「ユニクロ」的なものと「藤原ヒロシ」的なもの

もう1年前の記事になるが、NIKKEI STYLEの藤原ヒロシインタビューがとても興味深かった。

内容は「BVLGARI×FRGMT」のコラボについてのものだが、とりわけ興味を惹かれたのがユニクロに対する言及。

「ユニクロは最高のライフスタイルブランドですが、ファッションブランドではありません。無駄だといわれても洋服にチェーンをつけるし、この時代におかしいだろうといわれても革を着る。それがファッションなんです。僕はユニクロを1回も買ったことがないし、着たこともありません。興味がない。自分の中ではユニクロはもう一生買わないようにしようと決めたんですね。違う理念を持った、違うものだからです」

ブルガリ以外にもルイ・ヴィトン、タグ・ホイヤー、モンクレールなどのハイブランドから、近年ではポケモン、ビックリマンチョコと節操なくコラボレーションを展開してきた藤原ヒロシにとって、ユニクロも絶好のコラボ先かと思いきやそうではなかったらしい。

「無駄だといわれても洋服にチェーンをつける」「おかしいだろうといわれても革を着る」という発言は、かつて梅宮アンナが「おしゃれはガマン!」と言い切ったのと被る。要は、ムダや不合理を切り捨てずに許容することだ。ファッションやアートの魅力は合理性だけで割り切れない曖昧さにこそ潜んでいるが、それらの曖昧さはユニクロには見られない。

しかし、ユニクロと藤原ヒロシには明確な共通点がある。

ユニクロは2013年に「あらゆる人の暮らしを、より豊かにすることを目指す、普通の服」をコンセプトにした「LifeWear」という造語を生み出している。ここで「ファッション」という語は一切用いられていない。説明にある「普通の服」という表現もどこか恣意的だ。ちなみに、にわかにファッション業界を席巻した「ノームコア」なるフレーズが普及し始めるのは翌2014年の話。

「LifeWear」という「アンチファッション」と思しきコンセプトを打ち出しておきながら、ユニクロは無印良品と異なりハイブランドや流行りものとのコラボに一切の迷いがない。最近でもJWアンダーソン、村上隆×ビリー・アイリッシュとのコラボなど、売れ筋のファッション・アート・音楽と迷わず手を組む決断の強さがある。遺伝子組み換え作物で知られるモンサントがオーガニック食材も手がけていたように、ユニクロも巨大資本を武器にファッションの上流から下流までを一網打尽に飲み込む勢いだ。

一方の藤原ヒロシだが、注目すべきは以下の発言。

「そもそも僕は何億枚も売れる物を作りたくはありません。数を売りたくてやるものはファッションではない。ところが売れる物は作りたいのです。ここにジレンマがあります。また、人と同じ格好はしたくないといいながら、あるグループとは同じ格好をしたいわけです。そうしたファッションのジレンマというものをいつも抱えています」

「数を売りたくてやるものはファッションではないが、売れる物は作りたい」、「人と同じ格好はしたくないが、あるグループとは同じ格好をしたい」、「ファッションのジレンマをいつも抱えています」といった発言は並のプロパーファッション業界人の口からは出てこないだろう。「売れる物を作りたい」と臆面もなく断言できるのは、ファッションを徹底的に俯瞰しているから。他ブランドとのコラボレーションについて「良くも悪くもビジネスライク」と断言できる彼ならではのドライな視点だ。ルイ・ヴィトンからビックリマンチョコまで、こちらも上流から下流まで節操なくコラボの対象にしている。

ユニクロと藤原ヒロシに共通するのは「旧来的なファッション観を信じていない」点といえる。ファッションの幻影に囚われていないが故の大胆な行動力がある。こういった「ユニクロ」的なもの、「藤原ヒロシ」的なものに対して、「プライドがない」だの「金の亡者」だのという批判は以前より繰り返されているが、それは本質を踏まえていないイージーな批判だ。両者とも方法は違えど、ファッションの神通力が通用しなくなった時代を生きのびる戦略に忠実なだけだ。

※参考エントリー


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