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『悲劇と喜劇』/400字エッセイ
これまでに触れた良い物語を振り返ったとき、どちらかというと悲劇を評価する傾向にあった。
カタルシスという言葉があるが、悲しい物語を体験することで、心の浄化が得られる効果を指す。物語で味わった死の悲しみや凄惨な出来事によるショックを抜け、いざ現実に立ち返ったとき、明日を生きる勇気が湧いてくることは確かにある。とりわけ若い頃は、なにかと深刻に捉えた方が格好良いと思いがちではないだろうか。苦悩と無念に沈む己に憧れのようなものすら抱く。
他方で、喜劇は所詮ニセモノだと思っていた。人を笑わせることが目的の物語など、本質ではないと考えていたのである。考えが変わったのは、落語に出会ってからだ。滑稽なやり取りの中に哀しみを感じることがあれば、人情もある。喜劇もまた、人間の本質を描く一形態であった。
喜劇にせよ悲劇にせよ、優れた物語は自ずと両面の性格を持つ。二項対立にすること自体、意味がないことなのかもしれない。
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