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そして誰もいなくなった

記憶の中の人達が時空を越えて語りかけてくる。

僕は今でも彼等とうまくやれてるみたいだ。

もう二度と遇うこともないだろうに・・今も尚、何故?

たいして親交があったわけでもない。

どちらかといえば苦手なタイプだったかもしれない。

どいつもこいつも懐古の中では気のいい友達に変わってる。

記憶の挿げ替えなんてよくあることか。

そうだ、きっと嫌な奴なんて全部僕の思い過ごしだ。

みんないい奴だった。

そうゆう事にしといてあげる。

何故なら彼等は一人残らず死んだのだから。

もうこの世に存在しないのだから。

死人はみんな良い人になるのはこの国の文化なのだから。

死んだ事にする。

僕は出会った全ての人を殺すことにする。

だってもう遇う事もないのだから、そのように片付けるのは僕の自由だ。

死んだ事にしてしまえば全てもうどうでもよくなる。

怨みつらみも消えるというもの。

死んだ奴に復讐なんて出来ないし、まさか墓石を蹴ろうとは思わない。

死んだ人に告白なんて出来ないし、位牌を持ち歩こうとは思わない。

絶対に手の届かない場所にあるものは諦められるというもの。

僕は彼等を諦める。記憶の中に葬るよ。

でも彼等の中じゃとっくに僕の方が死んでる事になってるだろうな。

うん、でもそれでいい。

僕は前から消えたかった。

死にたいんじゃない、消えたかった。

だからみんなの記憶から恥ずかしい僕という存在を消していただければ、安心して生きていける。

安心していつでも死ねる。

素晴らしい世界だ。

永遠などない数十年の命たちの群れの中で暮らす多様な営み。

弱肉強食はご愛嬌。錯覚しがちな終わりなき日常の終焉。

僕は独りこんな世界に放り込まれて、分けも解らず過ごしてる。

儚いとか虚しいとか言いながら肉を食べて生きています。

湧き上がる感情がただただ不思議だ。

宝物は思い出だなんて言えちゃう自分に照れながら、ドロドロした気持ちを呑み込んで、綺麗なうたを書いてみる。

ホントの自分は何処にいる?

僕はずっと絶対に見付かるはずもない僕を探している。

自分の影をいつまでも追いかけている、そんな人生。


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