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第2回 SAPはなぜ世界中で使われているのか

「SAPって難しい!」そう感じたことはありませんか? 書籍『世界一わかりやすいSAPの教科書 入門編』はそんな皆様のご要望にお応えしたベストセラーです。本連載では全4回にわたって、書籍の内容をちょっとだけご紹介いたします。第2回は『第1章 SAPってなに?』から「SAPとは」「SAP ERPが世界中で使われている理由」を公開します。
※一部情報は2021年執筆時点のものです


第1章 SAPってなに?

SAPがどういうシステムなのか、どのように会社業務に使っていくのかをお話する前に、まずはSAP ってなんなのかを少しお話します。
最初は少し固い話になりますが、SAPを知る上で欠かせない話なので、ぜひ目を通してみてください。

1-1 SAPとは

|SAP《エスエーピー》は、ドイツのSAP社が開発・販売している企業向けの業務システムです。
有名なのが、SAP S/エス4HANAフォーハナと呼ばれる、ERP(Enterprise Resource Planning)システムです。
ERPシステムとは、会社の基幹業務を担うシステムで、基幹業務とは経理や販売、調達、生産、物流、人事など、会社になくてはならない「中心的な業務」のことです。

SAP社は、ERPシステムを世界中の大企業向けに提供しており、2019年時
点で世界190 ヵ国の約440,000社がSAPを導入しており、フォーブス誌が毎
年発表する世界のトップ企業ランキング「フォーブス・グローバル2000」にランクインする約92%の企業がSAP社の顧客です。また、日本国内でも3,000社以上の企業がSAPを導入していると推測され、ERP市場では世界ナンバー1の企業です。
SAPは、ERPシステムで有名になった企業ですが、近年ではCRM(Customer
Relationship Management:顧客関係管理)、SRM(Supplier Relationship
Management:調達・購買管理)、経費管理、人材管理など、ERPの周辺システムとなる領域にも力を入れており、会社業務を総合的にサポートするようなサービス展開をしています。

ERP以外の周辺システムについては、第12章の「SAPのこれからの展望」でお話します。
※本連載では公開範囲外なので書籍にてご確認ください

1-2 SAP ERPが世界中で使われている理由

汎用性の高いSAP ERP

では、なぜこれほどまでにSAP ERPは、世界中の企業で使われているのでしょうか? その理由として、次の3つがあります。

  1. どのような業種の会社業務にもマッチできる仕組み

  2. グローバルスタンダードシステム

  3. 広範囲の業務をカバー

理由① どのような業種の会社業務にもマッチできる仕組み

SAPが世界中の多くの企業で使われている一番大きな理由が、どのような業種の会社業務にもマッチできる仕組みがあるためです。
業種が異なれば、業務も変わります。例えば、アパレルメーカーと化学メーカーでは、販売する相手が一般人なのか会社なのかが異なり、販売方法も異なれば、流通方法も異なります。
SAPは、この業種間の業務の差異を「カスタマイズ」という機能を使って、業種に合わせたシステムとしてセッティングができるようにしました。さらに、カスタマイズ機能を使って、それぞれの企業固有の業務にフィットするシステムにすることもできます。

また、SAP社のホームページには、エネルギー・天然資源、サービス業界、消費財業界、ディスクリート(個別半導体)産業、金融サービス、公共サービスの6つの業種別ポートフォリオがあります。それぞれの業種にマッチするようにSAP ERPを導入できること、そして実績があることを意味しています。

理由② グローバルスタンダードシステム

2つ目の理由は、グローバルスタンダードシステムであるということです。
グローバルスタンダードシステムであるSAPは、世界標準の業務に合わせた作りをしています。特にSAPが使われるような大企業は日本だけではなく、海外にも支社や工場を持っています。そのため、海外展開している会社がSAPを使うことにより、どこの国・地域でもSAPをベースに業務を標準化し、統一することができます。

業務をSAP標準に統一することのメリットは2つあります。

1つ目は、海外展開の際の運用コストやトレーニングコストを下げることができ、日本本社のメンバーとも意思疎通が取れやすいことにあります。
また、2000年代に入って、グローバル化の重要性がより高まってきており、企業は「自社+海外現地法人」も含めたデータを統合的に分析し、スピーディーな経営判断が求められるようになってきました。
これまでは、それぞれの現地法人ごとに自分たちに合うシステムを使うことが多く、そのため、データの粒度が異なり、正確な分析ができませんでした。しかし、SAPの標準業務に統一することにより、データの粒度も各国・各地域で揃えることができるため、グローバルで分析したいデータが整えられている状態が作れます。それによって高度な分析からスピーディーな経営判断につなげられるようになります。

2つ目は、将来的にデジタル領域の拡張がしやすくなることです。SAPに機能を追加して業務を変えなかった場合、バージョンアップの都度、追加した機能がバージョンアップ後も動くかを検証する必要がありました。
しかし、SAP標準機能を使えば、常に最新バージョンのSAPを使うことができ、それだけ最新のデジタルシステムとの連携も容易になります。これまでは現場の業務にシステムを合わせていたため、つぎはぎだらけのシステムを使っていた会社が多く、デジタル領域の拡張になかなか対応できませんでしたが、SAPのグローバルスタンダードに業務を統一することにより、常に最先端の技術を享受できるメリットがあります。

理由③ 広範囲の業務をカバー

SAP ERPは、経理や販売、調達、生産、物流、人事など、広範囲の会社業務をカバーしています。そのため、1つの基幹システムに会社業務のデータを統合することができます。

システムを1つに統合するメリットは、データ間の関連をリアルタイムで把握できることです。これまでは、業務ごとに使いやすいシステムをそれぞれ使っていたため、データを統合して分析したいときに、システム間でデータのやり取りをする必要がありました。システム間のデータのやり取りが発生すると、データ連携するための時間が必要であるため、業務領域ごとにシステムが分かれている場合はリアルタイムにデータを見ることができませんでした。

例えば、「販売実績と原価の相関を見たい」「物流と在庫の情報を合わせて見たい」といったときも、それぞれのシステムのデータを別のシステムやExcelに統合させる必要がありました。
SAPでは、1つにシステムで会社全体の業務をカバーしているため、リアルタイムに関連し合う業務データを統合的に見ることができるようになり、瞬時にデータ分析ができるようになります。
これからの会社経営には、ビッグデータ分析が必要不可欠です。会社データを多角的に分析し、スピーディーな経営判断が求められます。SAPを導入すると、広範囲の会社業務を1システムでカバーでき、データを統合できるので、ビッグデータ分析の土台ができ上がります。リアルタイムかつ広範囲の会社業務データが一目で見られるようになるのは、SAP導入の大きなメリットです。

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書籍目次

第1章 SAPってなに?
1-1 SAPとは
1-2 SAP ERPが世界中で使われている理由
1-3 SAPを理解するために必要な3つの知識
Column SAPコンサルあるある
第2章 会社の業務を知ろう!
2-1 宅配ピザ屋の設定
2-2 宅配ピザ屋の業務内容
2-3 宅配ピザ屋の業務の流れ
Column SAPとスポーツ
Column SAPコンサルが取るべき資格
第3章 SAPモジュールってなに?
3-1 SAPモジュール一覧
第4章 材料の仕入れとモノの管理をしよう
ー MM(調達・在庫管理)
4-1 MM(調達・在庫管理)モジュールの業務
4-2 MM(調達・在庫管理)モジュールで使う組織
4-3 MM(調達・在庫管理)モジュールで使うマスタ
Column ABAPのプログラミングスクールがほしい
第5章 ピザを作ろう ー PP(生産計画・管理)
5-1 PP(生産計画・管理)モジュールの業務
5-2 PP(生産計画・管理)モジュールで使う組織
5-3 PP(生産計画・管理)モジュールで使うマスタ
Column SAPと英語
第6章 ピザの注文受付とピザの配達をしよう
ー SD(販売管理)
6-1 SD(販売管理)モジュールの業務
6-2 SD(販売管理)モジュールで使う組織
6-3 SD(販売管理)モジュールで使うマスタ
Column SAPコンサルとリモートワーク
第7章 店舗のお金を管理しよう ー FI(財務会計)
7-1 FI(財務会計)モジュールの業務
7-2 FI(財務会計)モジュールで使う組織
7-3 FI(財務会計)モジュールで使うマスタ
Column SAPコンサルとTwitter
Column SAPとRPA
第8章 店舗の経営状況を分析しよう ー CO(管理会計)
8-1 CO(管理会計)モジュールの業務
8-2 CO(管理会計)モジュールで使う組織
8-3 CO(管理会計)モジュールで使うマスタ
Column SAP Basisの仕事
Column SAPフリーランス
第9章 モジュール間の業務のつながり
9-1 モジュール間のつながり
9-2 MM(調達・在庫管理) ⇔ SD(販売管理)
9-3 MM(調達・在庫管理) ⇔ PP(生産計画・管理)
9-4 MM(調達・在庫管理) ⇒ FI(財務会計)
9-5 MM(調達・在庫管理) ⇒ CO(管理会計)
9-6 PP(生産計画・管理) ⇔ SD(販売管理)
9-7 PP(生産計画・管理) ⇒ CO(管理会計)
9-8 SD(販売管理) ⇒ FI(財務会計)
9-9 SD(販売管理) ⇒ CO(管理会計)
9-10 FI(財務会計) ⇒ CO(管理会計)
Column SAPのオフショア開発
Column 優秀な人ほど転職しよう
Column SAPの便利機能
Column PMOのお仕事
第10章 SAP導入のポイント
10-1 SAP導入プロジェクトは業務改革プロジェクト
10-2 SAP標準機能とアドオン機能を使い分ける
10-3 周辺システムと連携することも考えよう
Column SAPコンサル vs 社内SE
どっちのほうがスキルが伸びる?
第11章 SAP導入プロジェクト
11-1 SAP導入プロジェクトのフェーズ概要
11-2 企画・構想
11-3 要件定義
11-4 設計と開発
11-5 テスト
11-6 移行
11-7 トレーニング
11-8 運用保守
第12章 SAPのこれからの展望
12-1 2027年まで
12-2 2027年から① 今後増えてくるデジタル案件
12-3 2027年から② SAP社の周辺システム
12-4 2027年から③ ユーザー企業のデジタル化推進
12-5 2027年から④ SAPコンサル・SAPエンジニアの
ポジション取り

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