ボツプロット「狂い果実のポーエット」④

【19】
いったい自分はどうしたらいいのだろう?考えを巡らせて、そうだ、もし
かしたら研究所に行けば解決策が……と京野は思う。
果実を盗んだという罪悪感から今まで行けなかったが、京野はようやく研
究所へ向かった。

【20】研究所
「そちらから来てくれるとはね」と研究所の所長は言った。
「隕石の中にね、種があったんだ。どこかの惑星の種。それがこの場所で
発芽した」
研究所の服を着せられた京野は研究室のベッドに寝かされて、研究員の話
を聞く。体のあちこちにつけられたコードが邪魔だ。
「何故こんな果実が出来たのか?憶測でしかないが、きっと何度も果実を
食べてもらうためだろう。そして生息域を増やす。麻薬と同じ効果がある
のかもしれない。現に君は依存して、何度もここから果実を盗んだ」
「俺が盗んでるの知ってたんですか?」
その問いかけに研究員は答えず、立ち上がって、壁にかけられたカーテン
をスライドさせる。すると、向こうの部屋がガラス越しに見えて、どうや
らその部屋は解剖室になっているようだった。
「猿の実験、解剖には飽きてきていたところなんだよ。体の構造、遺伝子、
DNAがね、大きく変わるんだ……見せてくれないか?君の中身を。そのた
めに今まで泳がせていたんだ」
「え…?ちょっとまってや、そんなつもりでここ来たんやない…」
「治療法なんて考えても面白くないんだよ。それよりも、果実の謎を解明
するほうが好奇心をそそられる」
それを聞いて危機感を覚えた京野は立ち上がり部屋を出る。京野の身体に
絡まったコードがぶらんぶらんと揺れていた。
「どこへ行く!!」
研究所を飛び出した京野を研究員が追う。

【21】
追っ手を振り切り繁華街まで逃げてきた京野。通行人にぶつかり、京野は
人に見られてしまう。そこでパニックとなる。明らかに人間ではない。着
ぐるみにも見えない。「警察を呼べ!!」だとか声が聞こえる。スマホで
写真を撮る輩もいる。「化け物だ!」などと叫ぶ人たちの中には、以前助
けた子供や老人もいた。

【22】
孤独に押しつぶされそうになり、京野はその場から逃げる。どこへ行こう?
どこへ行けばいい?自分はどこへ行ける?無意識のうちにたどり着いた場
所は、かつて設楽と出会った場所であった。
ここに来て、自分はどうしたかったのだろうか?
設楽が首吊り自殺をしようとしていた光景が脳裏に浮かぶ。死んだら楽に
なるのだろうか?あのときは詩だけが救いだった。
でも今は、死が救いとなるのかもしれない……
その絶望的結論に行き着いた京野は、絡まっていたコードで首吊り用の輪
っかを作った。そして、屋根に括り付けてぶら下げる。そんな時、後ろか
ら声が聞こえた。
「街が騒がしかったからさ、もしやと思って……」
振り返るとそこには設楽がいた。ギターケースを背負っている。
「ここにおらんかったらどうしようかと思ったわ」
京野は設楽が来てくれた事に少し嬉しさを感じた。しかし、それとは裏腹
な言葉を発する。
「何しに来てん。俺を笑いに来たんか?」
「俺がいつ、純を笑ってん」
「……彼女がいるくせに、嘘ついてたやろ」
「あー、あれか」
と設楽はギターケースを下ろして中からギターを取り出す。
「あの子、音楽してるみたいやったから、音楽教えてもらってたねん。別
に付き合ってたわけちゃうよ」
「何のために?」
「お前の詩を、唄にするためやんか」
驚いた京野は、コードから手を離す。そして、設楽は咳払いを一つして、
音楽を奏で始めた。
かつて京野が設楽に与えたモノを、設楽が返してくれたのである。
京野はその優しさに涙を流すのであった。

【23】
「俺、今まで何でもかんでも知った気になってて、将来の夢とか、目標と
か、一切無かってん。でもな、ようやくやりたい事見つかったわ」と設楽
はベンチに腰掛けて京野に語る。
「音楽やってみたい」
複雑な心境で設楽の方を見て、「あの子とか?」と問う。「やっぱりお前
は……」
「なんでそうなんねん。違う、純とや。純の書いた詩を俺が曲にして唄う。
いや、純がボーカルで、俺が演奏か?どや?一緒にやらへんか?フォーク
デュオってやつ?コブクロみたいな」
「でも俺、こんなんやし……無理に決まっとる」
それを聞いた設楽はポケットから狂い果実を取り出して、
「盗んできた。何でか知らんけど、誰もおらんだわ」
と言った。
「俺を捜しとるんやろ……」と京野は果実を見る。「でも何でそれを?」
その問いかけに、設楽は行動で答えた。
なんと、果実を一口カジったのである。
「バカ!!何やっとんねん!!」
「驚異的な知能も手に入るんやろ?せやったら、その知能を使って治療方
法を俺が見つけたるわ。純は詩を書き続けろや、俺がいつか治したる。ほ
んで、人間に戻れたら、そこからがスタートや」
その時、丘の入り口から声が聞こえる。
「そうはさせんよ」
二人がそちらを見ると、研究所所長と数人の研究員が居た。
どうしてここが?と思っていると、設楽が京野の服をめくり、GPSを見
つける。
「貴重な実験、解剖道具なんだ、そう簡単に治させてたまるものか。くく
……しかしラッキーだな、実験道具が二つになった」
所長は目で合図して、研究員をけしかける。捕まるわけにはいかない。だ
が、捕まる事はなかった。それは一瞬の出来事であった。設楽が研究員を
簡単に伸したのである。これも果実のチカラのおかげだ。
そして、所長に歩み寄り、
「そんなに実験道具が欲しいなら、お前がなれよ」
と言って果実を口にねじ込み、無理矢理飲み込ませる。パニックになる所
長は叫びながら丘を降りていった。

【24】エピローグ
「大丈夫やろか、あいつら」
と丘を降りながら京野が伸された研究員を心配する。
「大丈夫やろ。それより、デュオ名どうする?」
「うーん……そや!狂い果実のポーエットでどやろ?ポーエットは詩人て
意味でーー」
「長いな。でもええやん」
「せやろ?なぁ、これからどうする?」
「どうしよっかなぁ。まぁ何とかなるやろ」
上手くいくかはわからないが、二人は未来に向かって歩き出すのであった。

【おわり】

【あとがき】
これはたぶん、四年ぐらい前に考えたプロットです。不思議なアイテムによってヒーローに変身するが、その副作用で人間ではなくなっていくモノを描いてみたくて考えたのだと思います。
どうしてボツになったのかは覚えていないですが、こういうストーリーは在り来たりだったからかもしれませんね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。感想を頂ければ励みになると同時に、このボツプロットも成仏できる事でしょう。

最後まで目を通して頂きありがとうございました。サポートして頂ければとても励みになります。