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長く美しい旅の終わり

セレッソの2020シーズンはリーグ優勝という目標にこそ手が届かなかったものの、この過程は素晴らしく美しい道のりだった。開幕戦での勝利、大阪ダービー連勝、6連勝を経て2位をひた走り、一時は首位川崎Fの背後まで迫ることができた。あの時、背後から迫り来るセレッソを軽視していたフロンターレサポーターはいなかっただろう。
しかしあり得ないような誤審が立て続けに発生し、ロティーナの退任報道が出て急ブレーキがかかり、セレッソは最終的には4位フィニッシュとなった。
たしかにリーグ優勝、カップ戦優勝という目標は叶わなかったが、この2年間はロティーナの下でポジショナルプレー/ゾーンディフェンスという、Jでも類稀かつ先鋭的なスタイルで戦い続け、歴代トップクラスの勝点を稼ぐことができた。これは2シーズンを通して常にハイレベルな試合ができていたことの証左に他ならない。リーグ戦は1年を通じてH&A形式で開催されるので、チームが強くあるためにはシーズンを通して安定的に戦える監督の手腕は欠くことのできない重要なピースである。
これだけ素晴らしいロティーナが施してくれたベース戦術/概念をセレッソの礎にすることで、「セレッソのスタイル」がユース/ジュニアユース世代にまで拡大し、チームが先々まで繁栄する。そんな未来をこれっぽっちも夢見ていなかったのが今のセレッソの首脳陣らしい。
内部事情は分からないが、見ている未来がこんなにも違うということに失望の2文字しか浮かばない。
https://www.daily.co.jp/soccer/2020/12/20/0013953148.shtml

ロティーナが教えてくれたこと①(ポジショナルプレーと起承転結)

そもそもロティーナの就任前、セレッソは大混乱に陥っていた。当時を振り返ると主力組(山口、杉本、山村)の移籍、2シーズン続けてトップハーフ(9位以上)+2冠達成の尹監督解任というカオスな状態で2018シーズンを締めくくっていた。
しかしこの難しい状況で後任となったロティーナ/イヴァンは攻守において立ち位置を重視する「ポジショナルプレー」という概念を導入し、2季連続でACL進出争いを繰り広げた。(しかも勝率の高いキンチョウスタジアムなしにも関わらず、である)ロティーナが率いた2019-2020の2季連続でACL争いを演じていたのはセレッソの他に、川崎F、鹿島、FC東京くらいだろう。

外から見ていてもロティーナ/イヴァンのポジショナルプレーが詳しく分かるはずもないし、そもそも何をもって「ポジショナルプレー」と定義するのだろうか?この言葉は"流行語"として先行している気がしており、各々の考えるポジショナルプレーが同じものであるかどうか不明である。
ただ、どうも大事なのは「攻守において立ち位置を守ること」らしい。攻撃では常に「相手が迷う立ち位置」を取り、守備では「ボールの位置⇒相手の位置⇒味方の位置の優先順位で自らの立ち位置」が決まり、攻撃と守備は不可分だった。つまり、良い守備から良い攻撃が生まれ、良い攻撃は良い守備になるのである。
その中で個別事象を切り取って説明するパーツとして「L字配置」、「リサイクル」、「5レーン」、「サリーダ・ラボルピアーナ」、「アイソレーション」、「可変式」等の用語が現れるのだが、これらは既知のサッカー用語とは一線を画すものだった。
仕掛けるサッカーが変わったことで試合の見方も大きく変わった。まず、ハイライトで試合を語ることが難しくなり、ただの1試合が90分間のドラマに変わった
試合までに対戦相手を詳細に分析して対策を練っておき、落とし込まれた方法で試合を始める。その中で合致する部分は推し進め、合致しなかった部分に修正を加える。そして次に対戦相手がウチに対応するために策を施せば、またその策を上回る手を繰り出す。こうすることで90分の試合に"起承転結"が生まれるようになった
ロティーナ/イヴァンは事前の落とし込みと相手の修正案への対抗策、予想外のパターンへの手札を複数持っていたので、これまでのように「自分たちのサッカー」、「気持ちと気合いのサッカー」というフワフワした形で90分間を過ごすことはなくなり、「ハイライトでええわ」という試合は極端に減った。

ロティーナが教えてくれたこと②(サッカーにおける必然性とリスペクト)

ロティーナの象徴的なシーンと言えば"ゴールシーンで険しい顔をしている"である。「リスペクト」という言葉を好んで使った好々爺は常に相手を見て言葉を選んでおり、達観していた。
その中でも試合後のQ&Aで「90分間を振り返ってください」と聞かれ、「こちらが勝つチャンスも相手が勝つチャンスもあった試合だった。その中で相手がチャンスを決め、こちらは決められなかった(orお互い決められなかった)」という趣旨のコメントが記憶に強く残っている。
最初このコメントを聞いた時、「いやそんな曖昧で当たり前のこと聞いてねぇんだよ。そういう試合で勝ってくれよ。何がダメだったんだよ」と思い、正直言って釈然としなかった。
だがサッカーにおいて勝たなくて良い試合なんてどこにもないし、それは対戦相手も同じである。負けず嫌いのロティーナも当然、どんな試合においても引き分けや負けで良かったと思っていなかったはずだ。一方で必ず勝点が発生する以上、そうならないことも十分知っていた。
その後、繰り返しこのコメントを聞くことで、「あぁ、なるほど。サッカーの結果は結局フィニッシャーに委ねられているんだな。つまりどこまで良いサッカーをしても、勝つ時もあれば負ける時もあるんだな」と割り切りながら試合を見ることができるようになった。こうすることで試合に負けても"ただただムカつく1週間"を過ごすのではなく、「なぜ負けたのか?」、「どこで試合に分岐点が生まれたのか?」と考える楽しみが生まれた。
とは言えサポーターであることには変わりない。感情的にサッカーを見る土日はとても楽しい。そのため、感情的にその場の瞬間を楽しむリアルタイム観戦と論理的に見返す翌日以降の観戦という稀有なスタイルに変わって行ったのである。
見返しては時々このブログにレビューを書いてきたが、言語化することの重要性も実感した。よくわからないながら、自分で筆を進めれば進めるほど頭の中は整理され、他人とのサッカー談義が感情的ではなく論理的に進むようになった。これまで感情でしか捉えていなかったサッカー観戦に論理性が持ち込まれたことは、ロジック好きにとって目から鱗だった。(理屈が通らないことを進んでできないタイプの人間です)

他にもロティーナのサッカーを知ろうとする過程で様々なサッカーのアイディア、概念に触れることができた。
また、ロティーナが相手をリスペクトする姿勢は何もサッカーに限定された話ではない。舞洲で写真を撮る時は目線を同じに揃え、サポーターにもリスペクトをもって接してくれていた。それを見て気づいたのは、このリスペクトの姿勢は仕事にも通じるところが多々あるし、その姿勢で仕事に取り組む方が遥かに仕事の質が上がるということである。自らの行動は自らの意識だけで中々変えられるものではないが、人との出会いで変えてみようと思うきっかけになり得る。僕にとってそれがロティーナだった。

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