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吉岡睦雄が覗いた『シュシュシュの娘』〜第三章: 古い舟をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう〜

第三章 「古い舟をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう」

9月下旬のクランクインまで二ヶ月強。この準備期間、監督やスタッフはやる事が盛りだくさんです。ロケハンやらロケセットの掃除やら小道具作りやらクラウドファンディング用のチラシ配りやら……。

特に今回は自主映画です。全て自分たちでやるしかありません。入江監督や学生スタッフ達もフル稼働していたみたいです。

では、出演者は一体なにをしているのか?
もちろん皆、脚本を読んでセリフを覚えるでしょう。
他にも。福田沙紀さんは入江監督と役の事で頻繫に連絡を取っていたそうです。
三溝浩二さんはとある場所に取材に行ったみたいです。すごい行動力です。
松澤仁晶さんと金谷真由美さんは連絡を取り合って色々話し合っていたみたいです。その話し合いは現場でもすごい威力を発揮しておりました。

「吉岡! お前は一体何しとったんじゃ?」
いや……僕だって……入江さんから貸してもらったDVDを観たりしました。
ちゃんと観ましたよ。これはとても参考になりました。
もちろんそれだけじゃありません。
他にも参考のために何本も映画を観たりしました。リストが残っています。
が……正直に言うと……。
今となっては何を参考にしたかったのかさっぱり分かりません。

・「地獄の黙示録」
いや、確かにすごい映画だけど……何で観たんでしょう?
カーツ大佐から何を学ぼうとしたんでしょうか?
あの頃の僕は、司とカーツ大佐のどこに共通項を見出したんでしょうか……
・「ドラゴンタトゥーの女」
いや、大好きな映画です。でも何でこれを観返したんでしょうか?
その時、僕が書いたメモにはこんな事が書かれています。
「タバコ買って一本だけ吸う(イライラ)」
「非社会性」
「騎乗位の強さ」
だから何なのさ……
まあ……結果的には……大して何もしてなかったという事になるんでしょうか。

8月下旬。俳優の松澤さん三溝さん金谷さんと顔合わせ。
僕は皆さんとお会いするのは初めてです。松澤さん三溝さんは過去に入江組に参加済み。頼もしき先輩たちです。
入江さんはその日は猛暑の中でロケハンをしていたみたいで、少し熱中症気味です……。
皆、この映画に対する意気込みが半端ないです。
気が早いですが全国のミニシアター巡りの時に、誰が車を運転するかとか話しました。確か……「じゃあ全部ドライバーは三溝さんで決定!」したような記憶があります。

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(左から、金谷さん、松澤さん、三溝さん)

9月頭。
福田沙紀さん根矢涼香さんと顔合わせ。
根矢さんとは初対面でしたが、とてもビックリしました。
あの若さにして考え方がとてもしっかりしています。まさに頭脳明晰。
福田さんとはオーディションで塩を投げつけて以来です。
この時に福田さんが話したお芝居に対する考え方? みたいな事は撮影中も
ずっと僕の心に残っておりました。すごく貴重な機会だったと思います。

映画の中では同じシーンに出演がない方もいるのですが、こうして事前に顔を合わせられるのは僕にとってはとても嬉しいことです。皆さんが今どんな事を考えているのか、感じているのかを知ることもできるし、現場ですごく過ごしやすくなるのです。

この二回の会合で少し気になった事があります。
二回とも入江さんが途中でボソッとこんな事を言いました。
「この何年かでハリウッドでも芝居の質が変わって来てる……」
「どういうことですか?」と聞き返せば良かったのですが……二回とも聞きそびれてしまいました。
とんだ失態です。
わざわざメールで質問するのもカッコ悪いし……Yahooで調べる事にしました。
「ハリウッド 演技 変わる」enter!
このことについては、改めて入江さんに聞いてみたいなと思っております。

「吉岡!Yahooで調べて、結局お前は最新の芝居を手に入れたんか?」
確かに……色んな記事を発見しました。
中には興味深い記事もあり……
「今回は自分なりに色々挑戦するぞ!」と決意を新たにしたのです。
新しい自分へのチャレンジ。
古くから知り合いの照明の高井さんは撮影後、僕にこう言いました。
「いやあ、いつもの吉岡さんでしたね! 良かったですよ!」

イン前の9/17。入江さんから動画が届きました。
スタンダードサイズで撮られたカメラテストの映像です。
学生スタッフの田中さくらさん達が出演者の代わりをしています。
なるほどスタンダードサイズだとこんな感じなのか……。
「ミッド90s」で観るのとはやはり実感が違います。
入江さんはこういうこまめな事をやってくれます。もしかしたら現場での演出よりも何倍も効果があるかもしれません。

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9/18、衣装合わせ。
衣装合わせはとても緊張します。
衣装が決まれば、もう役の99パーセントは出来上がってんじゃないかとさえ思う事があります。
衣装は小宮山芽似さんが用意してくれています。
正直に言うと……自分が思い描いてたのとは全く違いました。
「いやあ……これ…大丈夫かな……」と少し思いました。
現場に入って、僕の考えが全く間違っていたとすぐに思い知ります。
素晴らしい衣装でした。
こういう時自分の考えの浅さとか変な偏りを痛感します。

この時に髪型をどうしようかという話になりました。
入江さんが言いました。
「エグザイルみたいなのが良いですね。ツーブロックで。」
吉岡とエグザイル。
今まで決して交わる事のなかった二つの線が初めて交差した瞬間です。

9/20、表参道で髪を切りました。
美容師さんにはこう伝えました。
「エグザイルとブラピを足して二で割った感じで。」
そして出来上がったのがこれです。

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9/24、PCR検査。
この日の夕方には早速結果が出ました。
陰性。
そして夜は、遂にオンラインイベント。
正式に全出演者が発表されました。
出演者コメントに僕はこんな事を書いております。

「先に旅立って行ったあの人がいつもこっちを見ている気がする。
僕の事なんかそんなに見んでもええのに・・・。
ただただ銀幕で輝く事を願っていたあの人の目。

ゴキブリみたいにしぶとく生きろ。
もっと自由に。
もっと鈍臭く。
もっと遠くへ。

恥と冷や汗をいっぱいかきながら頑張ろうと思います。
スクリーンで会える日を心から楽しみにしています。」


そして、遂に怒涛の撮影が始まるのです。

第四章 「アラタとショウヘイとサキちゃんの国」へつづく


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映画『シュシュシュの娘』
8月11日(水)先行プレミアム試写会
8月22日(土)全国ミニシアター公開

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