ふとメモ#2

はるばらぱれ

粗品の新曲「はるばらぱれ」の歌詞にグッときた。本人もネタにしてる亡き父のことを歌った楽曲。一瞬戻ってこないかな、少しでいいから喋りたいな、麻雀できるようになったよ。という詩が続き、2番サビで「瓶ビール注いで欲しいな」と歌う。なるほど、注いで欲しい、か。闘病生活や人生を労う「注いであげたい」じゃなく「注いで欲しい」なのは何故か。粗品は仏壇に瓶ビールを供えられるんですよね。直接酌み交わすことはできないとしてもコップに注いで仏壇に供えることはできる。ただ逆はできない。父の手で注いでもらえない。だから「注いで欲しい」。成長を語りながらも、ふと息子としての顔を見せる瞬間にグッとくる。

プリン

あんまり喋ったことない上司を助手席に乗せて会社に戻る。沈黙を裂くように上司が口を開く。「こないだプリン作った」「プリンですか」「家にプリンの素いっぱいあって。娘が貰ってきた業務用のやつ」いま業務用って言った?「そうですか。娘さんいらっしゃるんですね」「喫茶店で働いてる」あ、それでプリンの素か。「あと大学通ってる」え。大学通ってることを補足した?娘は大学通ってて、あと喫茶店で働いてる。じゃなくて?まあ別にええか。「大学行ってバイトして大変ですねえ。プリンおいしく作れましたか?」「まあまあ」「なんか意外です。先輩が休日プリン作ってるって」「そう?」「イメージなかったです。プリン好きなんですか?」「いや食べたことない」こわ。「え?あ、娘さんに作ってあげたとか?」「そういう訳じゃないけど娘は食べなかった」「ということは奥様が?」「ん?」「あ、奥様が召し上がられたとか」「まあ妻に供えようかと思ったけど」「ごめんなさい」「気にしないよ」ちょっとインターバル。「そのプリンどうしたんですか?」「プリンっていうか、厳密に言うとプリンじゃないけど」は?「と言いますと」「プリンって2種類あって」人間には2種類いて、みたいな導入。「はい」「牛乳でつくるプリンエルと水で作るプリンミクス」「はい」「その業務用のやつ、牛乳でつくるプリンエル式だった」ちょっと待って。「水でいった」うそやろプリンエル水でいった?「それって固まるんですか?」「一応」「ああ」「そうそう、カラメル?ってのがあるのかな?」カラメル知らん?「ありますね」「知らなくて俺。写真でしか見たことないから」プリンの実物を回避してきた人生。「あれ海苔の佃煮だと思って」あかん。そんなことしたあかん。「え?」「佃煮乗せて」「はい」「さくらんぼ乗せて」「はい」「娘に出したら『これ犬の?』って」「犬?」「エサだと思ったみたい」「そう、ですか」「うん。で、静香…まあうちの犬にあげたら半分食べたから。『まあまあ』のとき半分食うから静香」「あ、さっきの『まあまあ』って犬の感想か」「プリン作るのって難しいのね」「先輩、さくらんぼだけです」「ん?」「さくらんぼだけです、合ってるの」「わかってる」でもちょっとだけ試したくなるのはなんでだろう。


むなくそわるい話

出張先でYouTuberの撮影に出くわした。頭にグラサン乗っけた40代の男と、小学校低学年くらいの女の子3人(うち一人がグラサンの娘ぽい)。グラサンが女の子たちに説明を始める。「今からイベント出るやろ?その主催者さんを呼び込んでほしい」主催者二人が横で見守っている。「元気よく呼び込んでや。『それではさっそく主催者さんをお呼びしたいと思います!』って。わかった?」女の子たちは「はい」と言って頷く。彼女たちの表情が暗く、体は硬直しているのは、グラサンの高圧的な話し方のせいだった。なんとも言えぬ緊張感が走る。「じゃよろしくお願いします」グラサンが主催者たちに頭を下げる。「ちゃんとハキハキな」グラサンは女の子たちを見ずに言う。「カメラ回った?はい。じゃ、よーいはい」横一列に並ぶ女の子。笑顔の準備が整わない。センターの子が口を開く。「はい。それではさっそく、主しゃい者の方をお呼びしましょう」「やりなおし」「はい。それではさっそく、す催さの方を」「だめだめ。あと笑顔で」「はい。それではさっそく、主催さの方を」噛んだとき、他二人の体がびくっとしたのが分かった。「どうしよっかな。まあでも言えるまでやろう」「ごめんなさい」センターの子が頭を下げた。主催者の方が「大丈夫だよ、リラックス」と微笑みかける。少し和む現場。「回ってる?じゃいこ」「はい。それではさっそく、しゅ、しゅ、さいさ」「ああだめ。ちょっと練習して」グラサンはカメラマンとその場を離れ、壁にもたれてアイコスを咥える。出演者とゲストを放置して現場を離れるディレクターがどこにいる。なぜ「主催者」にこだわる。もっと言いやすい「ゲスト」とかでもいいし別に言えなくても可愛げになるし。運営するYouTubeの宣伝プラカードを片手に「どうやったら伸びるんかな」愚痴と煙を吐き出すグラサン。伸びないのは全部お前のせい。女の子たちが不憫でならないよ。

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