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『僕たちはクローン』

まえがき


今回はTwitterにて募集のあった呟怖のお題を提供してくださった青い鳥さんのツイートに投降したお題を、さらに発展させる形で短編を書いてみました!

ちなみにこちらが該当ツイート

そしてこちらがわたしの呟怖

ということで、以下はわたしが考えた以前であり以後の話。どう考えるかは自由なので、妄想してみてくださいな、うふふ(笑)

一応注意しておきますがホラーですよ!!

本編『二人のクローン』


「──じゃあ、メンテナンスに入るわよ」
慣れた手つきで女医らしき人……が右腕の肩ぐちから真っ白いカバーをかけていく。サテンよりもツルツルとした生地らしきナニカだ。
……もう何度目かになるので驚かないが、この生地がこれから僕の皮膚になる。僕と同じ簡素な医療用ベッドに座る相棒────ジャーマンシェパードの彼の胴体にも、同じようで色の異なる生地がかけられている。
蒸気の抜けるような音と共に、生地の内部から空気が抜けていく。同時に生地が縮んでいき、腕へとピタリとくっついていく。
ピリピリとした感覚。痺れとも違うそれが、今僕についている代用皮膚が剥がれ、生地へと吸収され素材へと循環していってるのだと理解させる。目には見えないが、きっと今この生地を外されれば、僕の腕には皮膚のないグロテスクな光景が拡がっているだろう。
「どう、少しは慣れた?」
笑顔を浮かべて、未だに慣れないといった表情を浮かべたのがバレたのか、その姿を見た女医から言葉をかけられる。
しり込みする僕を知ってか知らずか、相棒は僕よりも広い範囲をピリピリとさせているにも拘わらず、慣れた様子で尻尾を僅かに揺らしながら大人しく待機している。
「ほんの少しだけ……ですけどね。でも、もう二週間になるんですね」
「二週間……?ああ、そうね。そうよ、もうそれぐらいになるわ」
彼女が戸惑ったのは、今は時間の区分が変わっているかららしい。一日はワンヒューズ。一週間や一年といった基準はなく、“かつて存在した”四季を参考に、それぞれを○○シーズンといった呼び方をするらしい。正直、一度見ただけなので覚えることは出来ていない。


先ほどメンテナンスと言われたが、これは僕たちにとって必須の義務だ。
スチームアイロンめいた蒸気めいた白い煙が抜けると、生地はぴっちりと張り付いていき、数分で皮膚として固着する……らしい。
正直、仕組みとしてはあまりよくわかっていない。なんにせよ、これをしなければ僕たちは生きることも難しいというのが現状らしいのだから。


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僕たちが“発見”されたのは、とある施設の跡地だった。僕自身、前の僕の記憶がないのでそれらに関してハッキリしたことはわからない。
というのも、再現できたのはいわゆる二種類ある記憶のうち知識記憶と呼ばれるもので、思い出などと呼ばれるエピソード記憶は再現できなかったからだ。

そして、もう一つ思い出せなかった理由は、僕が発見されたところがすっかり黒びたナニカに覆われていて、到底どんな場所だったか理解が及ばなかったからだ。ここは、かつてのアメリカにあたる位置らしいが、そもそも僕はアメリカには来たこともない。そして、今現在アメリカという国家は存在していない。極点が変わり、凍土に覆われたこの土地だけが唯一人類が生き延びることができている理想郷なのだとか。

あの画像で見せられた黒いものはなんだったのかは、教えられていない。

聞きたくなかったからだ。何者でもない僕にとって、僕が僕で亡くなった理由など知りたくもない。

────当然、なぜ僕がこうして再生されたのかも。

ある程度皮膚の交換が終わり、唯一再生できた顔の皮膚で相棒の感触を味わう。少し硬く感じるが、犬特有の毛質はある程度残っている。なにより、女医さんのように彼は冷たくないのだ。なんでも、今生きている人間の大半は義体という一種のサイボーグ化した肉体を利用しているらしい。彼女(本当に彼女かはわからないが)はその中でも特に過去文明に詳しく、見た目も旧人類に近いことから僕の面倒を見てくれているそうだ。

旧、ということは新人類は全員がロボットのような見た目になっているのだろうか。たった二週間だが、それらのことが気になるには十分な時間だ。記憶もない上に、外はしんしんと雪のような粒が降り積もる絶界。僕のような極めて純度の高い旧人類では、とてもではないが生存可能な環境ではないらしい。窓から見える景色も、実際には設計者が外の様子が見られるように外部監視装置が得た情報を画像処理したモノらしい。

この世界はニセモノだらけだ。僕と相棒を含めて。そして、僕たちはニセモノの中でもさらにニセモノに近い存在なのかもしれない。


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────今日も、僕たちはここへ来る。
許可がいるとはいえ、唯一立ち寄ることが許される別の場所。
それは、僕たちのオリジナルを再現保存したとされるはく製のケースだ。
そこに並び立つのは、僕と相棒。二人が全く同じ姿形すがたかたちで座っている。
最近……今更になって気づいたのだが。

どうして、ここにいる僕のオリジナルはこんなにもナニカを睨んでいるのだろう。女医さんは、これのことをはく製だといった。

知識が正しければ、はく製とは死体を利用して作り出す存在だ。本当に、僕のオリジナルは〝死んだ状態で見つかった〟のだろうか。

気になる疑問。だが、それを聞くわけにはいかない。真実を教えられても、嘘を教えられても、それを信じる術が僕にはないからだ。

それでも、僕は今日もここへやってくる。

そこに秘められた何かを確認しに。相棒は、そんな僕に離れずついてきてくれる。その温もりに安心感を覚えながら……。

いつか────僕たちが外へ出る機会はあるのだろうか。知識にだけ残る、青空の広がる草むらで駆け回る日々が。


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『観察報告』

『本日も経過観察は良好。パターン2662は現状皮膚異常が見られるのみで、臓器に関しては極めて健康であると判断できる』

『血液と眼球は前回も非常に好評。パターン2332の時のようにエゴレベルの低下から自損する危険性もないと思われる。痛覚は予定より低くなったが、現状皮膚交換の際に暴れだすこともないので以後も継続の予定。また、監督者4号の様子に気づくこともないようだ』

『頻繁にショールームへ訪れるのは、これまでと同じく提供したカバーストーリーによる行動と1200程度のパターンとの一致が見られる。少々観察時間が長いようだが、思考レベルは極めて平静である。次回の収穫であるシーズンオフに合わせて、パターン2663の製造プロット開始を提唱する』

『以上、報告終了』


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