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エッセイ集『海のまちに暮らす』(発売中)

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2022年に大学を休学し、真鶴町へ移り住んだ時の生活のことを書き残しているエッセイ集『海のまちに暮らす』。ここでは現在制作中の原稿を公開しています。2024年6月下旬に出版、発売…
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#note

『海のまちに暮らす』 その9 箱根一人旅

 箱根の仙石原に湿原の植物がみられる園のようなものがあり、行ってみることにした。箱根湿生…

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『海のまちに暮らす』 その8 ねこ先輩

 ねこ先輩に会ったのは春の午後だった。真鶴出版の二階で布団を干していたら、隣家の屋根の上…

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『海のまちに暮らす』 その7 港を歩く

 来る夏を迎え撃つためにエアコンを設置することにした。作業が済んだのは午前十一時、スマー…

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『海のまちに暮らす』 その6 畑をはじめる

 目覚めると顔を洗い、風通しの良い服に着替える。つばの広い帽子と長靴、軍手、麻紐。玄関を…

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『海のまちに暮らす』 その5 掃除をする

 海上を移動する雲の様子がなんとなく湿っぽいので、洗濯物は干さないことにした。こういう時…

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『海のまちに暮らす』 その4 泊まれる出版社、まち歩き

 真鶴には背戸道(せとみち)という、住宅の隙間を縫うような細い通りがあちこちに存在する。…

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『海のまちに暮らす』 その3 海のみえる図書館で働く

 朝、まだ暗いうちに目が覚めた。昨晩眠りについた時間はそれほど早くなかったが、こういう時は起きてしまったほうがいい。  湯が沸くのを待つあいだに雨戸を開ける。太陽はまだ薄紫の水面の裏へ沈んでいて、その輪郭からほとばしる熱のようなものが既に大気中にあふれている。マットレスを窓の桟から外側へ干す。  薄暗い机に戻って、MacBookを立ち上げる。この時刻の部屋に漂う淡い印象が好きだ。日がのぼる前、明かりのない室内に朝の光が横向きに細く、差し込む時間を愛している。日光というより

『海のまちに暮らす』 その2 19歳と東京と生活の記憶

 真鶴に来て、東京のことをより多く考えるようになった。不思議なことに東京で暮らすあいだは…

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『海のまちに暮らす』 その1 大学を休学する、東京を離れる

 細かな順番は忘れてしまったが、大学を休学することを決めたのは二〇二一年の秋口だった。そ…

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