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エッセイ集『海のまちに暮らす』(2024年6月中旬、刊行)

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2022年に大学を休学し、真鶴町へ移り住んだ時の生活のことを書き残しているエッセイ集『海のまちに暮らす』。ここでは現在制作中の原稿を公開しています。2024年6月に出版、発売予定… もっと読む
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記事一覧

『海のまちに暮らす』 その8 ねこ先輩

 ねこ先輩に会ったのは春の午後だった。真鶴出版の二階で布団を干していたら、隣家の屋根の上…

『海のまちに暮らす』 その7 港を歩く

 来る夏を迎え撃つためにエアコンを設置することにした。作業が済んだのは午前十一時、スマー…

『海のまちに暮らす』 その6 畑をはじめる

 目覚めると顔を洗い、風通しの良い服に着替える。つばの広い帽子と長靴、軍手、麻紐。玄関を…

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『海のまちに暮らす』 その5 掃除をする

 海上を移動する雲の様子がなんとなく湿っぽいので、洗濯物は干さないことにした。こういう時…

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『海のまちに暮らす』 その4 泊まれる出版社、まち歩き

 真鶴には背戸道(せとみち)という、住宅の隙間を縫うような細い通りがあちこちに存在する。…

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『海のまちに暮らす』 その3 海のみえる図書館で働く

 朝、まだ暗いうちに目が覚めた。昨晩眠りについた時間はそれほど早くなかったが、こういう時…

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『海のまちに暮らす』 その2 19歳と東京と生活の記憶

 真鶴に来て、東京のことをより多く考えるようになった。不思議なことに東京で暮らすあいだはほとんど東京のことを考えなかった。東京がどんな町であるかということの前に、自分はもう東京という場所に含まれていて不可分で、忙しくやらなければならないことや出来事が数多くあった。自分が今どのような町に住んでいるのかという問題はあまり重要でないように思えたし、誰もそんなことを訊ねなかった。それよりも誰とどんなことをしたか、その時何を言っていたかという瞬間的な情報が鮮やかな価値を持っていたような

『海のまちに暮らす』 その1 大学を休学する、東京を離れる

 細かな順番は忘れてしまったが、大学を休学することを決めたのは二〇二一年の秋口だった。そ…

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