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『食事』/400字エッセイ

一時期、寮に入っていた。住環境は控えめに言って最悪で、シャワーは止まるわ、エアコンは壊れるわ、それはもう大変だったが、何よりもまず食事が不味かった。

私は生まれてこの方、人様の作る料理に文句を付けたことがなかった。料理に得手不得手はあれど、曲がりなりにも自分のために作っていただくのである。多少米の硬さが好みじゃなかろうが、味付けが微妙だろうが、特に気にしたことはない。

そんな私が、寮の食事だけは不味いと思ったのだ。思っただけではない。同じ寮の人間とも確認し合ったし、寮外の人間にすら言いふらした。完全にアンチになるレベルで不味かった。

何が悪かったのか。一言で言えば、手抜きである。スーパーで買ってきただけの安い惣菜に、白米と具なし味噌汁。極端なときは本当にそれだけであった。

今の私が人一倍食に興味があるのは、間違いなくこの時期の反動である。ある意味、あの食事には感謝しなければならないのかもしれない。

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