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第44回感染管理抄読会:オランダの高齢者施設におけるCOVID-19対策中の認知症高齢入居者の行動・心理症状の変化について

2022年4月の抄読会で取り上げた論文です。

この論文を選択した理由:
・COVID-19パンデミック下、高齢者施設入居者の行動の変化やスタッフの対応について知ることで、高齢者への感染予防対策を多職種で考えることができればと思いました。
・また、自分自身が高齢者施設で調査を行っており、量的質的データを収集していることから、今後データ分析を進めるにあたり、混合研究法について理解を深めたいと思いこの文献を選択しました。

Challenging behavior of nursing home residents during COVID-19 measures in the Netherlands
オランダにおけるCOVID-19対策中のナーシングホーム入居者のチャレンジング行動

【書誌情報】
Aging & Mental Health, 09 Dec 2020
DOI: 10.1080/13607863.2020.1857695

【抄録】
目的:介護施設(以下、NH)の実践者の視点から、以下3点について理解を得ること
1. COVID-19対策中にNH入居者のチャレンジング行動が変化したか
2. チャレンジング行動の治療に対する実践者のかかわり方が変わったか
3. NHスタッフの経験から学びを得ること
※チャレンジング行動:認知症の行動・心理症状のこと(≒周辺症状:BPSD)
方法:アンケート調査とインタビューによる混合研究法
対象者:オランダのNH実践者(心理士、高齢者医療専門医、ナースプラクティショナー)。アンケート調査は323名、インタビューは16名に実施された。
分析方法:ノンパラメトリック解析により、チャレンジング行動の増加した入居者と減少した入居者の推定比率の比較を行った。自由形式の質問と深層インタビューでは、内容分析を行った。
結果:チャレンジング行動の増加の割合が、減少よりもわずかに高かった:増加(第1四分位/中央値/第3四分位: 12.5%, 21.7%, 30.8%) vs 減少(8.7%, 14.8%, 27.8%, Z=-2.35, p=.019)。対象者の半数が、対策中に「仕事の負担が増えた」「仕事のやりがいが低下した」と回答した。COVID-19対策中の面会禁止や活動内容の変更などへの対応として、ビデオ通話、入居者が大切な人に会うための特別な場所の提供、活動の調整、そしてネガティブなニュースに触れる機会を減らすなど、さまざまな対応策が述べられた。
結論:COVID-19の対策は、NH入居者のチャレンジング行動の増加と減少の両方をもたらしたため、その潜在的な長期的影響を観察することが重要である。NHスタッフの業務負荷の増加ややりがいの低下、チャレンジング行動の種類の変化など、パンデミック対策の弊害を深刻に受け止める必要があることを示している。

【ディスカッション内容】
 今回の文献は、高齢者施設におけるCOVID-19感染対策中の認知症入居者の行動・心理症状の変化について、主に心理士と医師を対象に実施した調査結果でした。論文を読み進める中で、心理士を対象とした理由、どのツールを用いて入居者の認知行動面を評価したのかといった疑問が生じました。オランダでは各施設に心理士の常駐が定められている、または定期的に入居者の認知行動評価を行うシステムがあるといった制度に関すること、参加者の背景に関する情報もあれば、研究方法や結果の解釈がしやすかったのではというディスカッションになりました。論文化する際には、自分たちにとっては当たり前の制度や文化についても表現することの大切さを学びました。
 この調査では、量的データを深く理解するために混合研究法が用いられました。質的データの分析手法については論文によっても異なり、質的データの見せ方などについては、今後も文献を読み勉強していきたいと思います。

(Y.T.)


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