ボツプロット「狂い果実のポーエット」②

【7】
数日後。
繁華街、老人の荷物を持っている京野。この日も善行に励んでいた。
「ありがとうねぇ」と老人は感謝の言葉を渡して、京野もそれを有り難く
受け取る。そして老人は言葉を続けた。
「こんな優しいんやから、兄ちゃんの彼女は幸せ者なんやろうなぁ」
彼女という言葉に苦笑いをする。
「一度も出来たことないですよ」
「ほんまかいなぁ。でも、きっと友達には慕われてるんやろ?」
「友達も一人だけです。でも、その友達とは特別な出会いがありまして……」
京野は老人に武勇伝を語り出す。

【8】回想:二人の出会い
中学二年生の時、放課後。五千人の森の丘へ京野はやってきた。ここで詩
を考えようという魂胆だ。京野は、“独りで皆と違うことをしている俺カ
ッコイイ”という中2病的発想を持っていたのである。女の子にモテるぞ
と…しかし、そんな姿を見てくれる人など居ない事に気付くのは大人にな
って交友関係の少なさを実感してからである。それはさておき、丘へと足
を踏み入れると、ベンチにのぼりベンチの屋根にロープを括り付けている
男子生徒がいるのが見えた。
自殺?
と嫌な未来が京野の頭をかすめる。京野は心配になりその男子生徒“設楽遊助”に声をかけた。
「おい!」
男子生徒は振り向き京野を見る。こういう時は何て言葉をかければ良いの
だろう?とりあえず京野は持っているB5ノートを差しだし、
「死ぬ前に俺の詩を読め」
と言ったのである。

【9】現在:繁華街
「本当にありがとうね」
と老人は京野に礼を言い、バス停留所のベンチに座った。良い事をしたなぁ
と京野は歩きだし、本来の目的地であるイオンに向かうのであった。
その時、遠くの方に設楽の姿が見える。
「あれ?今日は…」
と京野はスマホを取り出し、設楽からの昨日のメールを確認した。
[本文:昼間は用事あるから無理。夕方会おう]
用事って何だ?と遠目から見ていると、なんとコンビニの前で先日知り合
った女性と会っているではないか。それを見た京野はショックでスマホを
落とす。

【10】夕方
ファミレスで会った京野と設楽。
「用事ってなんやったん?」
と京野が尋ねると、設楽は「別に…」と答える。
「言えよ~友達だろ~。まさか、女とデートとか?」
それを聞き、設楽は一瞬だけ沈黙して言葉を発する。
「んなわけないだろ」

【11】深夜
住宅街、自動販売機の横に置かれているゴミ箱を蹴飛ばす京野。京野は設
楽に裏切られた気持ちでいっぱいだった。酷く虚しく、そして孤独で、家
に帰りたくなくて、住宅街を徘徊する。すると、知らぬ間に災害跡へと辿
りついていた。
“狂い果実を食べると願いが叶う”
という言葉が思い起こさせられる。
京野は意を決して塀を駆け上り、災害跡へ進入した。
塀の内側には研究所のような建物があり、明かりが点いている。そして、
クレーターの中心部には巨大な樹木があり、不気味な果実が成っていた。
京野は樹木へと近付き、落ちている果実に気付く。
これが狂い果実か?とそれを手に取り、勇気を出して一口だけカジった。
すると、途端に気分が悪くなりうずくまる。
その時、「誰だそこにいるのは?!」という声が聞
こえて、声の方向を見ると、懐中電灯を持った男性がいて、険しい顔をし
ていた。「何やってる?!」
捕まるとマズいと思った京野は、何とか逃げなくてはと、足に力を入れて
走り、塀を駆け上ろうとした。すると、駆け上る所かジャンプで飛び越え
てしまったではないか。
なんだこれは?と自分の身体の変異に驚くのであった。

【12】
翌日、あれこれと身体の変異を試す京野。とりあえずわかった事は、人間
離れした身体能力と知能を手に入れたという事だ。まるでスーパーマンの
ようになった京野は、街へ出てヒーローになろうと善行に励む。その善行
により、京野は徐々に人気者へと変化していくのであった。

③へ続く

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