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もし、自分が事故物件の当事者になってしまったら、考えるべき5つの重要事項 その⑤

連載最終回として今回は自殺や孤独死といった、一般的に事故物件(厳密に言えば孤独死は事故ではありません)と呼ばれるような出来事が賃貸物件でおきた場合に相続人の方や連帯保証人の方からよく相談される内容「家主側から請求されている金額が妥当なのかどうなのか?」について。

そもそも、何故、賃貸物件で事故が起きた場合に原状回復費や逸失利益などの損害賠償が請求されるのか?といった請求の根幹となる考え方について簡単に書いてみたいと思います。

事故物件の当事者が請求される金額が妥当なのかどうかについて

賃貸物件で自殺や孤独死といった一般的に「事故」と呼ばれる出来事が起きると多くの場合、家主側から相続人や連帯保証人の方へ「原状回復費」や「損害賠償」といった形で金銭的請求がくることになります。

ただ、一般的な賃貸物件の退去に伴う原状回復費なら引越しを良くされるような方ならだいたいの相場がわかるかもしれませんが、事故物件となった場合の原状回復費や損害賠償の金額の相場というのは全く検討もつかないことでしょう。

なんとなく、テレビやネットなどから「高い金額が請求されるんだろうな~」といったイメージを持たれているのではないでしょうか。

賃貸での事故物件の当事者になるなんてことは一生に一度あるかないかといったことですから、専門で取り扱っているような私達のような遺品整理専門の士業でもなければ、なかなか接する機会はありません。

ですので、いざ当事者となった際に思いもよらぬ金額を請求されてびっくりしたという方が多く、慌てて相談にこられるというケースが増加しています。

室内で自殺が起きた場合、なぜ原状回復費や損害賠償が請求されるのか?

賃貸物件での事故において、まず請求されるのが原状回復費となります。原状回復費については、入退去シーズンになればテレビや雑誌で「敷金は必ず取り戻せる!」などの見出しで良く話題になるので、一度でも引越しを経験された事がある方なら想像はつくでしょう。

ただ、賃貸で起きた事故による原状回復では通常の退去で支払うような金額以上の原状回復費が請求されることも珍しくはありません。

では、賃貸物件で起きた事故における「原状回復費」の相場とはいくらなのでしょうか?

これに関してはまず、事故の内容が「自殺」なのか病死や老衰のような「孤独死(自然死)」なのかで、その請求金額には大きな差が発生していきます。

なぜ、同じ「事故物件」という括りにされることが多い自殺と孤独死で請求される金額に大きな差がでるのか?それは故意や過失、善管注意義務違反があるかどうかに関わってきます。

法律的な考え方となりますが、入居者が「自殺」をした場合に家主側が相続人に原状回復費を請求する根拠としては善管注意義務違反(善良なる管理者の注意義務違反)があったことが理由とされます。

賃貸物件における善管注意義務違反を簡単に言うなら、「他人から借りている部屋なのだから丁寧に扱いなさいよ」というものです。(かなりざっくりした感じではありますが、、、)

言い換えるなら、「借り物なのだから自分の物と同じように雑に扱ったり、本来の使用方法と違う使い方をするなよ」ということですね。

ですので、一般的な賃貸物件は当然「住居」として使用することを目的として、貸し出しているわけですから、住居以外の使い方、たとえば、室内で「自殺をする行為」は住居として貸し出している使用目的からは大きく外れる訳です。

ですので、借主が室内で自殺をする行為というのは、貸し出し目的である「住居」としての利用方法とは異なっており、貸し出し目的と違う使用方法をした入居者には「善管注意義務違反」があるということになります。

つまり、使用目的と違う方法で使ったんだから、入居者には責任があるよね。ということです。

責任がある以上はそこに何がしらの請求がされる、賃貸物件で言えば「原状回復費」や「損害賠償」が請求されるということになります。

結果、自殺の場合は「責任がある」だから「賠償する義務がある」という流れです。

孤独死の場合は判断が難しい

賃貸物件で自殺が起きた場合に何故、原状回復費や損害賠償が請求されるのか?というのはおおまかに理解して頂けたのではないでしょうか。

次に「孤独死」についてですが、これはちょっと複雑な問題があり、自殺のケースように責任がある無いとは断定が難しい部分があったりします。

一般的には自殺も孤独死も同じように「事故物件」と扱われる事が多いですが、厳密に言うと「孤独死」は事故物件には該当しないと考えられています。

まず、「孤独死」という定義がそもそもがあいまいで、法律でこのような状況で発見された遺体が「孤独死」であると決まっている訳ではありません。

長年のテレビや雑誌などのメディアにて使われていた言葉がそのまま定着しただけですので法律用語ではありませんし、役場などの公共機関では「孤立死」と呼んでいたりもします。

ですので、そもそも孤独死という定義があいまいで、一般の方はなんとなく、「高齢者」が「ひとり」で「誰にも看取られず」に「さみしく」「亡くなった状況」というのを想像されているのではないでしょうか。

では、例えば「高齢者」が「ひとり」で「誰にも看取られず」に「亡くなった」けど、「その日に発見」というケースはどうでしょうか?これは「孤独死(孤立死)」でしょうか?

違いますよね、これは単なる「病死」または「老衰」等で亡くなっているだけで、孤独死とは違うように感じるはずです。

具体的なケースで言えば、高齢者と同居している家族が日中働きに出ていて、家族が戻ってきたら高齢者が亡くなっていたというようなケースで孤独死とイメージされる方はいないでしょう。

また、同居していなくても、独居の高齢者ではあるけど社交的な方がたまたまおひとりの時に亡くなってしまい、友達が尋ねてきた時に発見されたという状況。これも発見が早ければ孤独死とは感じませんよね。

過去の裁判例でも賃貸物件を住居として使用している以上、そこで人が亡くなることはあたり前のことだとしています。ですので、室内で人が亡くなった=事故物件とは限らないということです。

孤独死と呼ばれる状況で発見されて問題となるのは「遺体が発見されるまでに時間がかかった」という要因が加わった場合です。

遺体の発見までに長時間が経過すれば当然遺体は腐敗し、死臭が充満し、ハエや蛆などの虫が室内に大量に湧くことになり、まさに事故物件と呼ばれるような状況となります。

でも、そうだとするならいつからいつまでが病死などの「自然死」で、どの時点から事故扱いとなる「孤独死」なのでしょうか?

時間でしょうか?死亡から何時間経過してから発見されたら事故物件なのでしょうか?

そもそも誰も看取っていない訳ですから正確な死亡時間はわかりません。あくまで死亡推定日時となるわけではっきりしませんよね。

URなどでは「死後1週間を超えてから発見」された場合は孤独死として定義しているようですが、これもあくまで独自規定であり、全ての賃貸物件で適応されるものではありません。

また、実際の遺品整理の現場を経験していると分かりますが、真夏の酷暑と言われるような時期なら1週間経過せずに発見されても遺体の腐敗が進み、凄惨な状況となっていることも珍しくはありません。

でも、1週間経過していないから、ハエや蛆が湧いて死臭が充満していても事故物件とはなりません。となるのでしょうか?なんか変ですよね。

このように、孤独死を事故物件と取り扱う場合には、どの時点から事故扱いとなる孤独死なのかどうかという線引きに問題が出てきます。

自殺の場合はわざと自傷行為をしているという、入居者側にあきらかな責任があり、判断が容易ですが、孤独死の場合は自殺のように「よし、私は今から孤独死する!」と考えて亡くなる方は少ないでしょうし、多くの場合が突発的な発作や持病の悪化などで亡くなっています。

ですので、亡くなった入居者には故意も過失もなければ、善管注意義務違反もみあたらないということがあります。

当然、責任がないところに賠償請求することはできませんので、一般的に孤独死と呼ばれる状況で発見された場合は自殺では認められる逸失利益などの損害賠償は認められないと考えられています。

※逸失利益・・事故物件における逸失利益で代表的なものは減額した家賃との差額などとなります。

ただ、原状回復については過去に認めた判例もありますので、この点が難しいところではあります。

※ 近年の判例では逸失利益の部分について認めた判決も出ていますので、逸失利益が問題になっている場合は必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

自殺と孤独死で異なる請求範囲

ここまでで、自殺の場合は入居者に責任があるから原状回復費や損害賠償は認められ、孤独死の場合は状況によってはただの自然死と判断される可能性もあり、原状回復費や損害賠償については裁判で争ってみないと白黒つかないということが分かって頂けたと思います。

簡単にまとめると
自殺の場合は入居者に責任があるので、原状回復費や逸失利益などの損害賠償は認められる可能性が高く、孤独死の場合は発見された状況によって判断が分かれるということです。

ですので、極端な話し孤独死の場合は基本自然死な訳で、自殺のように入居者側には責任が無いのだから、孤独死を理由とした請求には一切応じないという主張も別段間違ってはいないということです。

ただ、自然死の場合であっても、それまでの入居期間に入居者の故意・過失で損傷した部分については通常の退去と同じように原状回復費を支払う必要はありますので、その点を一切考慮せずに「自然死なのだから一銭も払わない」という訳にもいきません。

自殺や孤独死の場合に請求される金額の相場

賃貸物件で事故が起きた場合に、ではいくら請求されるのだろうかという法律的な定めはありません。

ですので、貸主、借主双方で揉めてしまうような場合は裁判で決着をつけることになります。

実際の現場では家主側と借主側の遺族などで協議をして、支払い金額を決めていくことになりますが、専門家でもない借主側としては請求される金額が妥当なのかどうかといった判断がまったくできないのが普通です。

ただ、上でも述べているように賃貸物件で事故が起きた場合の原状回復費用や逸失利益といった損害賠償の額はその事件に応じて変わります。

具体的な例などは自殺の場合は「賃貸で自殺が起きた場合の損害賠償等の質問」に詳しく書いてありますのでこちらをご確認ください。

まとめ

全5回の連載企画で「もし、自分が事故物件の当事者になってしまったら、考えるべき5つの重要事項」として解説してきましたがいかがでしたでしょうか。

賃貸物件で起きる自殺や孤独死に関する問題は単身者が増加する中では他人事ではなくなってきています。

事故物件に関するトラブルは何気ない行動が取返しの付かない行動になってしまうこともありますので、もし、事故物件の当事者になってしまった場合は、必ず専門家に相談してから行動をするようにしてくださいね。


 

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