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【詩】春から、夏から、秋から、手紙

そのひとは旅を愛する人でした
白詰草色の風が吹いたら笑顔で見送ります
旅立つ時は、町外れのいつもの切株です

そのひとは独りを愛する人でした
僕のとなりでさえ石造りの壁になる時
僕は気づかないふりしか出来ませんでした

そのひとは思いやりの深い人でした
晩餐会の招待状にきみだけは行けと言いました
ボクといるより仕合せになれるだろうと

城門の鉄柵は氷より冷たいけど
光り溢れる晩餐会にはもどりません
雪の上の足跡は弧を描いて城門へもどります

その人の手紙は
桜やわらかな4月の園から
薔薇かぐわしい5月の街から
捕虫網を置いてきた7月の野原から
波なごやかな9月の港から
虹はかなげな11月の谷から
届きます
色のない鉄柵へ





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[あとがき]
「ムーミン谷」の住人で、いちばん好きなのはスナフキンです。ということで、「そのひと」のモデルはスナフキンでもありますが、詩の世界はスナフキンとも「ムーミン谷」ともぜんぜん違います。ちょっとメロドラマになっちゃったかなあ。
「白詰草色」のシロツメクサとは、クローバーです。すきな色の風を想像してください。





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