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ビジネスパーソンのための交渉術②

ビジネスエッセイストの松永隆です。

本記事は、拙著『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 日本人の交渉のやり方』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、編集したものです。

交渉は日常に溢れている

一般的には交渉は別組織あるいは個人と契約を締結するために行うものをイメージされがちです。ただ、それだけが交渉というわけではありません。

もう少し広義の視点で考えれば、社内の他部署、上司、部下、同僚との関係でも交渉は存在します。契約締結は前提としてはいないものの、交渉めいたことは日々の仕事の中で展開されているのではないでしょうか?

例えば社内の他部署と、「この業務はおたくの部の担当範囲なのでは?」「いやいやそれはそちらで担当してもらわないと困ります」などのやり取りは日常茶飯事です。

上司と部下では、「A君今週中に本件の事業方針をまとめ、私に報告してくれないか?」「部長、生憎今週はB社に別のレポートを催促されています。それが完了してから事業方針のまとめに取り掛かってもいいでしょうか?」

同僚との間では、「今度来日するお客様とのやり取りは私がやるから、ホテルと車の手配はあなたが担当してくれない?」「いやいや私の方は今週C社の案件で手一杯なのでDさんに頼んでもらえませんか?」等々日々交わされるこのような会話も交渉的な要素を必ず含んでいるとは思いませんか?

またプライベートでは、家を借りる、土地を買って家を建てる、ご近所さんとの利害調整、遺産相続の際の親族間の利害調整なども立派な交渉と言えます。

交渉相手にはいい印象を残すべき

交渉の結果が勝ち負けで判断される場合、交渉妥結後のいい関係は決して長続きしません。交渉過程で交渉相手が自分あるいは自社に対し悪い感情を持ったらどうなるでしょうか?

「今回の交渉ではやられたから、そのうちいつかやり返してやる!」という強い恨みに似た感情が相手に残っているとしたら、仮に当初の事業でなんとか目論んでいた成果を得られたとしても、その後の協力関係が上手くいかなくなってギクシャクし、関係が徐々に形骸化し、最後は崩壊してしまうものです。

確かに、世の中にはそういう勝負事のような交渉によってビジネス関係を構築しては壊し、相手を変えながらそれを繰り返していくようなスタイルのビジネスパーソンもいます。

私も何人かそのようなオーナー経営者を目の当たりにしましたが、時間が経つといつの間にか業界から消えていくことが常でした。

真っ当なビジネスを目指すのであれば、交渉によって構築された関係はあくまでも継続を前提とし、将来的に何度もお互いにリターンを得られるような協力関係を目指すべきなのです。

もちろん交渉の中には将来的な関係断絶を前提に臨まなくてはならないたぐいの交渉もあります。交渉相手が理不尽にこちらに損失をなすりつけようとしてくる場合や相手のビジネス倫理そのものに問題がある場合などです。但し、頻度としては一生に数度起こるぐらいのものではないかと思われます。

このような交渉への対処法もありますが、これは頻度から言って特殊な交渉という位置づけにすべきで、普遍化するたぐいのものではないと思います 。

日本の商人道の哲学

皆さんもご存じの通り、江戸時代には日本では泰平の世が300年もの間続きました。戦争のない安定した社会がそれほど長く続くことは世界ではかなり珍しいことだそうです。それもあって江戸時代にはビジネスが本格的に花開き、商品相場の仕組みなど当時の世界の中でも先進的なビジネス手法が編み出されました。

さらにその時代に活躍した商人たちにより商人道、つまりビジネスにおける経営哲学が形成され、今日の日本の経済社会に大きな影響を与えています。「お客様第一」「損して得取れ」「売り手よし、買い手よし、世間よし」「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ」「浮利を追わず」「現金掛け値なし」などほとんどが江戸時代に確立された知見と言っても過言ではありません。

その中でも特筆すべきは決して利益優先の拝金主義ではなく、社会に貢献する確固たる信念哲学のもと営利活動を行うべきだと当時から説いていたことです。これは日本人としてもっと誇りに思っていいアセットではないでしょうか?

明治以降現在まで日本の経済界が輩出した名だたる経営者たちの考え方のバックボーンには、等しくそのような哲学があると思います。

21世紀に入り、格差の拡大や環境問題の深刻化など米国流の株主資本主義が曲がり角に差し掛かっている感があります。

そのような環境の変化において、近頃の欧米の先進的と言われる経営学書ので推奨されている考え方の多くは、実は日本の江戸時代に商人道として説かれていたものばかりではないかと思えてなりません。

これから詳しく取り上げていく交渉ノウハウのバックボーンとしても、このような日本の伝統的なビジネス価値観があることを最初に申し上げておきたいと思います。


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