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晴れの日に傘を持って行くということ

今日は晴れた。雲ひとつない気持ちのいい晴れの日だった。そんな日にぼくは傘を持って行った。奇を衒おうとしたのではない。もちろん日傘でもない。雨水を避けるために頭上に広げる傘だ。

朝、天気予報を見た。天気予報と言ってもテレビの右上か左上かに現在の時刻が表示されているやつの下に、ちょこんと出ている太陽のマークとか傘のマークで天気と気温を教えてくれるあの天気予報だ。その天気予報には太陽マークとその隣に青い傘マークが表示されていた。「今日、午後から雨降るんだ」と思った。だからぼくは今日、傘を持っていくことを決意した。

電車に乗った。そこで初めて違和感を覚えた。自分以外、誰も傘を持っていないのだ。ははーん。みんな今日雨降るってこと知らないんだなー。まあ、今はこんなにも晴れてるから雨降るなんて天気予報見てないとわからないよなー。出世する人は雨に濡れない人って聞いたことあるし、この人たちは帰りになって「え!?今日雨降るの!?聞いてないんだけど!?」とか言いながら、雨に濡れて駅まで走りにくいハイヒールを履いて帰るんだな。この人たち、みんな出世できないな。ぼくだけ出世しちゃうなー。と思った。でも違った。改めてスマホの天気予報を見てみると、本日11月18日は降水確率0%の素晴らしいお天気になることが予想されていた。なんで!!??朝テレビの端っこに見たやつはなに!?!?なんで傘持ってきたん!!??快晴の日になんで傘を持ってきたん!?あいにく、透明のビニール傘だったので、「あ、これ日傘ですぅ、決して今日雨降ると思ってた訳じゃないですぅ」みたいなオーラも出せなかった。

こうなるとぼくに残された道はひとつしかない。この世界に抵抗するためにはこれしかなかったのだ。傘を自信満々に見せびらかすように歩き、ぼくの傘を見た人に「え!?今日雨降るん!!?」と一瞬だけドキッとさせる!名付けて【傘いるんかとおもったわ〜作戦!】(ババーン!)(舞う花吹雪)(鳥のさえずり)(鳴り止まぬ歓声)そう。これは、道ゆく人々にドキドキを体験してもらおうというスリル満点なプロジェクトだ。作戦通り、ぼくは駅構内を、なんの負い目も感じずに傘と共に歩いた。少し大股だったと思う。清々しい行進だった。

ぼくの作戦が一体誰に功を奏したのかはわからない。この作戦の弱点はそこにある。しかし、ぼくはやったのだ。しっかりこの世界の荒波に抗い、自分の尊厳を守った。自分がかっこいいと思えた1日であった。晴れの日に傘を持って行くということはそういうことだ。

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