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もし、禁止されていなかったら、シヌイェは残っていたのか 『シヌイェから見るアイヌの生活2』

シヌイェ研究会『シヌイェから見るアイヌの生活2』。
『マレウレウ』のマユンキキさんが行う、聞き書きとシヌイェ(入れ墨)の調査記録の第2篇。

第1篇の本の記事はこちらhttps://note.com/shuzo_kumagai/n/nefe157cd5161


明治4年に制定された『壬申戸籍』法の際に明治政府から禁止されたシヌイェ。その文化的意義の再考として、数年間行われていく取り組みだ。

この活動のユニークなところは、旭川アイヌであるマユンキキさん本人の顔をキャンバスにして、当時を知る人に「実際見たもの」もしくは「綺麗だと思う」シヌイェをペイントしてもらうアプローチを試みているところだ。
マユンキキさんは、口許へのシヌイェを、〈美しい〉と感じている。そして、かつてシヌイェを入れていたアイヌの人たちもそう思っていたのではないか、と。

この本には、前回同様、シヌイェを実際にみたことがあるというアイヌの方への聴き取りの文章と、マユンさんの顔にシヌイェのペイントした写真がセットで掲載されている。

マユンさんは彼らに、シヌイェの印象や当時の様子を訊ねる。そして「もし明治に禁止されていなかったら、シヌイェは残っていたと思いますか」と問う。

それに対してほぼ全ての人が、シヌイェをしていた人に対してマイナスの印象は感じていなかったものの、シヌイェは残らなかっただろう、と答える。
法律よりも、当時の社会の生きづらさに、シヌイェは耐えられなかっただろうと。

"普通に生活してる時にはそんな気にならないんだけど。でも夏の真ん中にね、お婆ちゃんがマスクして、昔風に風呂敷をしょって歩いているのを見ると、気の毒だなって、やっぱり可哀想だなって思いました。その頃って自分達も石をぶつけられたりだとか、色んな事があったけど、俺たちへのそれよりもっと酷かったなと思います。「あ、アイヌ。あ、アイヌ。あ、犬」ってね、言われたこともあったよ。"(p63)

そして、もし、自分の娘や孫がシヌイェをしたいとしたら止めると、彼らは口を揃えてこたえる。

マユンさんはシヌイェの写真を初めてみたとき〈きれい〉だと思った。そして、自分も入れてみたい、と。マユンさんは、シヌイェをしたアイヌに会ったことがない。
マユンさんのその強い想いに、インタビューしたアイヌの方々は驚く。マユンさんのお母さんも、シヌイェには反対しているそうだ。しかし、彼女の想いはブレることはない。

あとがきで、マユンさんは以下のように書いている。 "それでも、私の顔にシヌイェのペイントを施した瞬間に、その人の表情が変わることがありました。顔がパッと輝き「あら、きれいね」と言ってくれるのです。それはその一瞬に、その方の過去の記憶と現在が重なって、刺青は良くないことになってしまっている現代の縛りが一瞬だけなくなる瞬間なのかなと思います。そのような瞬間に出会うたび、アイヌが長く続けてきたシヌイェの文化が、完全には途絶えてないのだということを実感します。"(p63)


〈美意識〉というのはとても個人的で、同時に社会的なものだ。マユンさんはそこに大切なもの(issue)があると感じている。
この活動は、のちに書籍化を検討しているとのこと。その時マユンさんは、どんな言葉を綴るのだろう。

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