創作怪談1;植え込み

吉田さん(仮名)が大学を卒業して東京のとある企業に就職しました。就職の際に引っ越した部屋が会社までは電車で一駅、その最寄り駅までも徒歩で5分程度という立地にあるマンションに住み始めました。そのマンションの周辺には、スーパーもコンビニもあり立地条件が新卒入社の社員としては最高の立地でした。

ただ一つ気になっていることが、最寄り駅までの最短ルートにある公園の植え込みから白い腕が出ている…気がすることです。マンションに引っ越した初日に見たのですが、見た時に「え?何あれ??」とギョッとして声に出しましたが周りの反応は「こいつ何言ってんの?」みたいな変な人を見る目で見ていたので、他の人には見えていないモノなのか?と思いスルーする事にしました。次の日からは気になるものの見えているだけの”白い腕”は、何もしてこないため気にしない事にしてその最短ルートを使ってました。

それから会社にも慣れてきた1ヶ月後、毎日見えていた”白い腕”はずっと見えていたもののそれ以上何もなかったのでスルーしていました。しかし、仕事や生活に慣れてきた事で気持ちにも余裕ができて変な気を起こしてしまい、気になっていた気持ち悪い”白い腕”に近づいてしまいました。会社からの帰宅時によく観察すると、白く細い腕、腕の長さはそこまで長い訳ではないので子供の腕かな?と推測出来ましたが背筋がゾクゾクとするような感じがしてこれ以上近づかないでいようと思ったその時、バッと”白い腕”が伸びてきて手を掴まれました。それは、冷たくヌルッとした感触で触られた瞬間に「なんでこんなことをしたんだ。普段の私ならこんなことしないのに…」と後悔しました。バッと手を引くと今まで見えていなかった腕の持ち主が見えました。異様に顔が青く6歳くらいの女の子でこちらを見ながら、ニヤァとなんとも言えない気味の悪い表情を浮かべてこちらを見ていました。

「うわぁ!!!!!」

と叫び声を上げ、掴まれていた腕を振り解き自宅まで全力で走って帰りました。アレに対して意味があるのか分からないけど、鍵とチェーンをして洗面台で掴まれた感触とあの気持ち悪い顔を忘れようと必死になって洗いました。腕には握られた時の青いアザが残っていました。

洗い終えて一息ついてソファーに座ったところで、部屋のチャイムがなりました。これまでこんな時間の来客がなく誰だろう…と訝しみながらドアスコープを覗いたらついさっき植え込みにいた子供が立っていました。無視しようと決めたらチャイムとドアを叩く音が鳴り響きました。

「ピンポン、ピンポン、ピンポン…」「ドンドンドン…」

なんなんだよ!!と叫びたい気持ちを抑え居ない程を装う…と静かにしていると

「ねえ!居るんでしょ?あなたに着いてきたから分かってるんだよ!!!お姉さん私と遊んでくれるんでしょ?ねえ!!ずっと前から見ていてくれたじゃん!!!早く!!!!開けて!!!」

段々とドアを叩く音とチャイムの音が大きくなっていく錯覚を覚え、恐怖のあまりそのままドアの近くで失神してしまいました。

次の日、目が覚めたのはお昼に差し掛かった頃でした。土曜日だったことが幸いでした。顔は涙とヨダレでベトベトになっており、髪の毛は掻き毟ったようで床に散らばっていました。若干強く掻き毟ったのか血のあとも見られました。鏡を見ると1日でここまで窶れるか?と思うくらいゲッソリとした感じでした。それからサッパリとしたいと思い、お風呂で体と顔を洗いヒリヒリする頭にしかめっ面になりつつ午後はゆっくりとしました。

そこで、ふと昨日の夜にアレだけの音を立ててドアを叩きチャイムを鳴らしたのだから隣に迷惑かかっていないか、と不安に思いました。さっと着替えを済ませてお隣さんを尋ねようと部屋を出ました。ドアを確認すると、6歳くらいの子供が手を叩いたらここだろうな、という高さに叩いた跡と濡れた跡がありチャイムはボタンが壊れていました。昨日のことは夢ではないのか…と思いお隣さんを尋ねました。

「こんにちは。つかぬことをお聞きしますが、昨夜煩くしてしまいませんでしたか?何か音やチャイムがうるさかったりしませんでしたか?」

出てきたのは同い年くらいの若い女性で、

「いえ、何も聞こえませんでしたよ。ここは防音もしっかりしてますからね。それに昨日は、珍しく来客もあったので気にならなかったのかもしれませんね」

え?アレだけの音が聞こえなかったの?と不思議に思いましたが、煩くなかったなら良いか、と思い

「突然すいませんでした。では失礼します…」

とお隣さんの部屋から自室へ帰ろうとした、その時視線を感じてお隣さんの部屋の奥を見たら昨日の夜、部屋の前まで来ていた女の子がこちらを見ながらニヤァとした顔を向けていました。

お隣さんに腕を掴まれ、部屋の中に引きずられそうになりましたが振り解き部屋に逃げ必死に念仏を唱えてその日もやり過ごしましたが、その後は何か仕掛けてくることはありませんでした。

後日、お隣さんにその日のことを尋ねると、覚えていないようで不審がられましたが、例の女の子がその後襲ってくる事がなかったので、それからは平穏な生活が送れました。会社も研修期間が終わり正式に正社員として登用され忙しい日々を過ごしてしました。

あの出来事があった日から1ヶ月位経ったある日、お隣さんに朝出勤前にたまたま鉢合わせました。挨拶をすると、

「吉田さんおはよう。後ろの子もおはよう。親戚の子かな?」


※お読み頂きありがとうございました。勢いで書いて投稿してしまったので、

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