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12/25の詩





匂いのいい獣のようなクリスマスが横浜へ到来して、恵比寿を覆い、六本木で死んだ。24日だった。僕は意味もなく年明けのことを考えていて、夜景のようなグレープジュースを握りしめたままいくつかの川を越える。越えようというところだった。それからきみのことを少しだけ忘れた、5分、10秒、20年、


隣の上着に包まれた2人が、さっきから才能の話をしている。おわりのない、音楽のような光のなかで、今ここにいるすべての人の、すべての服が、それぞれに別々で唯一の観光目的地になるまでの過程を、勝手な緊張をまといながら静かにみている。クリスマスは死んだ。それを今、僕だけが知っている。街はとても美しくて僕はそれを残念に思う。


タイミングを合わせて幸せになりましょう、ときみが言うなら僕はそれに従うと思う、そのくらいのことはたぶん僕にもできるし、昨日から色んな人と四六時中目が合うような気がしているから。きっとそれが普通の、メリー・メリー・クリスマスだったのだ、少し前に息絶えた、あの内側から発光する、今となっては毛皮にすぎないクリスマスのことだ、


それをきみに打ち明けようか迷うのだけど、結局僕は何も言わなかった、その代わりに海老の形をしたフライドポテトや、ワインレッドのソースに浸したパンを、食べるふりをして少しずつ靴の中へ捨てることにした。クリスマスはもういないし、クリスマスはもう僕たちにとって、すでにひとつの法律だったから。


やわらかい、人工的な光の束が身体を貫く、なにかの等しい始まりの気配が、目にも止まらぬスピードでずっと、肌の隙間を満たしていく。みんな自分が、理由もなく美しいことを発見できないでいる。理由もなく、街は僕らに自分の形を保つための、だれかのことを選ばせる。そういう透明な重力の話を、僕は自分に言い聞かせる。きみは遠い、とても簡素な街の奥にとどまっていて、そこからひと続きのメッセージを僕に届ける、それが冷たい、画面の奥を雪のように横切っていくとき、たしかにひとつのクリスマスが死んだ、死んで、そこからは飛ぶように時間が過ぎた、

2023.12.25

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