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3.「知っていることを話してくれ」

 ヴィドが食料調達から帰ってくると(ヴィドはこの大食漢集団を食わせるために周囲の街をあたって食料を集めていたのである)、可愛そうにクレイは再び質問攻めに会うことになった。もちろん今度はヴィドからである。
 といってもまあ、さっきレムス達に説明した以上の情報がでてくるわけもない。

「まあ、まずはまだ合流していない他の方々を捜すしかありませんね。特に烈さんを … 」
「そうだな。」

 ヴィドは烈のことに関しては他の連中よりも好意的に見ているらしかった。恐らくこのパーティーにやってきた時期が近いというのが一番の理由だろうが、現実派のヴィドにとって、唯一 … 比較的納得できる意見をいうのが烈だった、というのもあるだろう。

「とにかく、難民キャンプをあたってみるのが一番だと思いますよ。明日からさっそくみんなで探しましょう。」
「そうですね、判りました。」

 というわけで、一行は情報収拾も兼ねて仲間探しを始めることにしたのである。

*    *    *

 難民キャンプというのは、ギルファーの軍勢が帝都にやってきたときにいち早く逃げ出した連中が集まっているキャンプだった。ギルファーの軍勢が消滅した後になっても … どういうわけかキャンプは続いているのである。

「どういうことなんだ、レムス?帝都は、もう敵はいないと思うが … 」
「うん、そうなんだけど … 」

 レムスは手短に理由を説明した。帝都には確かに蛮族軍はいないのだが、その後もどういうわけか城門は開かれていないのである。城壁のところには奇妙な … ゴーレムとしか言い難い警備兵が立っていて、市民が城壁に近づくことを禁止している。
 もっとも市民側としてみても、もうしばらくの間は気味が悪くて近寄れないらしく(突然十万人以上の人が消滅したというのだから、気味が悪くて当たり前だろうが … )、結果として相変わらずキャンプはにぎやかな状態なのである。

「 … そうか、それなら他の仲間もキャンプにいる可能性が高いな」

 クレイは静かにうなずいた。まだ身体が痛むらしく、わずかな動作も弱々しいのだが、それでも気力で仲間を捜し出すつもりらしかった。
 と、そんな彼らを見て、誰かが声をかけた。

「あらっ!クレイじゃないの!何よ、そのぼろぼろな様子!」
「リキュア!」
「リキュアさん!クーガー!」

 キャンプに来てさっそくだが、リキュアとクーガー親子が見つかったのである。クレイは安心したようにほほ笑むとリキュアの手をとった。この様子なら他の連中も意外と早く見つかるかもしれない … そんな予感が彼らの胸に希望となって光り始めていた。

*    *    *

 案の定 … クレイ達の回りにはどんどん仲間が戻ってきた。とにかくこの「キャンプ」以外には行くところもないし、体格の一際目立つクレイとジークがいるのである。向こうのほうから見つけてくれるというものだろう。
 リキュアとクーガーの親子、タルト、ナギ … 主だった連中はあっというまに彼らを見つけて集まってきた。ちょろいものである。ここまで簡単に再結集がうまく行くとはクレイも考えてはいなかった。ただ一つ … 烈をのぞいては …
 一番肝心の烈がいっこうに見つからないことで、クレイはますます不安と困惑の色を隠せなくなってきた。事情を(一応)知っているレムスやヴィドも一体どうなったのか心配なのだろう。落ち着き無く周囲を見回し、あのオリエンタルスマイルの忍者がどこからかひょっこり表れるのではないかと … それこそ祈るような表情で待ち続けていた。

 夕闇が迫る頃になって、ヴィドはついにあきらめたようにいった。

「駄目ですね。クレイ様。」
「 … 」
「ここまで待ってまだ姿をみせないって事は、このキャンプにいないか、それとも理由があってまだ姿を見せたくないか、ですよ。もうさっそく何か調査を始めている可能性もありますしね。」

 ヴィドはそういってクレイに決断を促す。確かにこのままこんな寒風吹きさらすキャンプでたむろしていても、何の変化もなさそうだった。それよりは一旦戻って暖をとり、今後の計画などを相談したほうがいい … というのがヴィドの意見なのである。

「 … そうだな …そうかもしれない。」

 クレイはわずかに悲しそうな目をしてうなずいた。いつまでもこんな夕闇の中でヴィド達を立たせておくわけにはいかないというのも事実だった。それに、ヴィドのいっていることにも一理ある。烈がクレイ達よりも一歩先に何か行動を起こして、だからまだ彼らの元に戻ってきていない可能性も否定できないのである。そうだとすれば、いや … そうであってほしいと … クレイは祈った。

*    *    *

 とりあえず全員 … 烈はのぞいて、だが … 集まったクレイ達は、とりあえず現状の分析と今後の方針を相談することにした。といっても … 例のごとく全くまとまりの無い雑然とした会話になってしまうのだが …

「何か判ったこと、知っていることを話してくれ。」
「そう言われてもねぇ … 」

 大体いきなり「知っていることを話せ」といわれてもまともに答えが返せるわけはない。こういうところがクレイの乱暴なところなのだが、もちろんリキュアは気にしているわけではない。クレイのことはよくわかっている彼女である。

「だから、あの天空城のこととか、帝都を守っている奇妙な兵士達のこととか、だよ。」

 このままではいつもの要領を得ない打ち合わせになることを察したレムスが、もう少し具体的なテーマを設定する。

「そうねぇ … ゴーレムみたいだけど、危なそうだから近づいていないのよ。」

 用心深い彼女らしい答えである。まあ、あの程度のゴーレムなら一応神将である彼女なら、何とでもなるのだろうが、それでも遠巻きにして観察するほうにしたのである。

「しゃべるの?あのゴーレム … 」
「しゃべるわよ。一応私も話しているのを聞いたわ。『ここから先は立入禁止だ』ってね。」

 テープレコーダーみたいなもので、ただ単に繰り返しているだけなのかも知れないが、とにかく話すという現象は確認したらしい。ある程度はきちんとした設計なのだろう。

「ゴーレムか。兵士が足りないとでもいうのか?奇妙だな。」
「?どういうことなんです?ジークさん。」
「皇帝ともあろうものが、ゴーレムなどに警備をさせなきゃならないというのが気になる。人間の兵士が足りないというんだろう … 相当あの戦争でやられたな。」
「どうでしょうねぇ … 逆に見せびらかしているのかも知れませんよ。人間の兵士じゃありふれていますからね。」

 まあ、これはなかなか難しい問題で、どちらの説もありそうである。ただ、一つだけ間違いなさそうなことは、あのギルファーの軍勢に帝国軍は容易なことでは回復できそうにない程の痛手を受けたらしいということだった。
 深夜まで相談した彼らだったが、まあ(ご想像の通り)これ以上はたいしたことは判ってはいないということは判明した。本格的調査、つまり閉鎖された帝都の中にでも乗り込まないと、これ以上ははっきりした事は(少なくとも彼らでは)判らないということなのである。
 ところがここでリキュアは妙案を出した。

「どうかしら、他のグループも私達以上の情報を持っていないのかしら?」
「他のグループ?」
「そうよ、聖母教会とか、帝国魔道士会とか … 連中ならこんな異常な事態なら興味を持ってみているはずだわ。明日行ってみない?」

 クレイは「聖母教会」という言葉を聞いて露骨に嫌な顔をしたが、それでも彼女の意見については同意せざるを得なかった。彼らが手に入れがたい(得に魔法的なことに関する)情報は、聖母教会などのほうが詳しいに違いない。
 というわけで、クレイ一人格別に緊張した面持ちになって、今夜は散会ということになったのである。

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