2021年 劇場公開映画ベスト10

  1. ファーザー

  2. ドント・ルック・アップ

  3. ドント・ブリーズ 2

  4. 1秒先の彼女

  5. 花束みたいな恋をした

  6. 扉を閉めた女教師

  7. ザ・スイッチ

  8. 哀愁しんでれら

  9. プロミシング・ヤング・ウーマン

  10. マリグナント 狂暴な悪夢

年末に自分のFilmarksを見返してて、書いた感想を下記にいくつか選抜してみた。あと、ミッドナイト・ファミリーも良かった!

ファーザー

実家/アンの家/施設の3パートの間取りをシームレスに作り込んでいて見事なまでに錯乱された。ほぼ部屋のみの芝居だけれど人物のフレームイン/アウトが認知症視点では恐怖になり得ることや寝室から次女の病室への誘導もスムーズでよい。認知症視点だとこうも世界はミステリーになるのかという驚きを過剰に演出しておらず好感が持てる。再観して導線や装飾についても確認したい。症状を体験させる時間の飛躍、それを映画的省略として活用したのは発明と言って良い。時間と言えば、アンソニーを施設に入れるべきか否かを論争する娘夫婦とそれを聞いてしまうアンソニーのループ描写。娘夫婦の堂々巡りの議論とアンソニーのバグった時間感覚を同時に表してみせた視点の捌き方も見事。施設中庭の巨大オブジェは消えゆく記憶の象徴。クライマックスの抱擁は、介護士のキャサリンが母親に見えたのが本当に映画的。窓の景色以外は完璧かと。ラストショット窓からの景色は期待しちゃったぶん少々がっかり。生い茂る緑、、すごくわかるんだけど。タップしてる若きアンソニーとかでも良かったのかなと思う。最後くらいさりげなくドラマチックにしても全く問題ない。歩道で風船遊びをしていた少年をタップの練習にしとけばいい。アンソニーがタップをやっていたか否かは曖昧にさせといて(観客は下手なタップを見てどうせ虚偽なんでしょと思っているし)最後に本当だったのかと分からせれば良きじゃない?

ドント・ブリーズ 2

破水した箱からフェニックスを救出した盲目男は、彼女にとって二度目の生誕に立ち会った父親となった。“ひとりで歩ける”と自立するフェニックスは、早々に実母を見限っては繋がれた鎖(血)を切り落とす。真偽の狭間で葛藤を見せながらも決してくよくよしない、極めて潔いキャラクターの背中を押したくなる。1のオマージュもありながら前作に負けず劣らないアイデアも冴えている。暗闇やガラス天井に続いて、スモーク、火炎、水の波紋の演出も面白い。

1秒先の彼女

ドラマとは「コミュニケーションとディスコミュニケーション」である。

扉を閉めた女教師

城定さんは小道具から物語を構成するんだなと理解。70分だからその骨組がよく見えた。いじめられっ子どんだけ器用やねんとか多少の突っ込みどころはあれど冴え渡る技術に驚かされる。
倉庫に閉じ込められた日の夜、女教師はいじめられっ子を拒絶。ラブホテルで目覚めた女教師は不倫相手の同僚に「生徒とセックスする夢でも見てたんだろ?」と挑発される。ここで私は“女教師は潜在的にいじめられっ子との関係を密かに望んでいたのか”と推測したが、次シーンで明朝に倉庫で目覚める女教師に繋がるこのシーケンス。夢だと錯乱させて現実に戻すテクニックに思わず声が出た。同じ釜の飯を食うと云うが同じバケツに用を足す(共有する)ことでコミュニケーションを積んでいくエロチズムもグッド。それにしてもモチーフの転がし方がうまい。水、みかん、花火、水晶のネックレス…。惜しいのは、いじめられっ子がみかんを剥くとき果実を指で挿すヨリは欲しかった。そこで女教師のリアクションがあって発情する流れに進みたい。(追記)例えば外に吐き出した果実の種が排出した尿を肥料にやがて育つ樹木の話など、関係を持った二人の未来と背徳を想起させるような挿話があれば、帰ってこない女教師のオチでグッときたかもしれない。

ミッドナイト・ファミリー

エンタメ展開は無いもののメキシコシティにおける医療事情、行政機能の停滞、自己責任の複雑さを、ある家族の闇営業を通して赤裸々にしていく過程だけでエンタメになっている。フィクションにしたら闇救急隊版ナイトクローラーになる。
デブ次男、運転席と後部座席の間の隙間に絶妙な挟まってるの好き。営業許可証が無いので患者に請求しても警察に逃げられ支払われない場合があるの辛すぎる。
助手席に乗った患者の母親に真ん中に座ってくれと頼むが焦って真ん中に座れない。親父が運転席に乗り、長男が真ん中にずれる。いつも運転してる長男が車輌誘導と受入先病院への連絡を、親父が運転を。これを何の遣り取りも無しにやる連携プレイ。これは冒頭で見せてほしかった。死と隣り合わせの車に乗ってるのに、まるでアトラクションで騒ぐ子供のように次男坊たちが楽しんでるのも同じく。
ベテランである親父の手が震えていたのが印象的。深堀りされなかったが病気と関係あり?
搬送中、母子が横並びでストレッチャーに乗せられているシーン、ベルトで腕を固定されているので手を握ることができないとこもドラマになるよな。
警察に書類(許可証?)の提示を求められるシーンで内輪揉めしてたのは芝居?許可証なんて無いのにどこに仕舞ったんだと芝居を打ってた?だとしたらすごいぜ。
手持ちの画を極端に嫌うカメラなのでこれがドキュメンタリーであることを忘れる。特にカーチェイスシーンはエンタメ的な展開を期待してしまう。
現状を変える打開策を模索する暇もなくただ日々をこなす、その顔にお先真っ暗な不安が滲んでた。ただ、現状を受けるだけで問題に対してのアクションや抵抗が弱かった上に人物が見えてこなかったので心残り。

哀愁しんでれら

冒頭の災難シークエンス、間抜けな音楽、茶化してくる酔っ払いジジイに激怒する親父は飲酒運転だったことを自覚。10年交際を続けてきた彼氏の浮気、抜きの謝罪シーン。鹿のペニス、5円おにぎりで炙り出す娘の嘘、いちごパフェの苺の食べ方、他人の子供が乗るブランコを雑に押す、葬儀屋で働く親父の自慢、水と砂糖と塩の点滴。すごい笑っちゃってこんなん書いてみたいなと思った。なんかランティモスみたい。濡れ場ひとつとってもシチュエーションが歪だ。聴診器で鼓動を聞き合い、点滴しながらベットに傾れ込んだことでスタンドがジリリと引っ張られる。そして土屋太鳳はダークサイドの顔が似合うな。

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