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現実以上-日記未満


生活について。

     ○

他人からもらったお菓子を食べるとき、味を
迎える瞬間になんだかその人を食べているよ
うな妙な気分になって、じぶんの舌が繊細な
感度を備えはじめるから全然思うように味わ
えないことがある。だから食べずに置いてお
くか、人にあげてしまう。それは失礼だから
今すぐにやめなさい、とハムスターが言う。
それはたぶん仕方ないよ、とモルモットが言
う。ぼくは彼らを両手で抱き上げ、西武新宿
改札前の歩道へ逃す。ハムスターは新大久保
方面へ走っていく。モルモットは歩いて明治
神宮へ向かう。ぼくはGoogleマップをひらく。

     ●

嫌いではないけれど好きでもない、みたいなものにもっと真剣に向き合ったほうがいい。そういうものが寄ってたかって人間から貴重な時間をかすめとっていくから。でも貴重な時間なんて本当にあるのだろうか。もしも、それを貴重だと思うわたしたちの持ち時間が限られているためにそのようなアドバイスが生まれているのだとしたら一体どんな顔をすればいいかわからない。ともかく何かを正当に嫌いになるには筋力がいるのだと、アルバイト先が一緒だった年上の人が言っていた。一方で感情はグラデーションでもある。だからじぶんはいつも黒色のことをグレーだ、これはまだ一応グレーだ、などと思ってしまう。そういう判断にまごまごと時間を使いながら、この先もずるずると生きていくのかもしれない。そんなことを考えながら、キャンパスの端のため池に集まるコイの顔を眺めていた。夏がおわる。

     ○

恐怖や戦慄を観劇化したもの(ホラー映
画とか)が苦手なのに、それが訴えかけ
てくる威力の理由は知りたいから横目で
観て、それでいつも後悔する。これはな
にかに似ていると思う。


小雑誌{日日の灯}
第3号(2023.08.24発行)に掲載

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