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人民元国際化の限界

2023年に中国の二国間取引における人民元決済の比率が49%となりドルを超えたという報道があった。経常収支取引に限ると人民元の比率は2022年に20%に到達していた。また、2023年1月から9月までの人民元決済は38.9兆元にのぼり、前年比24.4%の増加となった。こうした上昇の要因としてロシアとの人民元決済が挙げられる。

資源取引における人民元決済

石油等の資源取引をドルから人民元建てへ変更する報道を目にするようになった。2022年12月にサウジアラビアを訪問した習近平は石油、天然ガスの取引における決済に人民元を使用したい意向を表明した。

2018年にはすでに人民元建て原油先物が登場している。原油先物といえば、ニューヨークのWTI原油価格、ロンドンの北海ブレント原油価格が価格の指標として大きな影響力を持つ。中国は世界一の原油輸入国として人民元建ての価格指数を創設した。仮に、中東が輸出する原油の人民元決済が本格化すれば指標としての存在感は跳ね上がる。

他の資源輸入においても人民元建てとする報道を耳にする。2023年には液化天然ガス(LNG)も人民元で決済されている。フランス・エネルギー大手のトタルエナジーズがアラブ首長国連邦のLNGを中国海洋石油集団へ売却した取引である。

石油の消費と輸入

中国による資源輸入は人民元の国際化へどうつながるのか。その前に石油について確かめよう。中国は石油の消費において米国に続き2位であり、2022年には1日当り1,437万バレルを消費した。なお、バレルはどのくらいの量かというと原油の場合は約159リットルである。石油消費量はここ10年は平均すると毎年14%ほど増加した。

中国による原油輸入の相手国はサウジアラビアが筆頭である。かつてサウジアラビアとの貿易関係といえば米国がもっとも緊密な関係だった。現在ではサウジアラビアの輸出入は中国が20%ほどを占めるまでになった。

国際化への2つのルート

中国が輸入する資源を人民元で支払うだけでは決済通貨としての利用は広がっていかない。ネットワーク外部性が小さいためである。この概念は利用者が増えれば増えるほど利用者が受け取る便益が大きくなる現象を指す。通信キャリアの選択を連想すればよい。

A国が受け取った人民元を使用するには中国からの輸入がなくてはいけないが、必ずしもそうなるとは限らない。もしB国が中国へ人民元を支払う必要があるなら、B国からA国への輸出を人民元決済にする可能性が出てくる。

筆者作成

中国以外の他の国々において人民元で決済されればネットワーク外部性が増大して人民元の国際化は進展する。パキスタンはロシア産原油10万トンの輸入を人民元で決済したと報じられた。背景にはロシアに対する経済制裁、パキスタンのドル準備の不足という特殊事情はあるが、第三国間での人民元決済がすでに行われている。

第2のルートは決済通貨から資産通貨への波及である。中国の資源輸入によって人民元を受け取った輸出国は人民元をどうするか。決済に使わないのであれば投資先が必要となる。現在ではオフショア人民元の預け先はオフショア市場だけでなく中国本土の株式、債券へも投資できる。形式上はこのルートの国際化は可能である。

このように投資するルートはあるのだが、人民元建てで金融資産を保有したいかどうかの基準の1つは資産の安全性である。一党独裁による意思決定の不透明性がある国の資産を安心して保有できるだろうか。また、不動産部門が牽引する成長モデルが破綻した国へ投資したいだろうか。

サウジアラビアが中国へ人民元建てで原油を輸出し、受け取った人民元によって上海金取引所で金を購入したという噂がある。もし事実だとするなら、まさにここに人民元国際化の限界が現れている。

参考文献

竹原美佳、「中国CNOOC、TotalEnergiesとLNG取引で初の人民元建てクロスボーダー決済」、石油・天然ガス資源情報、2023年4月12日
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009697.html
みんかぶ、「サウジが元建てで原油を販売との噂、人民元は金に」、2023年4月26日
https://fx.minkabu.jp/news/260226
ロイター、「パキスタン、ロシア産原油の輸入開始 決済は人民元建て」、2023年6月13日
https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2XY17T/

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