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第59回感染管理抄読会        ナーシングホームにおける入居者の感染に対しての手指衛生介入の効果:クラスターランダム化比較試験

第59回感染管理抄読会での文献の紹介です。

論文タイトル
The effect of a hand hygiene intervention on infections in residents of nursing homes: a cluster randomized controlled trial
ナーシングホームにおける入居者の感染に対しての手指衛生介入の効果: クラスターランダム化比較試験

この論文を選択した理由
現在自身の研究において、高齢者介護施設での職員の感染対策向上に向けてアンケート調査や手指衛生遵守率調査を行っており、参考になると考えたため、この論文を選択しました。

書誌情報
Antimicrobial Resistance and Infection Control
DOI: https://doi.org/10.1186/s13756-021-00946-3

抄録
背景:手指衛生の第一の目標は、感染症罹患率を低下させることである。手指衛生介入を行い、手指衛生介入を実施していないナーシングホームと比較して、入居者の医療関連感染症(HAI)が減少したかどうかを検討した。
方法:本研究は、手指衛生を改善するために33のナーシングホームで実施されたクラスターランダム化比較試験(RCT)の一部である(HANDSOME介入)。5つの疾患(胃腸炎、インフルエンザ様疾患、肺炎、尿路感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA))の発生率を13ヵ月にわたって追跡した。ベースライン期間(2016年10月~12月)と2つの追跡期間(2017年1月~4月、5月~10月)について、試験群ごとの罹患率が報告された。HAI発生率はポアソンマルチレベル分析で比較し、ベースラインの差異(ベースラインの感染症発生率とナーシングホームの規模)とナーシングホーム内でのクラスタリング、および研究期間について補正した。
結果:介入群では対照群と比較して、胃腸炎が有意に多く(p<0.001)、インフルエンザ様疾患が有意に少なかった(p<0.01)。肺炎、尿路感染症、MRSAについては、介入群では対照群と比較して有意な差はみられなかった。感度分析では、胃腸炎は介入群で有意な増加はみられなかった(p=0.92)。
結論:多施設クラスターRCTにて明確に定義されたアウトカム指標、標準化された報告手段、および手指衛生の直接観察法を用いたにもかかわらず、類似の研究と同様、手指衛生介入によるナーシングホーム入居者のHAI発生率の減少の有効性を決定的に証明することはできなかった。

クリティーク・ディスカッションを終えての感想
この論文は先行研究の副次的アウトカムについて報告したものであり、先行研究を読みながらのクリティークでした。論文としては読みやすく理解しやすかったのですが、方法については先行研究には記載していても本論文では記載を省いている内容が多く、どうクリティークすべきか悩む部分もありました。ディスカッションの中で、先行研究に記載していてそれを引用していたら問題ないことを学ぶことができました。またクリティークする中で、論文中に一般化可能性について考察しているかどうかの記載がなければ、その項目は×と評価するといったように機械的に判断するのではなく、研究の内容や考察全体の流れなども踏まえて判断していく必要があることを学ぶことができました。今回の論文では、手指衛生介入は医療関連感染発生率減少への有効性は証明することができなかったのですが、対象とする職種を広げてみたらどうか、などの改善点についても考えることができました。自身の研究に参考になる論文とディスカッションであり、とても勉強になりました。

(担当 F. A)

2023年も大変お世話になりありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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