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デパートの行く先

1年に一度くらい、デパートの最上階にある老舗フルーツパーラーに行きたくなることがある。

桃が美味しい季節だったり、シャインマスカットの出回る時期だったりと、タイミングは気分によって異なるのだけれど、季節のフルーツがたんまり載ったホットケーキや、色鮮やかなパフェを堪能してくる。

そうして訪れた時、出会うと嬉しくなる風景がある。
それは、お買い物の途中なのだろう老婦人がひとり、美味しそうにクリームソーダを飲む風景。
白いテーブルに、涼しげなグリーンと真っ赤なさくらんぼが映える。

いいなぁ、可愛いなぁと、ほっこり。
同じ人ではないと思うが、たまに出会える、密かにお気に入りの風景。

デパートを行脚してみると

フルーツパーラーからの帰りは、エスカレーターで1階ずつ降りていき、"自主的シャワー効果"をやってみる。

レストランフロアの下には、大型電気店、本屋、メジャーどころの物販ショップなどがフロアを占める。少し前はCDショップがあったよなぁ。
もう少し降りると、服飾系が続くが、このあたりには人の姿は少なく見える。
郊外の街のデパートにはハイブランドは少なく、その下階は、靴や傘、帽子、アクセサリーなどの服装品が並び、コスメフロアと続いていく。オーソドックスな構成だ。

もうひとつ降りると、デパ地下ワールド。
このフロアだけ人がワンサカいて、そこまで来ると私も、ちょっと何か買って帰ろうかなとキョロキョロしだして、定番のちょっといいお菓子か、いい香りのパンを購入し、束の間のデパート行脚はおしまいになる。

デパートで買い物をしなくなったのは、いつ頃からだろう。
洋服も、靴も、コスメも、プレゼントも、ちょっとした贅沢品も、以前はデパートで買うのが当たり前だったものをほとんどオンラインストアで買うようになって、しばらくが経つ。

たぶん、もともと接客されるのがあまり得意ではなくて(買わなくちゃプレッシャーに負けそうで、やや緊張する)、自分の体型も肌色もある程度わかっているし、合わなくて返品しても、直接悲しい顔を見なくて済む。
レコメンドは、関係者でなくてユーザー発信の方をアテにしていたりもする。
そうしているうちに、テナントの暖簾をくぐるのがどんどんと億劫になってしまい、そんなこんなで、ネットショッピングの気楽さに、快適さを感じている今日この頃。

コロナ以降、ディスプレイされている商品を気軽に手に取ることを、なんとなく避けるようになったのかもしれない。疫学うんぬんの正しさとは関係なく、なんとなく自分が張った無意識なバリア。身に着けるものは特に。

そんな消費者行動は、たぶん珍しいことではないだろう。
それがデパートの各階の人の密度に、投影されている。

デパートにはどうなってほしいか、を考えてみる

実店舗は、ショールーミングの場所になったと言われて久しい。
モノ消費からコト消費、トキ消費へ。だから、体験を売ることが求められている、とも言われる。

デパートやショッピングセンターなど、街にそびえる大型店舗の中は、入れ替わりが激しかったり、大きめな街ではどこでも出会うメガストアが1フロアを占めたり。
オンライン全盛のいま、しょうがないのかもしれないけれど、ここじゃなきゃ!と思う場所がどんどん少なくなっているように思う。

でも、せっかくお出かけするなら、ここじゃなきゃ!にはこだわりたい。
(ワガママな消費者がここにいますw)
なによりデパートには諦めないで、無二のモノ消費にこだわってほしい。

いまのようにブランドごとに軒を連ねるのではなくて、もっと、いい商品をプレゼンテーションしたい人たちのための場所になっていくのはどうだろう。

イメージで言うと、たとえば雑誌の実物版のような。
いろんなブランドのいろんな商品を、季節に合わせて組み合わせて、ディスプレイ&レコメンドする場所。
お気に入りのファッション誌があるように、好みのテイストが揃ったディスプレイ空間には行きたくなる。

自ら検索せずとも、一貫した雰囲気の中で、気になるものに何気なく出会うことができるのが、雑誌のいいところで、それはかつてのデパートで体験していたことにも近いのかもしれない。

そこでプレゼンする側は、作り手やオーナーではなく、ユーザー側、もしくはその中間的な立場とするほうが面白い。レコメ文化は不可逆だし、いまニーズなのは、作り手の思いと、使い手のお気に入り度の両方が伝わること。
そこでは物販収益というよりスペース貸しと広告料をベースにした展開にして、作り手側はやはりオンラインで収益を得ていくのがいいのだろう。実際に買われるのはオンラインだろうから。

これと合わせて、ポップアップ性も大事だと思う。
時限的であるからこそ、その"時"にギュッと思いが凝縮され、丁寧でワクワクする体験が施される。
作り手と直接交流できることも多くある。カジュアルな個展みたいに。
その時にそこでなくちゃできない生身の体験は、人を惹きつけるし、それはポップアップ的なほうが、いま!感が演出されて、より魅力的なもののように思う。

そんな妄想をしつつ、でも現実的には、駅前の大型店舗は、もはや地上3階地下1階くらいのボリュームがちょうどよいんだろうな、と。
もう、床が多すぎるのは明らかだ。
新宿の小田急百貨店が建替えに伴ってサイズダウンしたように、これから小サイズ化の流れは加速するんだろう。


でもでも。
私にとっては、フルーツパーラーのクリームソーダの風景は、デパートならではのもの。
デパートの行く先を憂いながらも、この風景に出会うチャンスだけはなくならないでほしいと願ってしまう。
諦めるには、やっぱり惜しい。。。

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