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【ショートショート】2.セシーリアとクラウス

10年の時が経ち、太陽が少しずつ昇る朝、
丘が見える岩山から遠くの町を眺める、
一筋の影が伸びていた。

セシーリア「モーディ…ゴー!」

セシーリアの掛け声と同時に岩山を
飛び出して行ったのは一匹の犬。
岩山の崖を駆け下り、何かを狙い走る。

セシーリアは犬の気配を見落とさないように
顔を空に向ける。
すると上空を旋回しながら飛ぶ鷲の姿が見えた。

犬が狙っていたのは一匹のウサギ。
犬はウサギを目の前にすると
大きく口を開き嚙みついた。
セシーリアはその姿を確認すると
同じルートで駆け下りていく。
上空の鷲もセシーリアを
追うように飛んで行った。

犬はウサギをしっかりと口で噛みついたため、
ウサギは次第に力尽きてしまった。
セシーリアが丁度、
犬と合流した直後の事だった。

セシーリア「ごめんなさい。こうして私たちが
生きていくためには仕方のない事なの…
神よ、我らの罪を許したまえ。」

犬はぐったりするウサギをセシーリアに渡した。
ウサギはこの後、食料として命を頂く事になるだろう。
しかし人もまた、誰かのために力を尽くし、
次の世へ紡いでいく事を知っているセシーリアの姿は、
首、腕、額、胸には
金属製の装飾されたリングを身に着け、
腰からは羊の毛皮を巻き、
足には皮の長いブーツを履き
頭から熊の毛皮をかぶっていた。

空を飛んでいた鷲がセシーリアの元へ駆け寄ると
セシーリアは犬と鷲を抱き締めた。

セシーリア「ありがとう。いつも一緒にいてくれて…
あなたたちのおかげよ。」

犬はモーディ、鷲はスタリィという名前で
セシーリアが小さい頃から
ずっと一緒にいる家族だ。

クラウス「セシーリア!」

遠くから声がしたので顔を上げると
男らしい体格の若者がセシーリアに
近づいてきた。

セシーリア「クラウス!おはよう。
今日は港の手伝いしなくていいの?」

クラウス「ああ、久しぶりの休みだから
会いたかったんだ。」

セシーリア「私に時間を割くなんて、
クラウスらしくない!それなら、
港の手伝いをした方がいいわ。私だったら、
少しでもお金になる事をしたいもの。」

クラウス「そりゃ、ヴァイキングとして
生きていくためには、港の手伝いをした方が
お金になるけどさ。町に来る事が出来ない
セシーリアの事も心配だから…。」

セシーリアは山奥に住む
狂戦士(ベルセルク)マグヌスの一人娘として
生まれたため、
町へ行けば『災いを呼ぶ子』と罵られ
町を追い出され、町に住む事が出来なかった。

クラウスは昔と変わらず、
町に住むヴァイキングで
海へ出ない日は港に来た船の荷物を運ぶ
仕事の手伝いをしていた。

そのため、時間があると幼馴染である
セシーリアのいる山へ、よく遊びに来ていた。

クラウス「やあ、モーディ、スタリィも
相変わらず可愛いな。」

とモーディの頭をくしゃくしゃとなでると、
モーディも嬉しそうにクラウスの顔を舐めた。

クラウス「あ、そうだ。今夜、親父がマグヌスさんに
話があるって言うから。後で山に来るんだ。
だから、帰りは親父と帰ろうと思って。」
セシーリア「そうだったのね。何の用事かしら?
何も無ければいいけど…。」

クラウス「あったとしたら、
親父とマグヌスさんが酔っ払って
部屋の物を壊すくらいじゃないか?」

セシーリア「それもそうだね。現実に起こる事と
言ったら、それしか思い浮かばないわ…。」

2人は笑いながら支度をして
セシーリアの住む山へ帰っていった。


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