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亡骸をこの手に

死んだあとは蝿が集る

死んだ目には蟻が列を成す

少し泣きそうな目と
半開きの口から舌を出したまま横たわる
その肉体だけ呼吸はなかった

植木の下に 静かに 身体だけが

その日の朝は生きていたと聞いて
なぜもう少し
早く会いに行けなかったのかと悔やむ

今まで一度たりとも
触れたことはなかった
他の誰かに触れられたのも
見たことも聞いたこともなかった

いつも少し遠く離れて
みんなの様子を伺っていた
卑しい目をして人間に怯えながら
他の子がいなくなったあと
人目を憚ってこっそりご飯を食べてた
そんな子

なのに

久しぶりに会いにいったら
たくさん話かけてきて
呼んだら大きな声で返事をしてくれた
自ら近くにきて
膝下にスリスリと甘えに来てくれた

あれ、もしかしたら、、

手を伸ばした

あっ、

パサパサの焦げ茶色の毛
骨の感触が分かる身体

顔周りを撫でると
目を閉じながら
私の手のひらで
目を閉じながら
幸せそうな顔をしていた
喉を鳴らした

近くでまじまじと見る
足が怪我で傷んでいた
今まで全く気付かなかった
腐って匂いも出ていた

よし、明日、病院に連れて行こう
冬を越せるように
お家も作ってあげよう

次の日、ホームセンターに行って
必要な材料を買い揃えて
その足で会いに行った

名前を呼びかけた
静かな風の音
返ってくるはずの返事が
いくら呼びかけても聞こえない

しょうがなく
1人で暇を持て余してた

“死んでるよ”

植木の下に横たわっていた
息は絶え
開いたままの目には既に蟻が列を成し
蠅の音が周囲の静けさを邪魔する

なんで…

汚れ、黴菌、虫、死臭、病気
触れようとした手が
一瞬戸惑った 両腕がとまった

でもそんなものなんてと
固く冷たくなった亡骸を持ち上げて
買ったばかりの白い綺麗なタオルにそっと包んだ
生きてるときのほうがよっぽど重力に忠実だ

そうだスーパーでかわいいお花をたくさん買おう
あと、いい香りのお線香も買いにいこう
墓参りとは残されたものたちの為にあるのだろう

あの子が天国でも元気に生きていますように
この想いが届きますようにと
亡骸が埋まった湿った土の上に花を添える 
そして、手を合わせ、目を瞑る

煙が青空へと昇る
湿った田舎の匂い
ほのかに広がる線香の香り
目を閉じながら、
周囲に佇む悲しみや後悔を大きく吸い込む
そして祈りや願いを込めて大きく吐き出す
煙に届けてもらう


君と出会って5年
触れることができたのは最期の3日

そんな君の名前は がじゃこ
どっかの誰かが
卑しい顔つきがガジャがジャしてるから、と名付けた
がじゃこ

遠くにいても
あなたはいつも側にいたのね
ありがとう
とっても大好きよ








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