分、本人には伝えていない気がする…笑)。夫婦でお互いの足りない部分を補いあうような役割分担をしつつ、支えあって仕事を進めていくことの強みを感じました。

 「今はこどもとの時間を大事にしたい」と考え、故郷へ戻ることを決めた岡山さん。これまでの人生で得られたさまざまな技術と経験を最大限に活かして、岡山家の家業を新たなカタチで蘇らせ、家族との大切な時間を生み出すことにも成功しました。
 学生時代に同じ時を過ごした同級生としては、理路整然と話す岡山さんの話にただただ感嘆するとともに、自分も負けてられないなあと、大いに刺激を受けたルームとなりました。

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 今後もクラブハウスでは、さまざまな分野で活躍しているゲストを招いていきたいと思っておりますので、ぜひ皆さん一緒に話しましょう!

クラブハウスの定期ルームは、こちらのアカウントで運営しています


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