ドゥームズデイクロック実況感想⑧『SAVE HUMANITY~人類を救う~』
※この記事にはネタバレが含まれます!※
エイドリアン・ヴェイトという男について
さて、週に一回となってしまったが今日も読んでいきたい。
今回もまずはコラムもとい外伝とも言える話が掲載されている。
突然の実写風に驚いたが、これに驚いた自分に驚いたとも言える。さながら、もし、万が一にも現実世界にエイドリアン・ヴェイトがいたならば。
恐らくは彼は誰よりも、良くも悪くも注目を浴びただろう。それは彼が自警団という(本来であれば)自己責任と自己犠牲に根差した存在を大々的に宣伝し大富豪となったことなどではなく、恐らく世界は彼の狂気にどこかで気づけていたのではないかという部分にあるからである。
現実世界にヒーローら超人を落とし込んだ結果、そしてヒーローがいない世界で世界はどうなるのかという壮大な仮想実験を行ったのがウォッチメンだと言えるが、恐らく現実世界においてそれは核戦争以上に悲惨なことになるだろう。すなわち、煉獄の本来の意味を身をもって知るのではなく、もはやそこにすら至れないであろうという意味でだ。
……まあ、それが今の世界と何が違うのかということに際してはコメディアンもコメントを濁すであろうが。
さて話を戻すが、コラムは事件のすぐ後の話である。1985年11月7日のことであるらしい。彼が自らの会社の広報部長であるケリー・ポファムなる人物へと宛てた手紙には……神の視点を持っている読者だからこそ感じ取れずにはいられない欺瞞と悪徳が詰まっているとすらいえる。彼の行動を見た上で、あの快哉を上げる姿を見た上で、なおこのコラムを読み吐き気を覚えない筈もない。
今ここでハッキリと断言しよう。彼の性根と呼べるナニカがあるとするならば、それは”邪悪”に他ならないだろう。偽悪を極め悪党に成り下がったコメディアンが嬉々として殺そうとするほどに。
────そして、彼が送った手紙とは裏腹の事態は既に進められていた。それはすなわち、世界から失われたDr. マンハッタンの再現実験とも呼べるものであった。ブバスティスのクローン技術による複製である。
わたしは彼を邪悪と断じたが、それは彼がブバスティスの死を本気で悼んでいるからである。僅かな時間稼ぎの為に、彼は自らの親友とも呼べる唯一信用できる友をDr. マンハッタンという神への生贄に捧げた。それを恥じる、あるいは誇りとでも思っているならばまだしも、彼はその行為を後悔せずただ悼んでいる。まるであの出来事が『避けられなかった犠牲』だとでも言うように。
敢えて言おう。くそくらえ、である。
しかし当然わたしの唾棄する思いとは関係なしに、この世界の物語はわたしが視線を割くごとに進んでいく。あの日から6~7年の歳月。それまでの間、世界の混乱を見ながら、或いはロールシャッハの手記による告発を受けながら、彼はブバスティスの複製に拘っていた。彼自身どこかで誰よりも早く気が付いていたのだろう。
自分が為した行動が『世界の救済』ではなく『その寿命を縮めただけ』だということに。しかし彼はそのことを悼みこそすれ、後悔だけはしていない。
”あれは上手くやれなかった”だけだと。”今度こそは成功してみせる”と彼は信奉しているのだ。
もし彼があと少し愚かだったならば。もし彼が……いや、これ以上の思考は止めよう。ともあれ、物語は進むのだ。
彼はブバスティス2世を、以前もそうであったがDr. マンハッタンへの妨害装置として使っていた。今回はレーダーとして使っていたこともそうだが、なんと皮肉なことだろうか。
「神など信じない。私こそが神を超える存在である」
とでも言いだしそうな男が、誰よりも実物の神とされる存在を恐れているのだから。
妄言とはそれを信じる人間にとっての金言である
……さて、どうやらオジマンディアス殿はホワイトハウスに侵入したようだ。ならば彼が読んでいた何らかの資料は大統領のものだろうか。ヒーローのスタイルそのままに犯罪を働く彼の滑稽さ。それを笑う”誰か”はここにいない。
そして場面は移り、ロイスとクラークがやってきた。わたしからすれば、待ちかねた瞬間である。安心と未来の象徴。善良と探求心。良い意味でのアメリカンスピリッツが、彼と彼女にはある。
ロイスの皮肉を見ることにどこか安心すら覚えてしまうほどだ。
それにしても、そんなに粉のオレンジジュースというのは不味いのだろうか。その状態から作るオレンジジュースを飲んだ経験がないが、お湯で溶かないとあの手のはどうしたところで粉が残るのではないかと思う。
さて、これらの光景は平和だ。だが、デイリープラネットの足元では子供がリンゴを盗んでいる。それは貧困によるものか、いたずらによるものか。
……やはり、この世界はそもそもが危ういように感じる。
そして、その予感はわずか数ページで実現した。ロシアへと怒りのままに乗り込んだファイヤーストームが、戦いの果てに自らを襲った群衆へと感情のままに能力を暴走させてしまった。その姿はクリスタルか、はたまたガラスか。固まってしまった人々の姿は、ファイヤーストームという奇妙なヒーローがその資格を失ってしまったかのようですらあった。
なぜならば、彼はそのままその場から逃げ出してしまったのだから。
ファイヤーストームとメタヒューマン問題対策局。以後は対策局と呼ぶが、彼らの関係は表面上は無関係に見える。だが、ファイヤーストームは二人だ。青年と教授。彼らが合体することで誕生する超人だ。青年はなるほど、確かに無関係かもしれない。だが、教授は……?
タイフーンの件があるのだ。あのコラムが嘘だったなどと、偽りだったなどと言えるだろうか。どうやら、わたしも大衆が持つ疑惑に飲まれつつあるようだ。
とはいえ、そんな中でもスーパーマンへの信頼は強い。
”スーパーマンなら何とかしてくれる”
……果たしてそうだろうか。それは彼を信じていないからなのではない。彼を信じるからこそ、彼を孤独にしてしまうこと、孤立させてしまうこと、全てを彼一人に背負わせてしまうことの危うさを危惧せずにはいられないのだ。
そこは理想郷という名の牢獄なのだろうか?
そこは、MARVELにおけるミュータントの楽園を思わせる場所。
しかし早々に登場したのは対策局から派遣されたと思わしき人物二人。クリーパーなる黄色い肌に緑の髪の毛をした、どこかジョーカーじみた不気味な笑顔を浮かべる男と、通路を歩く巨人女ジャイガンタである。
そこはブラックアダムが治める国家、カーンダックである。
相当な国土を誇るこの国を、文字通り自らの力で守る彼にとって、恐らくスパイの侵入など大した問題ですらないのだろう。何故なら、例えそうであっても彼らは彼が保護すると約束したメタヒューマンであるのは変わらないのであるから。そしてどうやら彼にとってそれは、カーンダックに住む普通の人間も同じであるらしい。
カーンダックの支配者であるブラックアダムは、思うが儘に振舞う。それはスーパーマンにとって実に痛い指摘だっただろう。
彼はスーパーマンへ「お前の本質は、単なる仮想した消防士だ」と告げる。それはある意味では真実だろう。とりわけ人の心が乱れるこの世界においては、彼の力は起きたボヤを消す程度の力しかない。だが普通の人間にはそのボヤを消すことすら難しいのだ。ゆえに、それを成し遂げる力があるスーパーマンは羨望の的であるはずだ。
しかしそこにこそ心配が勝るのだ。誰もがスーパーマンに頼っているのではないだろうか。
消防士足らんとする人間は、彼以外にはそれほどまでに少ないのだろうか。
顔を俯け、ブラックアダムを諭そうとするスーパーマン。だがその言葉には力がないのだろう。ブラックアダムは王だ。王として彼はスーパーマンに告げる。事実、彼はスーパーマンと戦うことになっても負けるつもりはないのだろう。1対1ならわからないだろう。だが彼は王なのだ。つまりは、国家を守るためにその力の振るい方を選ばないという性質を有している、ということだろう。だからこそ、スーパーマンは勝てないだろう。
ことカーンダックにおいて戦う限りは、絶対に。
覆る悪夢と翻される信頼
『事件は起きた。だがまだ遅くない』それが、スーパーマンが考えていることだろう。同時進行するようにロイスの下には、存在しないヒーローを紹介するプロモーションが届けられた。
JSA
さて、スーパーマンはカーンダックで宣言した通り、文字通り本気で世界中をその目で探し続けたのだろう。ロシアを高速で飛び交い、ロイスからの情報もあって彼はファイヤーストームを探し続け、遂に見つけた。
そこには少年を戻そうと悪戦苦闘するファイヤーストームがいた。あの現場から一人だけ、少年を連れだすことに成功したのだろう。
どうやらあの状態はガラスとなってしまった人間らしい。彼の能力はどうやら、炎を介して物体を変質させることが出来るらしい。それが暴走した結果があのガラス化のようだ。恐らく、本来は干渉しないよう無意識にセーブしていたのだろう。
ファイヤーストームは祈るように叫ぶ。爆発するかもしれないと告げるファイヤーストームを信じて「ここにいるよ」とほほ笑むスーパーマンの下で。
そして……! 彼のパワーは少年を元に戻すことに成功した!
それはすなわち、あの場でガラス化させてしまった群衆を元に戻せることの証明でもあるのだ。歯の抜け変わってもいない少年はスーパーマンを見て喜びながら駆け寄る。
そんなスーパーマンと少年を見て、ファイヤーストームは涙を流すのだった。
────だが、事態はそう簡単にはいかなかった。
ロシアにて、アメリカへの宣戦布告とも取れる演説をする大統領を前に、スーパーマンは地球人の代表と彼が言うようにその場で演説を始める。
ファイヤーストームの一件は事故だったと。
……敢えて言おう。確かに、ガラス化は事故だったと言えるだろう。だが、そもそもファイヤーストームがあの場へと勇んで現れなければ防げた悲劇だったのだ。彼はもっと周囲に相談するべきだったのだ。……もっとも、現状彼が一番信用するべき相手は、彼と一体化したシュタイン教授────すなわち最大の容疑者である現状、彼は他の誰へと相談できたのか、という問題もまた抱え込むわけではあるが。
これも、Dr. マンハッタンの思し召しだとでも言うのだろうか。
そして彼は再び問題を起こした。事態の悪化を察知したバットマンがバットウイングで急行しつつスーパーマンを制止する最中、ファイヤーストームは「自分はヴィランではない!」とばかりにあの少年を連れて現場へと現れてしまったのだ。
よりによって、再び群集がそこにいる前で! である。
それは最悪の出来事の始まりだった。引き金は引かれ、ガラスと化した人々はあっさりと砕けていく。その場にいるロシアの人々からすれば、それはかつて家族や隣人だった人の無残な姿だ。だが無論、それが元の人間に戻せると知っているスーパーマンとファイヤーストームは抵抗する。
最悪と無理解が事態をどんどん負の連鎖へと落とし込んでいく。
スーパーマンは、クラークは事態を解決しようと、攻撃を続けるロシア軍をも制止すべき対象としてしまった。彼が選んだのは、無力なまま砕かれていく人々を守ることだったのだ。それはどこまでも正しい。だが、それは他の人にはどう見えるだろうか。表面的な情報だけを見る人間にとってはなんと見えただろうか。
ガラスとなった民衆を守る姿は、犯罪者であり人殺しであると世界的に謳われたファイヤーストームを味方したように映るだろう。
バットマンはその場へ急ぐ。彼はこの状況において、唯一真実に近い情報を知る人間だ。そして、唯一Dr. マンハッタンを見たことのある人間でもある。
だが彼の言葉は届かない。その場は……ああ……かつてのニューヨークを思わせるかのように大爆発を起こし、そして……。
そんな状況を見てロイスはコーヒーカップを落とし、ある場所では映らなくなった画面を見てほくそ笑む男が────オジマンディアスがいる。
横のコラムには、砕けた信頼と表紙に書かれている。これを読むのはまた次となるだろうが……この世界もまた終末へと近づいているのだろうか。
否である。
このコミックの表紙を今一度見てみる。終末時計が指している場所を。
そこにあるマークは、シンボルは紛れもない希望の象徴なのだから────。
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